EP3 魔法騎士イブの人生




(1/5) ~休日~



飲み会が終わった次の日は、私とルイアは久しぶりの休日を満喫していました。天気は相変わらずに晴れ渡っており、今日は絶好の休日日和ですね。




私達はパーシャの町中を、庶民の格好でショッピングをしていました。私はレンガ造りの風情ある町並みを、どこかの露店で売っていたパンを買って食べながら歩いている。




「ムシャムシャムシャムシャ…」




それは魔獣との闘いに明け暮れる騎士の姿とは程遠い、普通にどこにでもいる2人の女の子達であった。





「ねぇねぇ、ルイア」

「そういえば、最近『お菓子の城』とかいう菓子パン屋が出来たみたいわよ。とても美味しくて人気の店みたいだし、用事が終わったら行ってみない?」




「へぇー、良いわよ」



ルイアは、色々な食材や生活品が入った大きな紙袋を持ちながら、言う。そんな私もパンを片手に、もうひとつの手で大きな紙袋を抱えています。



私達は色々なお店を回りながら、食材や生活品などを沢山買い集めていたのです。









一体、何の為に…



私とルイアは町の、ある大きなお屋敷に着いていました。





「「こんにちは、皆いる~?」」


私はお屋敷の入口の扉を開けて、大きな声で呼び掛けます。






「!!」(子供達)


「あっ、イブ姉ちゃんだー!!」


「ルイア姉ちゃんもー」 





子供達が、私とルイアの下に駆け寄って来ました。





「久しぶり、皆元気だった?」


「うん、元気だよ!!」(子供達)




私達は、子供達との久しぶりの再開に喜んでいました。

そして、子供達の後ろの方から中年の女性が出て来ます。





「久しぶり、エスターナさん」


「久しぶりね…」

「イブ、ルイア。2人とも立派になったわね」



私とルイアは…

手に持っていた紙袋をエスターナさんに手渡します。





「いつも、こんなに沢山有難うね」


「いえいえ…お礼を言うのは、こっちの方ですよ」






―この場所は孤児院です。数十人の子供達がここで暮らしています。エスターナさんはここで長年に渡り、子供達のお世話をしている人になります。









「ワイワイワイワイ…」




「こっち、こっちー」

「ギャーっ、捕まった!!」




「ハハハハー」




子供達の遊ぶ声が、ワイワイと聞こえる。




私とルイアは…

その後、子供達と外で遊んだりして過ごしました。

そして、しばらくしてエスターナさんと子供達に別れを告げて、孤児院を後にします。







「さてと…」




では、続いての用事です。これは私とルイアが休日の度に、欠かさず行っている恒例の事になります。因みに、先程の孤児院は月に1回くらいの頻度で、食材や生活品を寄付しています。



私とルイアが次に向かう先は、丘の上にある教会の墓地です。



その用事とは、お墓参りです。

それは、誰のお墓かと言いますと…









私とルイアの両親の…












―私の両親は、私が小さい時に死んでしまいました。


私の家は、そこまで裕福ではない小さな小麦農家だったそうです。そして…私の母は身体が弱く病気を患っていたそうで、その治療費を稼ぐ為に、私の父は本業の小麦農家の傍ら、冒険者としても活動していたみたいです。元々、父は騎士志望で何回か騎士の試験を受けたそうですが、ことごとく落ちて諦めたそうですね。



そんなある時…


この町の周辺でスライムが大量発生した事がありました。父もその討伐に出向いたのですが、無謀にも巨大スライムと対峙してしまい、まぁ…結果は蜂の巣ですよね。

その巨大スライムのウヨウヨと動き回る目を永遠に切る事が出来なかった父は…最期はそうだったみたいです。







私の父は巨大スライムの危険さを多分、分かっていたと思うのですが…治療費を稼ぐ為に、焦っていたのでしょうか。騎士も近くにいたみたいですけど、何故助けてくれなかったんでしょうか…


私の母は、父の死にショックを受けたのか…後を追うように、すぐに死んでしまったそうです。そして、他に身寄りがない私は先程、訪ねた孤児院に引き取られて子供時代を過ごしていたのです。




…そこで同じく孤児だったルイアと巡り会い、本当の姉妹の様な存在になったの訳です!!








