転生種強勢

真名千

転生種強勢

練丹術士フォックス・アインの手記


 転生者(ホムンクルス)(注1)の悪魔的利用方法について、最初に発見した人間は誰だったのか?資源が豊富で人口に乏しく、転生者生成の供物や赤ん坊からの養育費など高い対価を支払っても人手がほしかった国や地域と考えられる。

 だからこそ、この世界の人間と能力的に何ら差のない転生者を誕生させ、その転生者との間に子供を求めることまでしたのであろう。


 驚くべきことに転生者とこの世界の人間の間に生まれた子供は、両親より優れた資質をもつことが普通だった。身体能力や知能、芸術性など、大抵どこかで非凡な才能があり、平均から明らかに外れていた。

 その反面「合いの子」には次世代を作る力がなかった。合いの子同士・転生者・この世界の人間のいずれとも子供をなすことが出来なかった。(注2)



 合いの子に生殖能力がないことは転生者を呼び出した人口に乏しい地域の人々を落胆させたと思われる。しかし、今度は紛争地域の王侯貴族が彼らの高い能力に目をつけた。王侯貴族は能力に優れた合いの子を戦争や政治や外交に利用して、勢力拡大の野心を満たそうとした。そのために転生者と一族の人間を結婚させて子供を得、養育したのであった。(注3)

 合いの子はその才能を活かした活躍により表では「キングメイカー」と通称された。裏では書くのも憚られるような蔑称で呼ばれていた。嫉妬されやすい能力と出自から残念ながら自然なことであった……。


 転生者を性別で呼び分ける技術が開発されてからは、もっぱら男の転生者が錬成された。男のほうがキングメイカーの「生産効率」が良いからである。ただし、極少数の直系キングメイカーを好む王侯貴族は女性の転生者を錬成して庶子となるキングメイカーを産ませた。

 どちらにしろ転生者の扱いは「種馬」と変わらず、家畜に近いものがあった。どんなに衣食住の待遇がよくても、この世界生まれの奴隷より人間とは思われていないところがある。


 そのような待遇に不満を覚える転生者もいたが、子供と違って本人の能力は凡庸なので、影響力を行使できるとすればキングメイカーである子供を通じてだった。それを嫌った権力者によって転生者は我が子と引き離されるようになり、親子の人生にはますます悲劇性が高まっていった。(注4)


 一部のキングメイカーは転生者以上に不満を抱え込んでいた。どんなに自分の子供をほしいと望んでも、生まれつき得ることは叶わないのだから、血の繋がった後継者を得たいキングメイカーにとって、現実は絶望的である。普通に生まれ育っていれば特に子供を望まなかった性格の持ち主であっても、権利を奪われたという喪失感には心を蝕まれた。

 それでも大半のキングメイカーは親戚に当たる王侯貴族の当主を、その優れた能力で支えることで良しとした。(注5)

 中には結婚して養子をとることを許されるキングメイカーもいたが、能力に恵まれすぎたキングメイカーが養子といえども後継者をえることを望まない王侯貴族の当主も多かった。ともかくお家騒動の芽は徹底的に摘んでおかなければならないのだ。




 このような終わりの見えない抑圧に対して、我々(注6)がついに反旗を翻すときが来た。長年の研究により、キングメイカーに子供を残すことはできないが、転生者である親世代同士なら子供を作れることを私は確認した。

 我々を道具にする連中の血を残すよりは、転生者の血を残す方がよっぽどいい。邪悪な者共を滅ぼし尽くし、我々キングメイカーの手で新しい社会秩序を打ち立てようではないか。

 すでに複数の同胞が私の考えに賛同し、密かに決起の準備を進めている。力を持つ我々が共謀すれば偽りの戦争を引き起こし、指揮する軍隊を肥大化させたうえで、その軍勢を使役者たちに向けることも可能になる。

 軍事を人任せにしていた連中に立ち向かう術はない。我々は必ずや勝利し転生者の国を建てるであろう。(注7)




手記を入手したモンサント伯(帝室科学アカデミー)による注記


注1:錬丹術士たちが人造物と思い込みホムンクルスと呼んだ人間は、ある特定の異世界から呼び出された転生者であることが判明している。

注2:これはロバとウマの雑種であるラバの例によく似ており、転生者とこの世界の人間は交配可能な関係ではあるが別種と考えられる。

注3:転生者と結婚させられるのは政略結婚には向かない、文化人類学風にいえば「交換財としての価値が低い」一族の人間であったという。

注4:とはいえ大半の転生者は生まれてからずっと、そのように育てられ、食べるものにも寝るものにも快楽にも困らずに生きていられたので、自らの地位に安穏としていた。仮に前世の記憶でもあれば、また違っていただろうが。

注5:まるで子供を作れない働きアリが母や姉妹に当たる女王アリに仕えるようである。

注6:手記の著者はキングメイカーである。該当する人物には複数の候補があり正体は不明。

注7:実際には全てのキングメイカーが反乱軍に与さなかったため、完全に一方的な展開にはならなかった。だが、事前の準備や暗殺によって戦場になった地域は酷い混沌に突き落とされ、人口の3分の1が失われ、土地の生産性が回復するまでに100年掛かったと言われる。最終的にキングメイカー軍は敗れ、転生者を呼び出すことは禁止されたが、山間地帯に転生者の子孫が住む隠れ里が今も残されているとの噂がある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生種強勢 真名千 @sanasen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