第22話 追手

「今更だがフェンリル」


俺はフェンリルに声をかけたが


「フェルとお呼びください」


と、そう言われた。


「フェル?」

「はい。私のニックネームです。大魔術師様が付けてくれたものです」

「そうなのか、ならフェル。その大魔術師のところに案内して欲しい」


フェルがもう死んだ公爵への忠誠を見せるつけるためか、一応暴れていたので俺は街を出るまでこれからのことを話していなかった。


「大魔術師様になんの用なのでしょうか?」


俺はフェルには話しておくことにした。

どうせこれから大魔術師にも話すことだ。


「女神クオンの特性である【七色のヴェール】の破壊方法」

「……」


俺を信じられないような目で見てくるフェル。


「あ、あの女神に挑むおつもりなのですか?」

「あぁ。あれの破壊方法を戦ったことのある大魔術師なら知っているのではないか、と思ってな」


そうしてフェルと話しながら森の中を走っていたとき、


「はぁ……はぁ……ご、ごめんなさい……」


フェルの息が上がったようだ。


「すまないな。馬でも連れてきたら良かったな」


俺は基本的に徒歩での移動だったが、女の子にはこの長距離の移動はキツイのかもしれないな。


「い、いえ」


首を横に振る彼女。

今までの生活がそうさせるのか


「足を引っ張らないので進んでください。はぁ……は、走りますので」


そう言ってくるのでまた抱き抱えるのだが、そのとき


「ゆ、ユーカ様!なにか、聞こえます!」


と俺に忠告してくる。


「なにか?」

「お、追っ手です。フェル達を追ってきているようです」

「誰が追ってきているかは分かるか?」


フェルが耳をピクピクと動かして俺に教えてくる。


獣人の少女。

その特性のせいで、耳がよく、かなり広範囲の音が聞こえるのだろう。


「敵の数、5,6,7,……15人はいます。この声は」


フェルは一度耳を立てるのをやめて俺に言ってくる。


「じゅ、呪術集団【カーズ】のリーダーであるグリッソの声です。に、逃げましょう」


そう言って俺の手を引いてくるフェル。


俺としても別に因縁があるわけじゃないし、無視して進んでもいいが。


「奴らは俺たち同様徒歩なのか?」

「う、馬です」

「俺は逃げれるとしてフェルはどうするつもりだ?」

「フェルを置いて行ってください。彼らの狙いは私でしょう。衆目の前でミストラル一の剣士と呼ばれた私を倒す、その名声が欲しいだけですので」


自己犠牲、というやつか。

会ったばかりのやつにどうしてそこまで尽くせるんだろうな。


まぁ、それは俺もそうだが。

でも俺には色々と事情がある。


原作では名前だけ出てきて死んでいた少女。


この子を生かすことができたら、俺はこの後も原作のストーリーをぶち壊して進んでいける、という確証を得ることができる。


なによりこの子なしで禁断の地に踏み込むのは気が進まない。


ならば、俺の答えは決まっている。


「迎え撃つ。頭領のグリッソとやらをここで、排除する」

「お、おやめ下さいユーカ様。グリッソは頭の切れる男です。呪術、幻術にも長けておられます。き、危険なのです。聞いたでしょう?白竜騎士団【白い牙】を倒せるほどの者たちなのです」


その言葉を聞いてフッ、と笑った。


「懐かしい名前だな、白竜騎士団。あいつらを倒したのは俺と可愛い配下さ」

「えっ?」


呆然と口を開いて固まるだけの彼女に作戦を伝える。


作戦と言ってもそんな大したものじゃない。


「そこの草むらに隠れているといい、フェル」


念の為先に仮面を渡しておく。


「は、はいです」

「俺がいいと言うまで出てくるな」


そう伝えしばらく待っていると、馬の走る音が聞こえ、やがて俺の前に立ち塞がった。


「私は【カーズ】のグリッソ」


俺に名乗ってきたのは歳は30前後くらいだろうか?

それくらいのやせ細った男だった。


「お前か?獣人を連れ出したのは」

「さぁ?だとしたらどうする?」


呪術師グリッソ。

原作では戦うことは無かった。


こいつは女神クオン側の人間だったため主人公の味方であり協力者だった。


だから戦うなんて選択肢は初めからなかったが、共闘はしていたため、その実力を俺は知っている。


世界最強と呼ばれたジークが所属する白竜騎士団と並ぶほどの高評価を受けている集団だ。


今日処分した公爵やあれの護衛などとは文字通りレベルが違う。


流石に慎重に動かざるをえないだろう。


この前に相手にした物理に全振りしたような男ジークとは違った出方をしてくる可能性の方が高い。


「あの獣人は我々が名を上げるために利用するための供物だ。お前のようなガキが連れ出していいものではないのだ」


そう言って俺を馬上から見下ろして告げる。


「よって、死刑だ」


いっせいに武器を構えるグリッソたち。

俺もそれを見て武器を抜いた。


同時に


【ロード・オブ・デッド】


ボソリと呟いて特性発動。

あちこちからボコボコと湧き出てくるモンスター達。


「り、リーダー?!なんだかあちこちからモンスター達が!」

「うろたえるな、しょせんはネクロマンサーの類だろう」


グリッソは指示を出していく。


「お前たち、我々の呪術をあの子供に見せてあげなさい」

「はっ!」


そう言って


【ポイズン】


グリッソの命令を受けた呪術師達が俺のモンスター達を倒していく。


正直予想通りだった。



原作をプレイした俺だからこそ、死地を共に切り抜けたこいつには一定以上の信頼を抱いていた。


今のはそれを確認させてもらっただけだが、


「俺がネクロマンサーなところまで見抜くなんて、流石はカーズの頭領、といったところか」


あえてここはグリッソにペースを掴まれた、というのをアピール。


「ふふん。中々見る目がある子供のようだな。だからこそ、ここで殺してしまうのは惜しい」


そう言って俺に向かって手を差し出してくるグリッソ。


「この手を取らないか?少年。ネクロマンサー、あまり見ないタイプの適性だ。だから、それだけに惜しいのだ。ここで死なせてしまうのは。私が鍛えあげてよう、君のことを」


俺に伸ばされた手。


それを見て俺はグリッソに近付いていく。



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