「ルイアも…親が盗賊に殺されたんだっけ」 


私は、ボソッと声を漏らす。




「…そうよ」 


ルイアは、そう返事をしていた。









私とルイアは、それ以外は特に何も話さず、教会に向かう為の丘の坂道を歩いていた。少し遠くにはパーシャの町並みが見えます。そして、私達の騎士団の建物も…





その内に、私達は教会に着いていました。





降り注ぐ日射しに照らされて―

白く輝く教会は、私達をどこか神秘的な気持ちにさせてくれます。教会の中に入ると、そこには大きくて立派な女神像があり、いつも変わる事のない温かい表情で、私達を出迎えてくれます。






昔から、よくここに来ていました。




まだ小さい子供の時は、エスターナさんに無理やり連れてこられていたそうです。まだ小さな子供だった私とルイアは、その意味も分からず、この教会の中で遊んで、よくエスターナさんに怒られたみたいですね。



ですけど、ですけど…

何となく寂しかった事は、その時でも、すでに感じていました。そして…それがハッキリと分かったのは、もう少し大きくなってからの事であった。










「チュンチュンチュンチュン―」





私達は、両親のお墓の前にいました。



草原の中にあるお墓は、とても静かで鳥のさえずる声と草原を靡かせる風の音しかしません。そして、遠くを見れば…パーシャの町並みは勿論、その先に広がる大草原の彼方まで見渡す事が出来ます。





エスターナさんも、良い所にお墓を作ってくれましたね…




私達の両親も、きっと喜んでいると思います。










「ヒュウウウウウウウウウウウウウウー」








どこからか、爽やかな風が吹く。





雲達は―


そんな風に吹かれて、雄大に草原を上を流れていく



ユラユラとゆっくりしたスピードに見えて



実際はとても速いスピードで




遠く霞んで見える山並みを軽々と越えていきます






私達には、追いつく事が出来ないスピードであの雲達は、一体どこに向かうのでしょうか…




私達はそんな雲の流れをしばらく、見つめていた。
















―この町には、孤児が多い。



いや、この国全体的にそうなのかも知れない。理由は様々ですが、やはり魔獣(害獣)や盗賊とかに町や村を襲われて、親を失った子供が多いみたいです。



この世界は魔獣も良く出ますし、盗賊もいますので…



この世界は一見、長閑で平和そうに見えますが、言う程に平和ではないのです。そして…私達から見たこの世界は、平和とはあまり言えませんでした。








その時、私とルイアは子供ながら、2人で約束をしました。



「いつか、いつか…」

「お互い騎士になって、この国の平和を守っていこう」


「そして、今以上にこの国を平和にしていこう。これ以上、私達と同じ境遇の子供達を作らない為に―」







それが私とルイアが、騎士になった理由になります。




私達は両親のお墓にお参りして、今日の無事を報告します。





「―そうだっ!!」


「ここに来た、ついでに報告したい事があるんだ」


私は、意気揚々にルイアに言う。




「何、イブ…?」





少し雰囲気が暗くなっていましたが、ここからは明るい話題になります。



「私の新技を披露します!!」











(2/5) ~新技披露~











私は最近になって “魔獣召喚の魔法” を習得していました。



今日、この場所で私達の両親とルイアに見せたくて、初めて披露します。因みに…ルイアに知られない様に、町の公園で何回か練習していました。




「凄いわね、いつの間に…」 


ルイアは、素直に驚いている。



「フフフフ…」

「じゃあ、やるわよ」



早速、私は魔獣召喚の魔法を発動させると、目の前に大きな魔法陣が出現して、風と一緒に土埃が舞い上がります。そして、その中から…私の背丈と同じくらいの大きな犬が出てきました。





