カタオモイ。

ねむねむ

カタオモイ。

どこから話し始めれば良いのか……

とにかく、私は初めて人を好きになりました。

既婚者。

叶うはずもありません。

不運なことです。

彼は、私の塾の講師でした。

煙草は吸いません。コーヒーはブラックがお好きでした。

体に気を使っているくせに、昼ごはんはいつもあんぱんでした。

そんなちょっと抜けたところも、私は好きでした。

……こんな話、誰にも話せません。

だから、貴方と私の内緒ですよ。


面談と称して、彼を独り占めできるときは、至福の時でした。

狂っているって思われますか?

そうです。既婚者に恋する時点で、狂っているのかもしれません。

いいえ。もしかしたら、ずっと前から……。


私の生い立ちをお話しましょう。

私は、独りでした。

学校では、仲の良い友達もいました。

ほら、女子によくあるでしょう、トイレに一緒に行く友達。

でも、私の心にはいつもぽっかりと、穴が空いていました。

なんだか、虚しいような気がしていました。

母は厳しい人でした。

愛の鞭と言われるかもしれませんが、それでも深く傷つく言葉を投げかけられたことは、幾度とあります。

私は、いつだって、愛に飢えていました。

たった一人で良いのです。

私を愛してくれる人は、世界にどこにもいないのでしょうか。

私を何も言わずに抱きしめてくれる人は、いないのでしょうか。

私は、ずっと、寂しかったのです。

そんなとき、私は先生に出会いました。

そう。それが、「彼」です。

先生は、私に優しくしてくださいました。

重い話も、嬉しい話も、全て受け止めて聞いてくれました。

そんなことは、初めてでした。

それが何より、嬉しかったことを記憶しています。

……そして何より、悲しかった……。

だって先生は、私と結ばれることは無いのです。

いいえ、私は別に結ばれなくとも良いのです。

ただ私は、先生の家族になりたいだけなのですから。

狂って、いるでしょう?

変だと、思うでしょう?

そうなんです。

いつからか、私の中の歯車は、噛み合わなくなってしまったのです。

そうしてきっともうすぐ、粉々に砕け散ってしまうのでしょう。

全て自分で、終わらせてしまうのでしょう。

私は、先生の一番そばで、先生をお支えしたい。

そして、先生に抱きしめてもらいたい。

これは決して皆様の思う恋ではありません。

先生とキスしたいなんて思いませんから、きっと恋とは別物なのでしょう。

だから、片想い……いいえ、カタオモイなのです。

私だけが、先生に想いを寄せている、切ないカタオモイなのです。

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