ロードオブダーク~ゲーム世界にクラス転移したけど俺だけ【勇者】適正なしと追放されたけど、俺だけが【魔王】になれることを俺だけが知っている。

にこん

第1話 クラスごと転移、俺だけ廃棄


クラスごと転移したことに気付くのにそう時間はいらなかった。


見慣れない一室。

先程までいた教室とは明らかに違う場所。


それに


「□□□□□□□□□□□」


目の前の女が何を話しているのかが、きれいさっぱり分からない。

英語、中国語、というより俺がいた地球と呼ばれる場所で話されていた言語では無いと思う。


そもそも、俺の住んでいた地球に……


​────宙に浮く人間なんていないんだよな。


そう、何を隠そう。


目の前の女は宙に浮いていた。


有り得ない話だが。


そんなことをクラスメイト達から距離を取ってひとりで考えていたが。


女は何かに気付いたように右手の人差し指を軽く振った。


「あら、これでは分かりませんでしたね」


すると急に女の喋る言葉が分かるようになった。


なんだ、これ?と思っていたら説明を始めてくれる女。


「私は女神です」


と急に正気を疑うようなこと口にする自称女神様。


そんな女神様に声をかけるのは、我らがクラス委員長の白金さんだった。


「あ、あの我々を元の場所に返して欲しいんですが」


委員長の問いかけはきっとみんなが思っていたことだろう。

しかし返されるのは当然のように無慈悲な返事だった。


「それはなりません」

「何故ですか?」

「あなたがたを呼びつけたのには理由があるからです」


そう言って俺たち全員を見てくる女神様。


「あなたがたは勇者候補なのです。そしてゆくゆくは勇者となり魔王を討伐して欲しいのです」


やはりそうきたか。


分かりきっていたことではある。


これはゲームの世界に似ているからだ。


そのゲームの名前は【ライトニングファンタジー】というRPGのゲームだった。


プレイヤーは日本から異世界に勇者として召喚されることになるのだが、ひとつ原作と違っている点がある。


それは、原作ではひとりしか召喚されなかった主人公が、クラス毎転移していることだ。


これじゃ、誰が勇者になるのか分からないが。


そう思っていたら女神が全員を見回して、一度頷いた。


「皆さん勇者適正がおありなようですね」


と呟いた。


それに対して安堵とかの反応はなく、文句を言い始めるクラスメイトたち。


一番声がデカイのはクラスの不良である坂本だった。


「えぇ?女神さんよ。勇者とかどうでもいいんだわ元の世界に返して欲しいんだよ」


そう言ってつかつかと歩いていき、坂本はいつもやっているように女神の胸ぐらを掴もうとしたが。


「あ、あれ?なんだこれ?掴めねぇ」


何かに阻まれているかのように一定以上女神に手が近付くことは無かった。


「無駄です。私には触れられませんよ坂本くん。素直に言うことを聞いてもらえた方が嬉しいです」


とそう言って女神はここでやっと名乗ってきた。


「私の名はクオン。女神クオンです」


と言って俺たちにまた視線を戻して一人一人のステータスを読み上げていく。


その様子を見ていたらクラスメイトの有原さんが声をかけてきた。

この人とは高校に入る前からの関係だ。


「これどう思う?千葉くんは」


この状況に不安らしい。


「さぁ?俺はなるようになる、としか思っていないよ」


ここで騒いでもどうにもならないことは直ぐに分かったし、なら喚くだけ無駄だ。

流されるように流される。いつも通り、それだけだ。


俺は空気。

場にいないくらいの存在感でいい。


そのときに同じくクラスメイトの宮田が話しかけてきた。


「ぶひっ。千葉はほんとに個性がないよねぇ。ぶーひゃっひゃ。まぁ頭悪いもんね?千葉は。それなら頭動かさない方が楽、だよね」


そう言って笑ってくるのを無視していると、やがて女神は俺に目を向けてきた。


なぜ俺なのだ、と思っていたが理由はすぐに分かることとなった。


「先程全員に勇者適正があると話しましたが例外がいます。あなたです」


と、俺を名指ししてきた。


「え、えーっと」


名前が分からないのか?


「千葉 優華」


変だな?俺以外は名前知っていたのに、なんで俺だけ?