白い毛で、とてもフサフサとしている。


この近辺に生息する魔獣 “白麗犬” です。




人懐っこく、飼い慣らせばゴブリンやスライムなどの害獣を駆除させる事が出来ます。








魔獣召喚の魔法は―

召喚した魔獣と一時的に主従関係を結び、術者が敵と見なしたものと闘ってくれます。


そして “魔獣召喚の魔法” は “魔獣使役の魔法” の使い手に、よく発現する魔法です。この2つの魔法は、魔獣を使役して闘うという点から、どこか似ている魔法ですが…これは魔獣使役の魔法は、魔獣召喚の魔法から派生した魔法だからみたいです。





―この2つの魔法を組み合わせる事で、魔獣と更に連携を深めて、闘う事が出来るのです。





…それで魔獣召喚といいますと、異界から強い魔獣を呼び出すイメージですが、実際は違います。自分の魔力と同等くらいの魔獣を周辺から魔法陣を通して呼び出すのです。私の魔力ですと…呼び出せる範囲は、精々この町の近辺のみですが、一流の魔獣調教士ともなると、その範囲が大陸全土まで広がると言われています。そして、呼び出せる魔獣の種類は、術者の性格や使う魔法の属性などによって、決まるそうです。





…私の場合は、基本は犬系の魔獣を呼び出せるみたいですね。


まぁ、私は犬が好きですからね。

本当にその通りだと思います。



「ワン、ワン、ワン、ワン!!」



「可愛い、ワンちゃんね」 


ルイアは、フサフサした毛を撫でながら言う。




「何回か呼んでいる内に、仲良くなっちゃたわ」


私も、フサフサした毛を撫でながら言う。

呼び出せる範囲内にいれば、前に呼んだ同一の魔獣も呼ぶ事が出来ます。そして…白麗犬は、私のつけているネックレスを取ろうとしている。




「ダメよ、これは私の大事な物なんだからっ」





私が仲良くなった、この白麗犬は…金目の物が好きらしいです。そして、落ちている小銭を探す事も得意で、町を一緒に散歩していた時によく小銭を見つけていました。




「名前に似合わず、貪欲なのね…」


ルイアは、軽く微笑みながら言う。

銀色の髪がキラキラと風に靡いています。






…因みに私がつけているネックレスは、指輪をネックレスにしたものです。これは、私の父の形見で “身代わりの指輪” という魔法具です。


この魔法具は発動させると、近くにいる人のダメージを70%、肩代わりする事が出来ます。もしもの時に…仲間を守る為に使うみたいですが、自分の身を犠牲にするので、あまり使いたくはないですよね。






「フフフフ…」

「70%って、何か中途半端な割合ね」




「本当は全部、肩代わりする物もあったみたいだけど、高くて手が出なかったみたい。まぁ、これも十分高いけどね」


「…私の家はそんなに裕福じゃ無かったみたいだし、父が何故これを買ったのか…今となって分からないわ」





「ふ~ん、そうなのね…」









      ―フッ―




「あっ、消えた…」(私とルイア)




しばらくして…召喚時間が終わったのか、白麗犬は元の場所に戻っていきます。まぁ、少し早かったですけど、これが私の新しい魔法でした。





「でも、まだこれで終わりじゃないわ!!」



「!?」(ルイア)



「…まぁ、これはまだ使えないんだけどね」




私は、更に召喚魔法に連動して、魔獣使役の魔法の方にも新しい技が発現していました。



それは “親和契約” です。






「親和契約…?」


ルイアは、よく分からなそうに言う。




“親和契約とは―

その契約を結んだ魔獣を召喚する事が出来る召喚契約の一種である。これは通常の召喚と違い、親和を築いて条件さえ満たせば、魔獣の種類や自身の強さを問わず、あらゆる魔獣と契約を結び、召喚する事が出来る。そして、召喚した魔獣とは感覚や魔力の共有が出来るなど、様々な効果が付与されるので、高度な連携を図れる事が期待される。その親和契約を結ぶ条件と制約として―”




