外を歩けば顔がいい人とも出会う①
「どこか行くの?」
玄関で靴を履き替えていると、リビングから出てきた千咲が心配そうに声をかけてくる。
先程のことを心配してくれているのだろうと思った俺は千咲の方を振り向き、微笑みながら口を開く。
「さっきのことを気にしてくれてるのか?それなら大丈夫だから気にすんなって」
「はい?なに言ってるの?」
俺の言葉が理解できなかったのか、千咲は首を傾げながら顔をしかめてしまう。
予想だにしない言葉が返ってきた俺も思わず首を傾げて怪訝な顔を浮かべる。
「さっきのことを心配してるんじゃないのか?」
「するわけ無いでしょ。私はただただ自慢を聞かされただけじゃん。MINEの件についても勇の経験不足だし、そもそもイケメンを隠して生活する意味が私からしたら意味がわからない」
「そんなに言っちゃいますか……?自分的にはかなり重いこと話したつもりなんだけどな……」
唯一の理解者だと思っていた妹にそう言われてげんなりしていると、俺の方にゆっくりと近づき、顔を指差しながら忠告してくる。
「メイクもなしに外に出るの?」
お風呂も入り終え、メイクも完全に落とした俺は絶世の美男と言わんばかりのイケメン。
多分だが千咲は、俺がイケメンすぎるから外に出ると危ないよ?と心配しているのだろう。イケメンだと他の男に妬まれるかもしれないし、女にストーカーされるかもしれないからな。
改めてそうだと確信した俺はまたもや千咲の心配を解くように微笑みを向けながら口を開く。
「俺とて筋トレを怠っているわけではない。どんなやつが来ようが逃げることはできる」
「……もういいよ。いってらっしゃい」
そう言い残した千咲は俺の顔を見ることもなく、リビングへと戻っていく。
「お、おう。行ってきます」
姿が見えなくなった千咲に向けてそう言い放ち、ドアを開けて散歩を開始する。
なんで千咲はあんな機嫌が悪かったんだ?いつもなら「はいはい」って言いながらすぐに話しを終わらせにくるはずなんだけどな。
先程の千咲の態度が気になる俺は歩きながらそんな事を考える。
時刻は午後の九時を回っているのにも関わらず、商店街前のこの道では昼間と変わらない数の人たちが歩く。
それほどの数の中、メイクもしていないすっぴんのイケメンの俺は目立ってしまい、四方八方から視線が集まってしまう。だが、今はそんなことよりも千咲のことが気になってしまう。
いつもは明るい千咲がここまで機嫌が悪くなるのは珍しい。誰かと喧嘩したときですら俺の前ではヘラヘラしている千咲だぞ?本当になにがあったんだ……もしかして彼氏と別れたとか?いやでも千咲から彼氏のことなんて聞いたことないしそれはないか。
千咲のことを考え込んでいると、いつの間にか目的地である公園に到着していた。
目的地と言っても誰かと待ち合わせをしているわけでもなく、ただただ気分転換のためにここに来ただけだ。
俺は自販機で缶コーヒーを買い、ゆっくりと公園内を歩いて1つのベンチに腰を掛けた。
「ふぅ、落ち着くなー」
缶コーヒーの蓋を開け、一口だけ飲んでベンチに背中を預ける。
特に頭に血が上ることがあったわけでもなく、悲しいことがあったわけでもない。だけどたまには部屋でくつろぐよりも外でのんびりするのも悪くはない。
もう一度ため息を吐いて俺の視線は数十m離れているベンチに自然と動く。
そこにはパーカーの服を着た赤紫髪の美女が座っていた。
赤紫の髪、というのは思い出したくはないがアイツと同じだ。だが顔が──いや、すべてが違う。サラサラな髪に清潔感が漂う身のこなし、そして前髪の間から見えるパッチリとした目、それに似合うようにつけられている可愛い丸メガネ。
これまで生きていた中で見たことがない美しさを持っている女性に俺は目を奪われてしまう。
今までは俺が目を奪う側だと思っていた。もちろん今でもそうだと思っている。でもこの女性は格が違う。
思わずじっと見ていると、相手も何故かこちらをじっと見てくる。
もしかしたらこっちを見るなと思われているかもしれない。だけど男の本能が目を逸らそうとしない。
それどころか本能だけではなく、自分自身もこの俺の目を奪うほどの美しい女性から目を逸らそうとは考えもしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます