ミステリーコート

sharou

プロローグ

 昔から、が見えていた。

 気づけば、鬼ごっこをしていた友達が一人増えていたり、夕焼けの空に浮遊する奇妙な黒色の影を発見したり、何かの拍子に、人ならざる存在と偶然、目を合わせてしまう羽目になったり。僕の前に現れる彼らのイメージはそこはかとなくリアルで、時折、不快な臭気や音を持ち合わせていることもあった。そのたび僕は敏感に、彼らが放つ主張を嗅ぎつけるのだが、僕以外の人間にとっては、彼らは常に視えないものであり続けていた。

 視えないモノに遭遇したとき、決まってと言っていいほど、僕は何もしなかった。彼らを刺激しないように、認識しないようにと、湧きあがる恐怖心を必死に押さえつけながら瞼を閉じて、これは幻想なのだと自分に言い聞かせた。そうしているうちに、しばらくもすれば大抵、視えないはずのモノの姿はどこかに消えてしまっていて、僕は、近くにいる家族や友人に、大丈夫かと声をかけられていたものだった。

 僕が何もしないのと同様に、彼らの方も僕に干渉してくるようなことはしなかった。同じ空間を共有しているにもかかわらず、まるで異なる世界に住んでいる者同士のように、彼らは、そこに確かに引かれているらしい明確な境界線を踏み越えて、こちら側にやってくるようなことはしなかった。

 無邪気さを失いながら大人に近づくにつれ、僕は僕に纏わる視界について、無理やりにでも納得しようと決めつけた。だが、彼らについての科学的な根拠は見出せなかった。ともすれば、その根拠は専ら医学に求める他はなかった。精神疾患。すなわち、彼らは僕の脳内にのみ存在している、僕の臆病さが創りだした幻覚の類いに違いないのだと。

 視えないモノが見える僕は、世界の異端だ。

 そう心に説き伏せながら、今日まで生きてきた。

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