私はギルドカードをスマホの様にタップして…

目の前に画面を映して、説明します。



ギルドカードには、ご丁寧にも使える魔法の簡単な説明も記載されておりまして、こんな感じで映し出して、色々と見る事が出来るのです。







「…」(私)



…とまぁ、呼べる魔獣の種類は問わないとか、更に嬉しい特典が付いていたりとか、中々便利な魔法なのですが。しかし、この魔法の一般的な用途は、契約を結ぶ為の条件と制約の部分に書かれています。






それは―


まず、契約を結ぶ為の条件がかなり厳しいです。その条件とは、お互いの親和を築いている事は勿論ですが、その魔獣と親和を築いたという確かな実績も必要らしい。


確かな実績とは…


その魔獣と共に過ごす時間が累計で5年を超えないといけなかったり、他には…害獣を一緒に闘い倒して、一定の経験値を稼がないといけないとか。




一定の経験値とは、大体30万EXPとされています。



巨大ゴブリンでいうと数百体以上ですかね。

ゴブリンならば1万体以上ですか…その位の害獣を一緒に倒さないと、契約を結ぶ条件は満たさないのです。






因みに…

私の今まで獲得した経験値は27万EXPですよ。

ツースターになるには、30万EXPが必要なので、あともう少しの頑張りです!!






「…」(私)



…これらの条件から、この親和契約は、長年連れ添って親和を築いた魔獣と更なる連携を図る為に使われています。


親和を築いた魔獣とこの契約を結び召喚する事で、感覚や魔力を共有が出来るので…極端にいえば、一心同体になって、強くなれますので、魔獣調教士の必殺技とされているとか。


なので…

魔獣を呼ぶというよりかは、お互いを一定時間パワーアップさせる為の強化魔法として、広く認識されていますね。









「サアアアアアアアアアアアアアアー」






爽やかな風が吹いて、私の髪を靡かせる。



私は髪を手で押さえながら、寂しげに遠くの方を見つめる。











そして―






この親和契約を使えるのは、生涯で一度だけらしい。










なので、長年連れ添った魔獣との絆の証として…もっと言えば、一生のパートナーの証として、この魔法は使われているのです。魔獣調教士とは…相棒となる魔獣と一緒に、敵と闘うのが基本的な戦闘スタイルとなっています。









「私も、その内に…」

「相棒となる魔獣を作って、一緒に闘いたいわ!!」



「ふ~ん、でも一生のパートナーか…」

「イブは、どんな魔獣を一生のパートナーにしたいの?」



ルイアは、私に問う。

相変わらず、銀色の髪がキラキラと風に煌めいている。





「う~ん、まだ先の事だけどね」

「これから、もっと色々な魔獣と触れ合い、親和を築いて…その中から選びたいと思っているわ」





…でも、まぁ一応候補はいますけどね。


騎士の皆で、天魔の山脈の “星屑の天蓋” まで遠征で行った時にいました、グリフィンなんか良いんじゃないかなと思ってます。知性も高くて、穏やかであり、なによりカッコいい魔獣だし。








