うさぎ雲

しらたま*

うさぎ雲


「はぁ……何かいい事ないかな……」


 空を見上げて、毎日毎日そう思う。

 青い空の中に、ゆっくりと流れる雲。


「うさぎっ!おねえちゃんは、なにみえる?」


 缶コーヒー片手に、公園のベンチに座っていた私に向かって、クマのぬいぐるみを持った小さな女の子が声を掛けてきた。

 どうやら、雲の形がうさぎに見えると言っている。


「おねえちゃんも、いま、おそらみてたでしょ?なにかみつけた?」


 ワクワクとした表情で、その女の子は私を見る。


「えっとー……」


 そう言いながら空を見上げ、雲が何に見えるかを必死で考えた。


「うーん、そうだなー……あ、ひつじ!ひつじさんが沢山いるよ」


 女の子は、また空を見上げた。

 そして、右手を上げて空を指を差した。


「ほんとうだ!ひつじさんたくさんいる」


 女の子はそう言って、嬉しそうに飛び跳ねる。


「ひつじさんいっぱい、かわいいかわいいね。あ、ママ!」


 私に話し掛けた直後、女の子のお母さんらしき人がこっちに向かってくるのが見えた。


「おねえちゃん、ばいばい」


 女の子は、急に来て急に去っていった。

 一瞬の出来事に驚きつつも、私はまた空を見上げる。


 空を見上げていると、頬に優しく触れるかのように心地よい風が通り過ぎた。


「あ、うさぎ」


 空を見上げていたら、さっきは見えなかったうさぎの形をした雲がハッキリと現れた。


 思わず出た言葉に自分でも驚き、誰にも聞かれていないか周りを見渡した。


 聞こえるであろう範囲内には誰もおらず、安心して缶コーヒーを1口飲む。


 ほっと一息つくと、なんだかいつもより気持ちに余裕ができ、楽になった気がした。


「あれは、クマかな。さっきのぬいぐるみみたい」


 また雲を眺めながら、仕事の合間の休憩を満喫する。


 陽射しが暖かく、体がポカポカとしてくると眠気が襲ってきたが、休憩もそう長くは無い。


 両手を組み、腕を上に伸ばして、軽くストレッチをした。


「よしっ」


 いつもならもっとだるい休憩後も、今日は少し体が軽い。


 毎日、休憩中でも仕事の事ばかり考えていて、ここ最近の休憩が休憩では無い気がしていた。


 しかし、今日は何か違った。

 突然現れた女の子に感謝だと思った。


「ありがとっ」


 私は、空に向かって小さくそう呟いてその場を離れた。



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うさぎ雲 しらたま* @menma88

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