「えー、あなただけは勇者適正がありませんでした。なので、あなたは廃棄処分とします」


いきなりの超展開についていけずにここでやっと俺は口を開く。


あまりの出来事に敬語で話す余裕とかもなくなっていた。


こんな流れ原作にはなかった。


「それは、どういうことだ?」

「言葉通りの意味です。あなたには勇者適正がありません。ですので廃棄処分、となります」

「それで俺が頷くとでも?」


黙って女神を睨みつけた。

こいつイカれてんのか?


勝手に呼びつけておいて勝手に要らないと言って廃棄?

イカレてるとしか言いようがない。


「私の決定は絶対です」


そう言って浮かんでいたクオンはその場に足をつけて俺に向かってこようとする。

それを見てクラスメイト達は左右に別れて俺とクソ女神の間に一本の道を作った。


そこを堂々と歩いてくる女神様。


「他の方々には程度の差はあれど勇者適正がありました。しかし、あなたにはそれがないのですよ。私は女神、完璧なのです。そんな完璧な私があなたのようなゴミを召喚した過去はあってはならないのです」


口調だけは優しそうに語りかけてくる女神は俺に右手のひらを向けてきた。

そこに光が集まってくる。


「殺すのか?ここで」

「いえ、私は女神。直接手を下すわけがないでしょう?あなたは迷宮に送りモンスターの餌になってもらいましょう」


ぎりっ。葉を食いしばった、冗談じゃない。


俺がどうしようかと考えていた時だった。


「女神様。それは横暴ですよ」


と委員長の白金が間に立ってくれた。


「おや?あなたは白金さん、でしたね」

「委員長としてそのようなことは見逃せません」

「人間如きが私の行動にケチをつけるのですか?」


そう言ってクオンは呟いた。


「スリープ。眠りなさい」


そういった瞬間白金はその場に倒れるようにして崩れた。

それは魔法にしか見えなかった。


(魔法かよ……どうしたらいいんだこれ)


今の俺は日本から来たばかり。

魔法なんて使えないし剣術も使えない。


そんな俺が暴れたところでどうにもならないが。


「白金さん?大丈夫?」


俺は先程倒れた委員長の体を抱き起こしてみたが、眠っているだけのようだが。


そうしていると


「おい」


男の野太い声が聞こえてきた。

顔を上げると坂本が立っていた。


バキッ!

目が合うと同時に殴られた。


「うるせぇぞ陰キャ。とっとと廃棄処分されちまいな。お前が喚くせいで話が進まねぇんだよ。なぁ?女神さん?」


こいつは既に女神様のケツを持つのが賢いと判断したらしい。


「そうですね。坂本くんは賢いようです」


そう言って俺との距離を縮めてくる女神。


先程と同じように俺に手のひらを向けてくる。


「あなたも大人しく【廃棄】されてくださいな」


俺は縋るような目で他のクラスメイトにも目をやったが、全員目を逸らしやがった。


そうか、こいつらも既に女神側、というわけか。


唯一、有原さんだけは俺を申し訳なさそうな目で見ていたが、俺は彼女にだけ分かるように軽く首を横に振った。


もういい、という意思表示。気持ちだけでもありがたかった。


「ははは……ははははは」


それから俺は肩を震わせて思わず笑っていた。


どうしようもない現実に笑うことしかできなくなっていたのだ。


「かわいそうに。すぐにこんなツラい現実も忘れられますよ」


そう言って手のひらに光を集め始めるクオン。

たしかに、この【廃棄】とやらは避けようのないイベントなのだろう。


「ひとつ言っておこうか」


ひとしきり笑った後に俺はクオンの目を睨みつけるように見た。


「何を、ですか?神である私に何か意見する、というのですか?」

「俺はたしかに【勇者】の適正はないのかもしれない」


「だからなんだと言うのです?他の適正もありませんよ?あなたには。そして適正は生まれつきのものです。後天的につくものではありません」


「さて、どうだろうな?ただ言っておく。俺は地獄の底からでも這い上がって、今度はお前を地獄の底へと引きずり下ろしてやる、と」


俺がそう返事をした瞬間俺の体は光に包まれた。


「それではさよなら。千葉 優華くん。永遠に」


最後に聞こえたのはクソ女神のそんな言葉だった。


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