「そして、いつか…」

「その魔獣と世界中を旅してみたいわ!!」




―それが、最近の私の夢であった。






「勿論…騎士として、更に立派になって、この国をもっと平和にした後の話だけどね」









「私も、その旅に連れていってくれないの?」 


ルイアは、問う。







「ルイアは…」

「コーレン副団長と結婚して、幸せな家庭を築くんでしょ」




「「ブウウウウウー!!」」 

「「ちょ、ちょっと、何を言っているのっ!!」」



ルイアは、軽く吹いていた。

そして、恥ずかしそうに顔を赤らめていました。



「ハハハハハハハ~」


私は、笑っていました。













だから…

私と一緒に旅をしている暇なんてないでしょ。










        ◯











私達は用事を済ませて、丘を下っていました。そして、先程の話しの続きをしていた。召喚魔法の…いや、ルイアの恋の話しを。




「ルイア、貴方…コーレン副団長にいつ告白するの?」



「もう、その話しはいいって…」

「それにコーレン副団長は、サニーさんと仲良さそうだし…」

「もう、付き合っているんじゃないかって噂だし」



「分からないわよ」

「仕事上、仲が良いだけかもしれないし」



「そうかもしれないけど…」



「…やっぱり、キャロットさんの薬に頼ってみる?」






「…」(ルイア)





でも、実際に成功例はあるらしい。

それは…キャロットさん本人だ。

キャロットさんは自分で作った勇気を出す薬を飲んで、王都にいるある人に告白をして成功したらしいです。


ある人とは、この王国のとても偉い人みたいです。


まぁ、超遠距離恋愛ですけど…昨日の飲み会で、私とルイアにひっそりと教えてくれました。





「「私は、自分の力で告白するわ―」」

「「薬なんかに頼らない!!」」


ルイアは、固く決意した様にそう言います。






しかし…


「でも、やっぱり勇気が…」





「…」(私)





「ハァ…」

「ルイアと傷心旅行なんてゴメンよ…」











―天気は、先程の晴天から次第に曇り始めていました。


そして、遠くの空には、真っ黒な雲が立ち込めている。





これから先、天気が崩れるかもしれませんね。






とりあえず『お菓子の城』でも行ってみましょうか。


2人で、そう話していた時に、その知らせは突然やってきた。











(3/5) ~さて今日の大物です~











「「「「「ジリィリリリリリリリン―」」」」」


「「「「「ジリィリリリリリリリン―」」」」」



突然、けたたましい音がこの町全体を覆った。

この町の警報の音です!!


これは、この町に何かしらの危機が迫った時に鳴る音ですが、私がこれを聞いたのは生まれて初めての事です。


町は、一気に慌ただしい雰囲気になる。





一体、何が―





「「危険な魔獣が出たぞオオオオ!!」」

「「この町に向かってる~!!」」


「「皆、安全な所に避難しろオオオオ!!」」

「「早く、逃げろオオオオ!!」」


誰かが、そう叫んでいるのが聞こえた。







危険な魔獣とは―


私とルイアは、急いで騎士団の建物に行く。






騎士団の建物に着くと―


コーレン副団長も今日は休みだったはずですが、私達より先に騎士団に着いて、慌ただしく騎士の皆に指示を出していた。


そして、他の第2分団のメンバーも到着します。




「「コーレン副団長!!」」(私とルイア)




「「待っていたぞ―イブ、ルイア!!」」

「「サラマンダーの群れが出た。これからパーシャ騎士団で大編成を組んで討伐に行く」」


「「お前達も加わって欲しい」」




「「はい、分かりました!!」」(私とルイア)






―この町の近郊にサラマンダーの群れが出たみたいです。

巨大サラマンダーが2体とサラマンダーが10体…

そして、この町に向かっているとの事です!!




サラマンダーとは―


炎を吐き、体表は溶岩に覆われた大きなトカゲの魔獣であり、とても危険な魔獣です。ギルドが提示している、その魔獣の強さや危険さを表す指標では、巨大サラマンダーはC3(カテゴリー3)に分類されています。


C3の魔獣が出現した場合は近辺の町が壊滅する可能性があり、騎士団で大編成を組んでの討伐が推奨されています。





…因みに、巨大ゴブリンや巨大スライムはC2です。


カテゴリーの数字が大きくになるにつれ、その魔獣の強さや危険さが増していくのです。巨大ゴブリンや巨大スライムよりカテゴリーが1つ上がっただけだと思いますが、カテゴリーが1つ上がっただけでも、その魔獣の強さと危険さは格段に上がるのです。








(巨大サラマンダーが2体も…)




私とルイアは即座に騎士の格好になり、百数十人規模の騎士の大編成でサラマンダーの群れのいる所まで出発します。




もう、スターレス団長もいない―

先頭をきっていくのはコーレン副団長で、その後に皆が続いていきます。




「「パカパカパカパカパカパカパカ―!!」」


「「パカパカパカパカパカパカパカ―!!」」





(しかし…何故、サラマンダーが出たんだ?)



