3/4
「ようし、それじゃあ王様ゲームでもやろうぜ!」
私にとってもはや
王様ゲーム……っていったいどんなことをするんだろうか。隣をチラ見すると、ジャスミンは「いえーい」と盛り上がっていて、対するツバキは私と同様知らないみたいで首をかしげている。
「ねえジャスミン。王様ゲームって?」
「わ、私も教えてほしいです」
「あーそっか。ふたりは知らないよね。合コンの定番中の定番だよー」
言うと、彼女はどこからともなく細い木の棒を6本取り出した(まさか、最初から用意してたの?)。そしてそのうち1本だけ先端を持っていたペンで黒く塗ってから、残りの5本には1~5の番号を書いていく。
「王様ゲームっていうのはね……この
「ふーん、それで?」
「王様は自分以外のメンバーに命令ができる。そうだなあ、たとえば1番が2番のほっぺにチューする、とか」
「なっ……」
なによそのハレンチなゲームは!!
「そっ、そんなのできるわけないじゃない」
「えー、ほっぺにチューくらい大丈夫だって。あと王様の命令は絶対だから」
「ええ……」
げんなりする私をよそに、作り終えたくじを番号が見えないように握りしめるジャスミン。もう酔っぱらってるんじゃないかコイツ。
「まあまあ。命令は軽いやつにするから、とりあえずやってみようよ、リンディちゃん」
「そーそー。やってみれば楽しーからさー」
ビルクさんともうひとりの男の人が言う。このふたりもなんというかチャラいなあ。合コン慣れしてる人ってみんなそうなんだろうか。
「なーにリンディ、もしかして照れてるのー?」
「いや、そういうわけじゃなくて」
もちろんそれもある。つ、つつ付き合ってもない人にほっぺとはいえチューしたりとか恥ずかしすぎる。そういうのはもっと段階を踏んで……ってそうじゃない。そういうことを言ってるんじゃないのだ。
私の視線の先。そこには黒髪の男。
そう、私が
もしアイツが王様になるようなことがあれば、どんな命令をしてくるかわからない。勇者への恨みを晴らすために、私が屈辱を感じるようなことを命じてくるかもしれない。それだけならともかく、魔王軍を復活させるための足がかりとしてこの町を手中に収めようとするかもしれない。
そうなったら、あの激しい戦いの日々が再び訪れる。平和を守る勇者としては、それは防がねばならない。
「みんな、準備はいいー?」
「オッケー!」
が、私が考えている間にふたりの幹事がゲームを始めようとしていた。あとに続く形で、他の人たちもくじの先を指でつまんでいく。
……ええい、こうなったら私が王様のくじを引くしかない! それで命令するんだ。魔王、グラジオにこの場でなにもしないように、と!
「それじゃあせーので引くよー? 王様だ~れだ!」
ばっ!
ジャスミンのかけ声と同時に、5人がくじを引く。
来い! 私に来い! 私に来いいいぃぃ!
念じながら、祈りながら。私は自分の手にあるくじを見る。そこには。
②
くっ、はずれた……。これまで数々の激戦を勝って生き残ってきた私が、負けたなんて。
だけどまだ望みはある。魔王が王様にさえなっていなければ、まだ勝機はあ――
「……ふっふっふ」
すると、不敵な笑みが私の思考をさえぎる。まさか、まさかまさか。嫌な予感が頭の中を駆け巡る。だけどそういうものは得てして的中してしまうのだ。
「王は……この俺だ」
黒く塗られたくじ、つまり王様を示すそれは魔王、もといグラジオの手にあった。
「あちゃー、グラジオさんが王様かー」
「おっ、やるじゃん」
「どんな命令するんだ~?」
記念すべき初代王様となったグラジオを
「命令か、そうだな……」
しかし私の思いもむなしく、再びニヤリ、と笑う。その表情はまさに極悪人そのもの。
ああ、終わった……。
「全員、デザートを俺にささげるように!」
高らかに命令を宣言した。
「…………は?」
思わず気の抜けたような声が出てしまう。
「な、なんだよ。ちゃんと命令しただろ。命令は絶対なんだろ?」
しん、と静かになる。そのうちこらえきれなくなったのか、ひとりずつ吹き出しはじめて、
「グラジオ、お前……」
「どんだけ腹減ってるんだよ……ぷぷ」
「おもしろすぎるよ、グラジオさん……」
「しっ、仕方ねーだろ! ここ最近ほとんどメシ食えてなかったんだから!」
爆笑の渦に包まれるテーブル席。そんな中、私は内心胸をなでおろした。
よかったあ、魔王がただの腹ペコバカになってて。
「んじゃまあ気を取り直してもう1回やろうぜ!」
いや、でも油断はしちゃダメだ。空腹を満たしたら今度こそは復讐を果たそうとしてくるかもしれない。
次こそは私が王様にならないと……っ!
「「「王様だ~れだ!」」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます