金の斧、銀の斧
神在月ユウ
ケース1 木こりは脳筋だった
とある村に、木こりを生業としている青年がいました。
青年は裕福ではありませんでしたが、どうにか日々を過ごすことができていました。
木こりの収入はほんの僅かです。
一日に二度、仕事の前と途中で僅かばかりのパンを食べ、あとは仕事をするか寝るだけが青年の毎日でした。自分一人が暮らすので精一杯で、とても所帯など持てはしませんし、そんな彼のもとに嫁いでくるような女性もいません。
そんな、いつも通りの日のことでした。
「ふっ―――!ふっ―――!―――っあぁ!!」
青年は木に斧を入れているときに、手を滑らせてしまいました。
拍子に手からすっぽ抜けた斧は、近くの泉にボチャン、と落ちてしまい、見る見るうちに沈んでしまいます。
「ああ、どうしよう…、斧がなければ仕事ができない……」
青年には新しくもう一本斧を買う余裕などありません。その日を暮らしていくのが精一杯の生活なのです。
青年がしばらく途方に暮れていると、泉の中から美しい女性が現れました。
「私は泉の女神です」
女性は青年に話しかけました。
「あなたが落としたのは、この金の斧ですか?」
泉の女神はきらきらと輝く金の斧を見せました。
「いいえ、そんなきれいな斧ではありません」
青年は正直に答えました。
「では、この銀の斧ですか?」
泉の女神はきらりと光る銀の斧を見せました。
「そんなきれいな斧でもありません。わたしが落としたのは只の鉄でできた斧です」
青年は正直に答えました。
すると、泉の女神はにこやかに笑い、
「あなたは正直者ですね。では、あなたが落とした鉄の斧と一緒に、この金の斧と銀の斧も差し上げましょう」
青年は大いに喜びました。
「ありがとうございます。落とした斧だけでなく、新しく二本も斧を貰えるなんて」
青年は喜び勇み、すぐに仕事を再開しました。
「ふっ―――!ふっ―――!―――っあぁ!!」
青年が再び木を切るために斧を振ると、なんと、手にしている金の斧の刃が歪んでしまいました。それどころか、24金でできた刃先はすぐに潰れてしまい、斧として役に立ちません。
「軟な斧だなぁ」
青年は、今度は銀の斧を振りかざし、木を切り始めました。
「ふっ―――!ふっ―――!―――っあぁ!!」
青年が再び木を切るために斧を振ると、なんと、手にしている銀の斧の刃が歪んでしまいました。金の斧と同じように、純銀でできた斧はすぐに使い物にならなくなってしまいました。
青年はすぐに泉の女神に向かって頼みました。
「すみません。金の斧と銀の斧では仕事にならないので、代わりに鉄の斧を二本いただけないでしょうか」
泉の女神はどこか困った笑みを浮かべながら、さっきあげたばかりの金の斧と銀の斧を受け取り、代わりに鉄の斧二本を青年に差し出しました。
「あの…、本当にいいんですか?鉄の斧で…」
「ええ、もちろんです」
「ほんっとうに、いいんですか?」
「え?はい、いいですけど」
「あとでやっぱり…、とかはなしですよ?」
泉の女神は何度も確認を取りますが、
「もちろんです。ありがとうございます!」
青年は大変嬉しそうに二本の鉄の斧を受け取ると、仕事に戻っていきました。
青年は三本の斧を持つことで、もし一本が壊れても仕事に困らないぞ、と心に余裕を持つことができたので、今まで以上に仕事に打ち込むことができました。
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