次第に頭の整理が追い付いてきた私は

その理由を考えていた…


サラマンダーとは、通常は火山帯に生息している魔獣であり、この近くの主な生息場所は―



そう、火山の国と呼ばれる隣国のバルキード王国なのです。




サラマンダーは、基本的に動きはゆっくりで、行動範囲は広くはありません。そして、巨大に成長するにつれ、その動きは更にゆっくりになっていきます。稀に動きが活発な若いサラマンダーが国境を越えて、この国に入ってくる事もありますが、それも本当に稀な事なのです。








例えるならば…

東京の住宅街に猿が迷い込むくらい珍しい事なのです。


以前、ニュースになってましたからね。










「…」(私)









あっ…この例えは、ぶっ飛んでましたね。

忘れて下さい。





そんな稀な事なのに、群れで来るなんて…


只でさえ国境付近の警備は、騎士を増員してまで強化していた…それなのに、こんな大きい群れが国境を越えてパーシャの町の近くに来るまで気付かなかったのだろうか。





「誰かが、魔法で召喚した可能性があるわ…」


隣を馬で並走するサニーさんが、私に話し掛ける。




私が疑問に感じていた事を察したのでしょうか。

いや、騎士の全員が多分そう思っているはずです。





「一体、誰が…」


 私は、サニーさんに聞きます。




「それは、分からないけど…」








「「パカパカパカパカパカパカパカ―!!」」


「「パカパカパカパカパカパカパカ―!!」」





            


―馬に乗った百数十人の騎士達の編成が、草原を駆けてサラマンダーの出現場所に向かう。サラマンダーの出現の為でしょうか…



発生した火災の黒煙が…

黒雲の様に向こうの空をモクモクと覆っている。


そして今、私達はそこに向かっている。



(ゴクリっ…)





どうゆう経緯で出現したか分からないけど、今は町を守る為に、闘う事が先決だ!!




―さぁ、ここからは決死の魔獣討伐の時間です!!











(4/5) ~我が騎士団の闘い~











町から馬で駆ける事、十数分…

遠くの方に草原を歩いている複数のサラマンダーを確認しました。巨大サラマンダーが2体とサラマンダーが10体の群れです。ゆっくり、ノソノソと歩く2体の巨大サラマンダーを中心に…その周りをサラマンダー達が足並みを揃えて、歩いています。




巨大サラマンダーは―


20~30メートル程の大きさであり、遠目から見てもその姿は、とても目立ちます。その赤黒く輝き、ゴツゴツとした岩肌の体表からは血管が波打つ様に、マグマが滴り落ちながら流れている。


周りを歩くサラマンダーも7~8メートル程ありますが、巨大サラマンダーと比べてしまうと、その大きさが小さく見えてしまいます。






まるで…

巨大な溶岩が、トカゲの形をして歩いているみたいです。








我が騎士団は、遠目でサラマンダーの群れを確認する事が出来る所まで進み、そこに陣地を作る為に立ち止まります。そして、コーレン副団長は大声で騎士の皆に指示を出す。




「「よし、この場所で迎え討つぞー!!」」


「「合体魔法の準備だ。まずは防壁の魔法を使って、この場所に結界を作るぞオオオオ!!」」



「「了解しましたアアアア!!」」(騎士の皆)





これから騎士団の十八番である合体魔法で、この害獣達を討伐します。十数人の騎士達が、合体魔法の発動の準備に入る。



そして… 


しばらくして、私を含む数人の騎士を除いた騎士団の皆を、覆う様にドーム上の半透明の壁が出現します。これは―





   ”防壁の合体魔法 巨大結界” です。





合体魔法とは―

複数の人が同じ魔法を重ねる事で、その魔法の威力や範囲を飛躍的に向上させる事が出来る魔法です。


しかし…発動する場所やタイミング、そして各々が発動に込める魔力量が同じでなければ、発動に失敗する難しい魔法でもあり、十数人規模の発動になると、その場の意志疎通だけでは、とても発動する事は出来ません。



普段から、この様な事を想定して、訓練をしている騎士だからこそ、使える魔法のなのです!!






