リガとリンゴと美味しい食事(ラトビア)

 ラトビアの首都リガの空港はコンパクトで清潔感があるのだが、ふいにYAKUZAという日本食(?)レストランが現れて我々は度肝を抜かれた。店名に反して造りはおしゃれなカフェ風で且つ家族連れで盛況だったので、店名の意味を知っている我々はちょっとモヤっとしながら横目に通り過ぎた。

 まだ少し残暑の漂うシルバーウィークの東京からフランクフルト経由でリガの街に辿り着いたのだが晩秋と言って良いくらい寒く、出番を疑っていたダウンコートは到着後すぐに出す羽目になった。だが空は秋晴れで街路樹の黄色やオレンジといった彩豊かな葉っぱが水色の空の色に映えて美しかった。

 

 ホテルからリガの中央市場までは散歩がてらに歩いて向かった。味のあるレトロな路面電車が時折私たちを抜かして行った。中央市場はむかし飛行機の格納庫として使用していた建物を市場として利用している。広さもさることながらかまぼこ状になった屋根が4つ連なった姿は外から見ても面白い。また中は広々としていて歩きやすく、雑然とした市場のイメージよりデパ地下のような雰囲気だ。

 良い匂いで誘惑してくるデリや郷土菓子に心惹かれるが、私たちのお目当ては蜂蜜。花の種類ごとに分けて並べられた中からいくつか味見をして、蕎麦の花とアカシアの蜂蜜を買った。蕎麦の方は800gくらいの瓶詰めで凡そ6ユーロ、日本では考えられないくらいの安さだった。色は黒に近い茶色で、味は濃厚。少し苦味と渋みがありクセが強い。養蜂家が直売しているから瓶の形も大きさも量も様々。商品のようにキレイに濾されていない野生味溢れるところも良い。

 

 市場には食材が多種多様豊富にある。野菜や果物はもちろん、種類に富んだ肉類、鮮魚や干物や貝といった魚介類や乾燥キノコなどの乾物、お茶コーヒーなどの嗜好品。これだけ食材があると言うことはきっと食にうるさい国民性のはずだと、勇んで“LIDO“を訪れた。LIDOはラトビアのファミリーレストランで、自分でトレイを持って好きな料理を皿にとる(物によりスタッフに取り分けてもらう)半ビュッフェスタイルだ。食べる前に会計をするシステムなのでチップを気にする事もなく気軽に入りやすい。また色々な料理を少しづつ試せるところも気に入った。スイーツも充実しているのでカフェとしても使える。実際ケーキを沢山テーブルに並べた女性同士のグループも多かった。

 私たちも目移りしながら色々皿に盛った。ヨーグルトっぽいドレッシングに和えたサラダ、ミートボールのトマト煮込みやビーツのスープ、白身魚のクリーム煮にハーブで味をつけたポテトフライなど、さすがどれを食べても美味しい。味付けは薄くもなく濃くもなく野菜もふんだんに使用しているので日本人に馴染みやすいのだと思う。リガに滞在中の食事はほぼLIDOで済ませた。


 さてリンゴの話。ホテルの目前にある車道の向こう側の歩道は端が少し草地になっているのだが、そこにトラックのコンテナをひっくり返したような大量の、本当に大量のリンゴが転がっていた。そこには数個だけ枝にリンゴを残した細い木が一本だけあり、どうやらその木から落ちたと思われるのだが…それにしても大量のリンゴ林檎りんごの山。一本の木で育てるのは不可能だろうという量だ。

 赤く熟していて食べ頃。拾って良いものなら少しでも食べて差し上げたかったのだが、地元の人が何事でもないようにスルーして通り過ぎていくので我々も拾うことすら出来ずただ歩道を転がるてんこ盛りのリンゴを眺めるだけだった。

 ただのリンゴかよと思うかもしれませんが、ただのリンゴが道端の一角に大量放置されている姿は、その背景を考えると何となく怖くないですか?

(2018年9月渡航)


 


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