マ ス カ ル ホ ー プ ★
ふるなる
第1章 先負クシブ編
第1話 野獣のマスク
荷物運搬のアルバイト。成功報酬は四十万。簡単で高収入。
絶対に運び屋とか詐欺の受け子や出し子だろうと睨む。そんな危険な橋を渡る訳ないだろ、とも思ったが、そんなこと言ってられなかった。俺には手っ取り早くお金を稼がなければいけない理由があった。
昔の友らと創設した会社は潰れた。さらには、借金の連帯保証人となって間もなく裏切られた。そうして残った負債を背負った俺は、借金返済に追われる日々。過度なストレスのせいで、髪はもう真っ白だ。煙草や酒は止められない。月に数回の競馬。金がないからって、それらを止めたら、人生やってられない。
危なくなくて手っ取り早くお金が貯まるバイトはないのか。必死にスマホをスクロールしていく。
そんな都合良いものなんてないか──
危険性を度外視することにした。そしたら良さそうなバイトが目に付いた。
「ズリアン」狩人募集。異能力になれます。才能があれば簡単にお金を稼げます。とのこと。
「ズリアン」とは「ズー」と「エイリアン」を組み合わせた造語。数十年前に隕石落下のように宇宙から落ちてきた地球外生命体。それらがこの世界に適応するために、動物園の動物を取り込んだ存在が「ズリアン」である。現在はそれらが落ちてきた場所を囲むように壁が建てられており、その場所以外は平穏な日常を保つことができている。
命が絡む危険性はある。しかし、それを除けばたんまりとお金を稼げる良バイト。それも国も認定している合法な高所得バイトだ。捕まるリスクもないのに、お金も多く手に入る。
応募しない理由なんかなかった──。
俺は流れにそってスマホを指で触っていった。数分後には、液晶に申し込み完了のページが写っていた。
借金の取り立てから逃げるため、名目上はバイトのために愛知県へと移り住んだ。地下鉄のホームを埋め尽くす人、人、人。人に潰されながら電車の中で揺らめいでいく。栄駅を過ぎた当たりから人が疎らになっていく。途中から地下鉄は地上に出て進んでいった。しかし、外は巨大な壁のせいで光が届かず、地下にいるような暗闇だった。それに負けじと光るネオンが眩しい。
ジブリの世界観を壊す無機質の壁。高層ビルよりも高く聳え立つ厚いコンクリートの壁。先の見えない壁がこちら側を日陰で覆い尽くす。当たり前のように動いているモノレールに違和感を感じる。
辿り着いた。ここがズリアンを駆除する会社「ホープ」か。それなりの大きさがある。
俺はその中へと入っていった。
広いエントランス。受付へと向かう。
そこから広い部屋に案内され、そこの椅子に腰掛ける。机の上には矢田部ギルフォード性格検査の紙が置かれていた。時間をかけて終わらした後は、体育館のような大きな部屋へと連れられた。そこでシャトルランや短距離走、球投げ、反復横跳びなど体力面の能力を測られた。
その後、イライラ棒など不思議なテストも行った。
性格テストや体力テストを経て、今日一日は過ぎ去った。
次の日、受付へと向かう。
俺はまた別の部屋へと案内された。まるで異空間にいるかのような摩訶不思議な雰囲気のある部屋へと案内された。
「こんにちは。御機嫌よう。君が
大柄でふくよかな彼はやんわりとした雰囲気を放っている。謎謎しい空気感とは似合わない。
「さてと。君のデータを取らせて貰ったよ。それで君に合いそうなマスクを用意しといたよ。」
謎の間が空いた。
彼は様々な種類の、様々な柄のマスクを五つ提示した。次に何をすれば良いのかは分からなかった。そもそもマスクがどうしたというのか。
「ああ、すまないね。説明がないと分からないよね。私の説明不足だ、すまない、すまない。この仕事はズリアンと呼ばれるモンスターを相手にすることは知っているね?」
頭を真っ直ぐ下ろして戻す。
「ズリアンの中には異能力を使うモンもおる。使わなくても獰猛で危険だ。そこでこのマスクだ。このマスクをつければ異能力者となれるのだよ。ま、見ててくれよ。」
彼は柄付きの布マスクを取ってつけた。その布マスクは砂っぽい柄だった。
思いっきり息を吸って、思い切り息を吐く。吐息とともに砂がマスクから現れた。砂は床に落ちる。しゃがんで触ってみたが、砂は本物だった。
指の上の砂を擦り合わせる。何度擦っても砂は砂だった。信じられなかった。
「砂のマスクだ。私は少量しか出せないが、才能や鍛錬次第では砂嵐をも起こせるだろう。」
ごほん。ごほん。
細かな砂を吸い込んで勢いよく咳をする。咳は簡単に止まなかった。
ごほぉおおん!
「気を取り直して、他にも、こんなものがある。」
今度は眼帯付きのマスクだった。とても厳つく真っ黒に輝かる。
思いっきり息を吸って、思い切り息を吐く。細く短距離のレーザーが出てきた。その反動で後ろに飛ばされて壁にぶつかった。
ぐはあっ!
「ま、まあ、私にはこれがわたくしの実力だが、才能や鍛錬次第ではさらに強いレーザーを狙った所に放てるよ。」
ゴホン、と咳払い。
「このようにマスクをつけると異能力者となるのだ。そして能力を使うということは相性があるということだ。大人しく運動が苦手な援護タイプなのに、フィールドを動き回る攻めのマスクだったら相性が悪いだろう。君は攻めが得意だが少し荒く繊細な行動が苦手な傾向にある。そこで、攻めに特価したマスクを用意したのだよ。」
なるほど。マスクをつければ異能力者となるのか。そして、戦うには能力の向き不向きがある。性格や体力などのテストはこのためにあったのだろう。
提供されたマスクを一つ一つつけていく。
棘を繰り出す黒の平型マスク。砂を吐き出すちゃっぽいアベノ型マスク。レーザーを出す眼帯付きマスク。鋭い牙を剥き出しにするプリーツ型黒マスク。蜘蛛の糸を吐き出せる蜘蛛のキャラが象られたマスク。
それぞれの使用感を近くにあった何度も蘇るぬいぐるみに攻撃して試していく。
「俺、これに決めました。」
黒のマスクに白く尖った鋭い牙。野獣の牙が鋭く光る。摩訶不思議な空間で特異なオーラを放っていく。
「野獣のマスクかい。とても戦闘的だね。物怖じしない気持ちがあれば、きっと活躍できるよ。」
究極のフィット感。究極の万能感。心躍る。
「マスクも決まった所だ。チームメイトの所へ挨拶にしにいこうか。仕事では数人で一組となって動くんだ。これから君を含めて三人一組になって貰うんだ。ただね、そのチームメイト──」
「どうしたんですか?」
「先輩は難ありでねぇ。実力は本物、それは確かなんだがねぇ。まあしかし、精々辞めないよう気持ちで負けないでおくれよ。」
プライドを傷つけるような言葉だ。
「負けねぇよ。」
思わず言い返してしまった。相手は社長だというにも関わらず。
「それは頼もしいよ。」
シロクマさんに紹介された彼は、とてもギザな見た目をしていた。腰には刀を刺している。
「あんたがクシブって奴か。」
鋭い目で睨むように見つめてきた。
「あんた、死にてぇの?」
いきなり吹っかけてきた。
頭の血が吹き出しそうだ。
「は? 死にてぇ訳ねぇだろぅが。」
「じゃあ、今すぐバイト辞めろ」
そこに邪険な空気感が広がっていった。
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