―私の目の前に出現した、この巨大な結界はサラマンダーの吐く炎を簡単に防いでくれる程の強度があります。




ですが…

私を含む数人の騎士は結界の外にいました。

これは決して、仲間外れにされた訳ではありません。


コーレン副団長は結界の中から、私達に指示を出します。




「頼んだぞ、お前達!!」


「これから…この結界の中では、水の合体魔法の発動の準備に入る。お前達はサラマンダーの群れを、この結界の近くまで引き付けて欲しい。そして、少しでも奴等の火力を弱めてくれ」


「だか…決して無理をするな」

「奴等に近付き過ぎるなよ!!」




「「分かりました!!」」(私を含む数名の騎士)






結界の外にいる私を含む数名の騎士は、囮役になります。

私を含む数名の騎士は皆 “魔獣使役の魔法” の使い手であり、魔獣調教士なのです!!


合体魔法は威力は強いですが、使い勝手が悪く…発動の準備をしている間に、誰かが囮役になって時間を稼いだり、発動場所まで誘導する必要があります。



魔獣調教士は…魔獣の動きを予測したり、意のままに魔獣の動きを操る事が得意なので、囮役というのも…まぁ、適役といえるでしょうか。





とりあえず、頑張ります!!









騎士団の作戦は、こうだ―




まずは私達が、サラマンダーの群れを刺激しない様に慎重に、巨大な結界の近くの場所まで誘導します。


そして…サラマンダーの群れが、その場所まで来たら “水の合体魔法” を発動させて、大量の水をサラマンダーに浴びせるのです。




サラマンダーの弱点は、水になります。




サラマンダーの体表は溶岩で覆われており、大量の水をかければ、溶岩は固まり、その動きは止まるのです。そして、体表というか…身体自体がひび割れた脆い岩石と同じ状態になるので、その間に砕いて、確実に討伐するのです!!




…まぁ、ひび割れた脆い岩石といっても、一応は硬い岩石ですので、砕くのは高火力の魔法や攻撃が必要になります。我が騎士団では大砲を使って、一掃しますね。



普段は、あまり使わない大砲ですが…

これが一番手っ取り早いみたいです。因みに、只の大砲ではありません。使われる砲弾には、火力を上げる魔法が付与されているので、通常の大砲よりも威力が強いです。


そして…砲撃手の中にはルイアもいまして、もうスタンバイが出来ているそうです。頼もしい限りです。
















―元々、この魔獣の倒し方は、人類が今まで魔獣と闘ってきた歴史の中で確立されていました。










だから…










だから…この手順さえ守れば、C3の魔獣といえども安全に討伐が出来る魔獣のはずだった。











(5/5) ~余計な事~











私達は、サラマンダーの群れに近付いていく。




近付くにつれ、焦げ臭い匂いと熱気を感じます。





そして、そう遠くない距離で見た巨大サラマンダーは、大きなトカゲというよりかは…翼がない竜であった。






((デ、デカい…))






…まぁ、竜を見た事はないけど、これがもう竜なのではないかと感じる程であった。巨大サラマンダーは私達に気付いて、ゆっくりと私達の方に向かって歩いてきます。







私達、魔獣調教士は…

すぐに “親和の芳香” を発動させる。



サラマンダーの群れから…


距離を保ちながら…


慎重に刺激しない様に、その魔法を操作します。

巨大ゴブリンや巨大スライムでも時間を掛けずに、すぐに意識朦朧にさせて、眠らせてしまう “親和の芳香” ですが、この翼のない竜にどこまで効果が出るかは分からなかった。







