幸先がいい始め方

転生新語

プロローグ

「年もけたしさ。ひめはじめをしようよ」


 私の同居人にして幽霊ゆうれいである彼女が、そんな事を言ってきた。姫はじめという言葉の本来の意味は、新年を迎えてから最初にいた米を食べる事なのだけど、そんな意味で彼女が言ってないのは明白だった。そもそも彼女は食事をしないしね、幽霊だもん。


「つまり貴女は、新年最初のセックスを私としようと。そう言ってる訳ね?」


「当たり前じゃない。貴女以外の誰とするのよ」


 たしなめるような口調で言われた。まるで私がおかしいように言うのは止めてほしい。


「それで? 言い方からすると、このアパートの中で、今からするって意味じゃないんでしょう? 宿を取るのよね?」


 この同居人は、したくなったら室内で私を押し倒してくる。そして私は拒否しないのだ。


「うん、私が生前に通ってた温泉宿。あそこでしたい!」


 私は現在、大学四年生で卒業を控えている。上京していて、幽霊の彼女と二人暮らしという、実質は一人暮らし。友達は一人も居なくて、お陰で趣味のマンガ集めがはかどっている。人付き合いは得意じゃないけど、軍資金は必要だからバイトはしてて、貯金があるから温泉宿に泊まるくらいの余裕はあった。


「あー。いい宿よね、あそこは。私達が出会った思い出の場所でもあるし」


「あの宿は創作意欲がくのよ。お陰で生前は、私のマンガでかせげてかせげて。まあ、お金を使う前に過労死しちゃったけど」


 さっそく私は、ネットで予約をこころみる。運良く、私一人の二泊三日という日程で部屋が取れた。大学は冬休みだし、一人分の料金で幽霊の彼女と旅行ができる。そう考えると、私も楽しくなってきた。


「じゃ、姫初めの前に、少し楽しもうか。宿に泊まるまでは、本格的にはしないからね」


 そう言うなり、幽霊ならではの素早さで、彼女が私の頭を抱えてキスをする。本当なら息ができなくなるくらいのディープキスで、だけど彼女は幽霊だから私は呼吸ができた。つまり彼女のキスには際限が無くて、脳までおかされるような快感で私は優しくいじめられ続ける。え、こんな事をこの先、続けられるの?と私はまとまらない思考の中に閉じ込められた。

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