モテるのにも苦痛は感じる②
◇ ◇
「そういえば勇ってなんで陰キャの格好してるんだっけ?」
対面に座りあってカレーライスを食べている千咲に急に問われる。
そんな質問に俺は不思議な顔を浮かべ、スプーンでカレーライスをすくいながら聞き返す。
「言わなかったっけ?」
「言われてないよ?」
「言ってなかったか」
持ち上げたカレーライスを口に頬張り、そっとスプーンを置く。
「あれは確か……」
「そういうのいいから簡潔に言って?」
俺の顔を見向きもせずにカレーを食べながら回想を阻止してくる千咲。
冷たい妹に苦笑を浮かべ、スプーンで大好物のカレーをすくいながら口を開く。
「簡潔に言うと特別扱いされるのが嫌だったからだな」
「特別扱いと言いますと?」
「俺ってイケメンじゃん?」
冗談抜きで真実を伝えるように千咲の目をじっと見つめながらそう言う俺に対し、慣れているように「そうだね」と俺と目を合わせることも無く軽く流される。
そんな態度はいつもの事なので俺も気にせずに話を進める。
「俺ぐらいの超絶イケメンだと特別扱いされるんだよ──」
そこから始まり、俺は淡々と理由を説明していく。
──イケメンだと何もかもが許される。特に相手が女子だとよっぽどのことがない限りは全てが許される。もちろんそれをラッキーと思っている時期もあったさ。なにもしなくても女子は寄ってくるし、1週間に3回は確実に告白される、そんなハーレム生活も悪くはなかった。だけど俺の周りには女子ばかりで男子が集まることは無く、たまに近づいてきたと思えばおこぼれ狙いの奴らだけ。
MINEに中学の頃の友達が居ると言ったが、あれは強引に追加され「俺らって友達だよな?」と脅されたからだ。
カレーを食べ終えた俺は「ふぅー」と1つため息をつき、今は俺の目をじっと見ている千咲の顔を見返し、笑いながら話を続ける。
「そんな感じで中学までは普通の生活ができなかった俺は高校では普通の男子高校生になろう!ってなったんだよー。陰キャの格好が普通なのかは分からんが……前よりかは圧倒的にマシだな。こんな感じの経緯があって俺はあんな格好をしてるんだぞー」
それが話の終わりだと思い、俺は食べ終わったお皿を流し台の方へ持っていこうと椅子から立ち上がると、
「勇?そのMINEの友達消しときな?そいつら友達じゃないから」
「へ?」
いきなりの辛辣発言にピタッと体が止まってしまい、拍子抜けた声が漏れてしまう。
「そいつらもおこぼれ狙いのクソ野郎どもだから消しときなー」
「それまじ?」
首だけ後ろに向けて千咲にそう問いかけると、
「まじです。友達経験の浅い勇は分からないかもだけど、そいつら普通にクズだから消しときなー」
「お、おう。友達経験が少ないのは余計だけど千咲がそこまで言うなら消してもいいか。俺自身も中学とのつながりは消したかったし」
今度こそそれを最後に、俺は流し台に食器を置いて部屋へと向かう。
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