第1話 炬燵
長めの睫毛に覆われた瞳が潤んでいる。
幾つかの光を分散させ、心に入り込んでくる。
「啓二さん・・・」
ため息に似た声は、甘い香りと共に男の耳元をくすぐる。
身体が痺れているかのように、抵抗する力が失せていく。
男の股間が熱くなっている。
ただ、見つめられているだけなのに。
身体中の血液がまるで沸騰するかの如く、駆け巡って行く。
(ダ、ダメ・・・だ)
短く刈り込んだ襟足から覗かせる耳が白く、余りにも白く写る。
小さな唇がぷっくりと皺を作り、微かに濡れて光っている。
「啓二さん・・・」
更に甘い吐息が近づいて来る。
細い指が男の胸を伝って行く。
ゆっくりと這うようにシャツのボタンを一つ、二つ外すと白い蛇が入り込んでくる。
砂時計が逆流するかの如く、細かな快感が湧き上がってくる。
(だ・・・ダメ・・・だ。
こ、これ・・・以上は・・・)
唇が近づいてくる。
潤んだ瞳は睫毛で覆われ、その端に涙が滲んでいる。
(美しい・・・
な、何て・・・可愛い・・・んだ)
男の逞しい腕は、いつの間にか細い肩を包むように抱きしめている。
唇が重なる。
やわらかかった。
小さな舌を捕まえると、思わず吸い込んでしまった。
「アッ・・・」
僅かに開いた歯の隙間に素早く進入すると、夢中で貪っていく。
(美味しい・・・。
もう・・どうなっても・・いい・・・。
好き・・・だ・・・)
男の手は、何かを捜すように這っていく。
一番熱い場所を見つけると、指を滑らせるように入っていった。
絡みつく茂みを掻き分けて進むと、遂にそこに辿りついた。
(あつ・・・い・・・)
男は、それをシッカリと「握り」しめた。
「ええっー・・・?」
※※※※※※※※※※※※※
汗が、したたり落ちてくる。
目の前がボンヤリと霞んでいた。
男は大きく目を開いたまま、荒い息を吐いている。
書類が散乱している炬燵の上に顔を乗せたまま、男は夢と現実の境目で頭を混乱させていた。
唇に柔らかな感触が、まだ残っていた。
白い肌の残像が目に焼き付いている。
そして手に握られた熱いものも・・・。
そこまで思い出すと男は慌てて立ち上がり、洗面所で顔を洗った。
冷たい水を何度も顔に叩きつけている。
顔も拭かずにびしょ濡れのままカウンターに手をつき、鏡を睨みつけている。
少し、痩せたみたいだ。
目の下に大きなクマを作らせ、不精髭がそれに続いている。
ここ連日の忙しさと悪夢が男を憔悴させていた。
(もう・・ダメだ・・・)
男の神経はバラバラになりそうであった。
急に寒さを覚えた。
全身が汗でビッショリ濡れている。
男が着替えるため服を脱いでいくと、下着が別のもので濡れているのを知った。
それを眺めながら、呆然と立ち尽くしている。
(何とか・・しなければ・・・)
男は心の中で言葉を繰り返すだけだった。
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