第6話
青い色を基調とした部屋はあまり子供部屋という雰囲気はなかった。
小さい子供は生前の施設で多少関わったけれど、汚して散らかすばかりだった気がする。
メイドなどが掃除をするのもあるだろうけれど、子供らしいおもちゃとかそういったものが見当たらなかった。
まああまりヘルヴィルが興味を示さなかったことが原因かなとはうっすらと思う。
日がな一日ソファーに座ってぼんやりしてるような過ごし方だったようだ。
記憶に残る日常に楽しくなさそうと、うっかり思ってしまったのは許してほしい。
壁際にある飾り棚に何冊か本が並べられているのを見つけて、ヘルヴィルはほてほてと近寄った。
ヘルヴィルにも持てそうな薄い本を一冊手に取る。
表紙に絵がでかでかと描いてあるから絵本なのだろう。
ぺらりとめくり、やはり大きな文字と色とりどりの絵に絵本だったと頷く。
そしてさらにもう一ページと紙をまくったけれど。
「……よめない」
まったくわからなかった。
「もじ……いちからおべんきょうかあ」
ううーんと眉を寄せてしまう。
物覚えのいい方ではないので、勉強することは嫌いではないけれど、なかなか身につかず苦労した前世にげっそりしそうだ。
「こんかいはきおくりょく、いいといいな」
前世の自分の脳みそには期待できないので、今生の体に期待するしかない。
「もじおぼえたら、ほんよめるようになるよね。たのしみ」
施設には本なんて数えるほどしかなかったし、取り合いだった。
近所に図書館なんてものはなかったし、中学までは学校のあとは施設で年下の世話、高校からはバイトで忙しくて学校の図書室には行ったことがなかった。
ゲームのことを教えてくれた女の子はオタクというもので、漫画や小説なども大好きなのだと熱く語っていたのだ。
読んでみたいなと興味はあったけれど、結局叶わなかった。
さすがに漫画はないだろうけれど、それ以外の本なら文字さえ覚えたら読めるかもしれない。
「ずかんとかもみてみたいなあ」
とりあえずエイプリルにでも今度、絵本を読んでもらおうと決めて手にしていた本を棚に戻した。
「んむ、ねむけなくなっちゃった……」
ベッドでお昼寝しようと思っていたのだが。
「ひなたぼっこしたら、ねむくなるかな」
絶対今寝なくてもあとで眠くなるやつだと思い、それなら眠くなることでもしようかなとヘルヴィルは大きな窓の方へ視線を向けた。
大きなガラス窓の向こうには広々とした庭園が広がっている。
ヘルヴィルは屋敷内すら出歩かずに自室でじっとしていた引きこもりなので、庭に出た記憶はない。
ついでに言えば前世住んでいた施設にも庭はなかったし、町も緑のない無機質な地域だったので縁遠かった。
「いくしかないのでは」
ふんすと鼻息を出すと、ヘルヴィルは窓によたよたと近寄った。
ガラスを押してみる。
「あれ?」
びくともしないので、今度は体ごと押してみた。
「あかない……」
ヘルヴィルの体が小さすぎるのだろうかと、首をかしげる。
どうしたものかと思ったけれど、そういえば戻ってくる廊下の途中で外に出れそうなところがあったと思い出す。
もはや使命感に駆られてしまったヘルヴィルは、バランスの悪いてちてちとした歩みで部屋を出てしまった。
実はヘルヴィルは自室からまったく出ないし、自室にいてもソファーに座ってじっとしているのが通常形態の子供だったので、エイプリルを筆頭につけられている侍女たちは引っ付いていなくてもいいだろうと、他の業務に駆り出されていた。
しかしヘルヴィルの記憶では侍女がいないのが当たり前だったし、前世では使用人なんて縁がなかったので本人は何の不思議も不満もなかった。
そんなわけで二歳のヘルヴィルは意気揚々と自室を出て、庭に続くテラスへと足を踏み出し広大な庭へと散歩を始めたのだった。
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