ダブリン(アイルランド)
アイルランドの象徴はグリーンだ。雨が多いおかげで木々の葉は絵の具で塗りこんだように濃く色づき、草地の黄緑は鮮やかに揺れ、モスグリーンの列車は海沿いを長閑に走る。3月17日の聖パトリックデイにはダブリンの町がグリーンを身に着けた人々で埋め尽くされる。
ヨーロッパの端の小さな島国に行ってみて私は少し日本と似ているところがあるように感じた。人柄はシャイだけど実はとても優しいし、全てにおいて良い意味の素朴さを感じさせる。いかつい顔をしたパン屋のおじさんは「これがお勧めだよ、食べてごらん」と武骨な形のスコーンを目の前に出してくれたし、シンプルにバターだけで食べるのが一番だとも教えてくれた。名物のアイリッシュシチューにも豪華さはない。中身は野菜と羊肉と塩コショウのみ。だが少し酸味のある味はまるで実家の味噌汁のように身体をじんわりと温めてくれた。
敬虔なカトリックが多い国だからか、教会や城も至るところにある。石を積み上げただけのシンプルな造りで全体的に小規模で円筒形のものも多い。絵本に出てくるような可愛らしい様相をしている。更にその敷地を囲っているのは木を組んで作った柵だ。
街中を流れるリフィ川沿いには、色鮮やかな花を飾ったアイリッシュパブが並ぶ。彼らはパブでギネスビールを飲みながら聴く音楽と、友人とのお喋りをとても大切にしていると聞いた。ギネスビールのシンボルマークのハープは、アイルランド最高学府トリニティカレッジで見ることができる。この大学の図書館は圧巻だ。7-8メートルはありそうな本棚の床から天井までびっしりと本が詰まっていて、なるほどノーベル文学賞を多数輩出しているのも分かる気がした。
歌手のエンヤはアイルランド出身だ。青い空、アイリッシュ海のブルーグレイ、そしてエメラルドを思わせるグリーンが溢れたこの国に、彼女の美しく透き通った声はよく似合う。
(2014年渡航)
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