「…」(私)




「くっ、やっぱり―」




私の魔法は、確かに巨大サラマンダーを包み込んでいるはずなんですが…


しばらく、時を待つが案の定…そのゆっくりとした巨大サラマンダーの動きは、何も変わる事が無く、相変わらずにゆっくりのままであった。







やはり…



“親和の芳香” では、この魔獣には通用しないのか。








“親愛の凝香” が使えれば…






ふと―



私の頭にその魔法の名前が浮かびます。








“親愛の凝香” とは “親和の芳香” の上位の魔法になりまして、とても格が高い魔法になります。現在…この王国では、その魔法を使える者は1人もいません。




…突然の余談になりますが、50年前にこの王国に竜が飛来した時も、この魔法を使って竜を討伐したとか。当時の騎士団の総団長が生命力を全て魔力に変えて、この魔法を発動させたそうです。




そして、竜を眠らせた間に騎士団総出で仕留めたそうです。







“親愛の凝香” を使えれば…この翼のない竜でさえも、すぐに眠らせる事が出来るはずです。




それが本当は、一番手っ取り早い方法なのです。


砲撃のスタンバイをしているルイアには悪いですけど…










「…」(私)







   「「「イブ、危ないっ!!」」」





「「!!」」(私)


「「しまった―!!」」




私は―

巨大サラマンダーの動きだけに気を取られ過ぎていた。

あと使えもしない魔法とか、余計な事を考えていた事もありますけど。



「「ボオオオオオオオオオオー!!」」



動きが活発な1匹のサラマンダーが、私に向かって炎を吐いたのです。私は即座に馬から飛び上がり、なんとか炎を回避する!!


しかし…

私の馬は逃げ出す事が出来ず、炎にのまれてしまった。




「「「ヒヒッイイイイイイイイイーン…」」」


「「ヒヒッイイイ…」」


「「…バチバチバチバチバチバチっ!!」」


「「メラメラメラメラメラメラ―!!」」




あっという間に黒焦げになり死んでいく馬を見て、サラマンダーの炎の威力を垣間見る。






「チっ」 


(―ごめんね、お馬さん)




私が騎士になった時から連れ添っていた馬が…

だけど、今は悲しんでいる暇はない。



「「イブっ、こっちへ!!」」 


「「はい!!」」


私はすぐに、声掛けで他の魔獣調教士の馬に飛び乗る。



「「イブ、何をしているの―」」

「「全体を見ないとダメよ!!」


「「敵は、巨大サラマンダーだけじゃないのよ!!」」



「はい、すいませんでした」


私は先輩の魔獣調教士の人から…

そうお叱りを受けました。








―それからも、相変わらず巨大サラマンダーの動きに変化はありませんでしたが…周りの普通のサラマンダー達には、その効果が出てきたみたいでした。





数体のサラマンダーは、眠っていました。




眠ったサラマンダーは…赤黒く輝いていた体表の光が消えて、その身体は丸くなり、只の大きな岩になっていました。




あれはあれで、討伐完了みたいです。


高温を与えれば、また復活するみたいですが…




あの活発な、私に炎を吐いたサラマンダーも大人しくなっていました。そして…どうやら、所定の場所まで来たみたいです。






―水の合体魔法の準備も、出来ていると合図が出ていた。




私達は、すぐにサラマンダーの群れから離れて、巨大な結界の中…には入れませんので、結界の後ろの方に待避する。そして、その場所に―先輩の魔獣調教士の1人が防壁の魔法で小さな結界を作り、私達はその中に入ります。






「「よし!!」」

「「水の合体魔法を発動させる。場所は―」」




サニーさんの指揮で―

いよいよ水の合体魔法が発動されます!!




作戦は、次の段階に進むのです!!





























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