第295話会話 名前の話その③・愛称
「相変わらずぼくたちに名前はありませんが、やっぱり『勇者さん』、『魔王さん』以外の呼び名は必要だと思うのです。というわけで、愛称を決めませんか?」
「愛称、ですか」
「名前の短縮とかそのひとの特徴から名前をつけるといった、親しみを込めた名前です」
「名前の短縮といわれても、名前がありません」
「では、そのひとの特徴から考えてみましょう。たとえば……」
「ロリババア魔王?」
「そうそう、そういうやつ……って、普段それで呼ばれるのはいやですからね⁉」
「短縮して『ロバ』」
「別の動物じゃないですか。魔王どこいった」
「特徴ですか……。私は……ぐーたら?」
「ぐーたらちゃんですか。かわいいですねぇ」
「短縮して『ぐちゃ』」
「あまりよろしくない音ですね……」
「魔王さんは甘いものが好きですから、見た目の色と合わせて『シロップ』とか」
「とてもいいですよ! 勇者さんがまともな案を出してきた方にびっくりですが」
「短縮して『ップ』」
「色の部分が消えましたし、どうやって発音するんですか」
「ショコラ、タルト、マシュマロ、ブラウニー、ビスケット、トルテ……。お腹すいた」
「あとでお菓子作りましょうか」
「わぁい。魔王さんはとりあえず甘いもので呼べばわかると思います」
「勇者さんが好きなものは……なんでも食べますもんねぇ。動物は……うーん」
「色はいやです」
「承知済みですよ。では、愛しい人という意味で『ハニー』と――」
「却下」
「はっや。却下がえげつなくはやかったですね」
「絶対いやです。映画でハニーと呼ぶひとも呼ばれるひともろくな奴がいませんでした」
「また変な映画を観たんですね……。ぼくは愛情込めて呼びますよ?」
「結構です」
「ぐぬぬ……。あっさりさっくりしっかり断られる……」
「無難に『ゆーちゃん』、『まーちゃん』でいいでしょう」
「勇者と魔王の最初の音ですか? 勇者さん、今日はやけにまともな案を出しますね」
「とても失礼なことを言われている気がする」
「す、すみません。事実なものでして」
「謝っているのにさらに失礼」
「あわわ……。怒らないでください、ゆーちゃん」
「……………………」
「何か言ってください、ゆーちゃん」
「……………………」
「ゆーちゃん?」
「……だめだ。違和感。ぞわぞわする。合わない。ゆーちゃんイズ誰」
「ご自分で提案したのにですか」
「うううううう~ん……」
「では、逆にしてみましょう。ぼくをまーちゃんと呼んでみてくださいな」
「まー……………………おうさん」
「なんでぇ?」
「だめです。私にはできない。とてもできない。舌を切った方がいいです」
「お、落ち着いてください。命懸けることではありません」
「日常で魔王さんのことを『まーちゃん』と呼ぶ私を想像してみてください」
「とてもかわいらしいですよ」
「気味が悪いと思いませんか! 思います」
「ひとりで会話していらっしゃる」
「無理です無理ですぞわぞわぞわぞわぞわぞわぁぁぁぁぁ」
「そんなにですか? ただのかわいい愛称だと思うのですが」
「魔王さんと呼ぶのだってぎりぎりなのに……」
「そうだったんですか⁉」
「四割足す六割引く三割足す二割足す一割冗談です」
「冗談でよかった……。あれ、何割ですか?」
「まだ『頭甘々砂糖煮込みロリババアこんにゃく嫌いさん』の方が呼べます」
「勇者さんの基準がわかりませんよ」
「道端で叫んでもいいですよ」
「通報待ったナシです」
「通報……。あ、そうですよ。『指名手配さん』と呼べばいいんです」
「いろんな人が振り向きそうですね」
「誤解を招かないようにちゃんと短縮形も考えてあります」
「間を取って『名手』とか言わないですよね?」
「私を誰だと思っているんですか。もっとかわいいやつですよ」
「おっ、ぜひ教えてください」
「指名手配の『しーちゃん』です」
「まーちゃんと何が違うんですか」
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