藁人形に五寸釘⑦

 放課後、悠季は何時ものように病院に向かい、祖母の様子を確認した後、電車で3駅隣の町まできていた。この辺ではそれなりに大きな駅で、西口には大きな駅ビルが建っている。多くの人も西口に向かって歩いているように、間違いなく栄えているのは西口の方だろう。だが、悠季は迷くことなく東口の方へ足を進める。

 

 東口は申し訳程度に小さなロータリーがあるだけで、お店も個人経営と思われる喫茶店のみだった。東口と西口とでこんなに差があるのかと思いながら、悠季は適当な壁に背中を預けながらスマホを取り出す。


『到着しました、言われた通り東口を出てすぐのところにいます』


 チャットアプリにそう打ち込むと、すぐに既読がつく。

『すぐに向かう』

『了解しました』

 

「ほんとにこんなところにあるのかな」

 悠季は今朝受けた電話の内容を思い出していた。


「……はい」

 ベッド横にの机の上に置いているスマホからけたたましい音が鳴り響いたのが朝の6時。部活動に勤しむ運動部の学生とかなら起きていてもおかしくはないのだろうが、悠季は生憎と帰宅部だ。

「……随分と眠そうだね」

 電話の先の声はいつもと変わらず凛としていた。美人な女の人からのモーニングコール。字面だけなら最高に思えるが、実際はただの業務連絡だから喜びもほとんどない。

「いつもより1時間以上も早いので」

「それは申し訳ない」

「いえ、大丈夫です、それで何でしょうか?」

「ああ、今日の放課後、行きたいところがあってね、悪いけれどそこに付き合ってほしいんだよ。詳しい情報はチャットしておく」

「了解しました」

「じゃあ放課後宜しく頼むよ」

 

 通話の後、すぐさまチャットが送られてきた。場所はここから3駅隣の町にある古そうな神社だった。


 丑の刻参りと神社は切っても切れない関係であることは間違いない。だが、昼に調べた限り、これから向かう神社は古くからあるようだが、それ以外に特色があるわけでもなさそうだった。

 人目に付きにくいから選んだ可能性があるか。いや、それなら神社なんてそこかしこに存在しているのにわざわざここを選んだ理由としては弱い。


 悠季が考え込んでいると、遠くからブロロロと音が聞こえてくる。考え込んで下を向いていた顔を上げると、ロータリーの所に丁度一台のバイクが到着していた。運転手がヘルメットを颯爽と取り、首を軽く振る。そうすると彼女のつややかな黒髪がふらふらと波打つ。CMのワンシーンにありそうなぐらい様になっていた。


「待たせたようだね」

 薫は呆気に取られている悠季をみて、満足そうに笑いながら言った。


「……バイク、運転できるんですね」

「移動手段はあったほうが良いからね、時間もないし早速行こうか」

 薫はそう言うと、座席の下からヘルメットを取り出すと悠季に渡す。

「バイクでいくんですか?」

「ああ、ほら早く後ろにのるといい」

 悠季は急かされるようにヘルメットを被り、薫の後ろに腰かける。

「これまでバイクに乗ったことは?」

 悠季は首を横にフルフルと振る。

「そうか、初めは怖いかもしれないから私の腰に手を回しておくと良い」

「……えっ!」

 薫は悠季の手を自分の腰を回して前で組むようにさせる。

 ぐっと薫との距離が近くなり、柔らかい肌の感触が伝わってきて悠季の顔に熱がこもる。

「ではいくとしよう」

 薫はアクセルを回してバイクを走らせる。風を切っていく感じが熱を持っていた悠季には丁度よかった。



 

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