美味しいリスボン(ポルトガル)

 ユーラシア大陸の最西端にあるロカ岬に立ち大西洋を眺める。アジア、ヨーロッパを含む巨大な大陸の一番端っこ。…なのにイマイチ感動できなかったのは私の感受性の乏しさなのか、それとも海に囲まれた島国に住んでいるゆえの哀しさか、とにかく「ふーん」という感じだった。


 だがリスボンに戻る途中で食べたランチには感動した。カルネ・デ・ポルコ・ア・アレンテジャーナは「肉と貝の煮込み アレンテジャーナ風」という意味で、中身はぷりぷりのアサリと豚肉を炒め煮にしたもの。アサリの旨味の効いた出汁をたっぷり吸った柔らかい豚肉がパプリカや香菜のエキゾチックな香りを纏い、更にレモンまたはライムの爽やかな風味が舌を飽きさせない。初めて食べる味なのだがなぜか食べ慣れた感じがする。豚肉、アサリ、という馴染みの食材に加え、どこか発酵食品を思わせる酸味が日本人に合うのだろうか。(刻んだピクルスのようなものが入っていたような気もする) 汁を吸った付け合せのポテトまですっかり平らげてしまった。

 カステラに代表されるように歴史上ポルトガルと日本では共通する食べ物が多いという。だからだろうか海産物の料理も多く味付けもどこか共通点があるような気がする。おかげでリスボン滞在中に食事に飽きることはなかった。イワシの炭火焼きと白いご飯を観光地のど真ん中で食べたし、タコの煮つけと海鮮出汁の雑炊をお洒落なレストランで食べた。デザートのチョコレートプリンは甘すぎて量も多く、そこでようやく「ああ海外だな」と感じたくらいだ。

 私は下戸で飲めないが、きっとワインも美味しいのだろう。

 

 食以外でお勧めしたいのはリスボンの近くにあるレガレイラ城。定番の観光地ではないのだが、建物や庭にカラクリが仕掛けてあって面白い。ユーモアセンスに長けた大富豪の道楽で造られたらしい。

 礼拝堂の地下へ降り迷路道を進むと離れたところにある城の中へ出てきたり、カラクリ扉の様な出入り口が思いがけないところにあったり。らせん状になった長い階段は苔むして映画のセットのようにミステリアスでまるで魔法使いの城に迷い込んだみたいだ。らせん階段の先は真っ暗な地下迷路になっていて、迷いつつそこを抜けると知らないうちに地上の池のほとりに出てくる。

 美しい庭園の花を眺めながら散歩できるので大人も子供も楽しめる場所だった。

 もちろん有名な観光地にも足を運んでいる。大航海時代を記念した記念碑、ゴシック・マヌエル様式を備えた華麗な装いのベレンの塔とジェロニモス修道院、坂の旧市街を見下ろすサンタ・ジュスタのエレベーターなど一通り訪れたのだが、ジェロニモス修道院をカメラに修めながらもつい近くで売っているエッグタルトの香りに足が向いてしまう。このパステイシュ・デ・ベレンのエッグタルトは、パイがサクッとした歯応えで香ばしく、中のカスタードは卵と砂糖の甘さが絶妙、カスタードが得意でない私でも一度に二つは食べてしまう美味しさだった。

 

 またポルトガルは缶詰製品も有名。トマトとガーリックで和えた鰯の缶詰など、出してそのままオードブルにできそうな凝った商品も多い。

 今思い出しても歴史的建造物より美味しかった料理を思い出してしまう。花より団子の旅だった。

(2015年渡航)

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