第三十五話 オロチ
確かに、八岐大蛇もヘビではあるけど。
話なんて通じるのか?
だって、あのサイズ差だぞ。
もう動けなくなってるからいいけど、普通ならペロリといかれてしまいそうなサイズだ。
人間から見たアリみたいなサイズ感である。
小さすぎて食べることすらしないんじゃないか?
気付かずに潰してしまうかもしれない。
ビニーが八岐大蛇の前へ行き、元気に挨拶をはじめた。
「シャ~!」
「…………ギャッ!?」
「なっ!」
直後、俺にとって予想外の出来事が起こった。
動けなくなっていたはずの八岐大蛇が目を見開いたかと思ったら、8つの頭がそろって鎌首をもたげ、小さなビニーにその顔を殺到させたのだ。
くそっ!
反応が遅れた。
予想外すぎた上、直感も反応しなかった。
「ん?」
2匹の蛇の間に入ろうとして、自分の思い違いに気付いた。
八岐大蛇はビニーの匂いをすんすん嗅いでいる。
それだけだった。
「シャーッ!」
「……攻撃するわけじゃ、ないのか?」
なるほど、だから直感が働かなかったのか。
緊急事態かに思われたが、八岐大蛇がビニーに攻撃することはなかった。
むしろ、仲が良さそうにすら見える。
ビニーも喜んでいるというか。
同じ蛇同士、共鳴するところでもあるのだろうか。
「シュルルー!」
初めて会ったというのに楽しそうだ。
俺は嫉妬しちゃいそうだよ。
「おともだちだったのかなー」
コビンちゃんは無邪気で可愛いねぇ。
彼女はそう言っているが、元から知り合いなんていう可能性はないだろう。
ビニーはあのコンビニで生まれたらしいし、あそこから出たこともないはずだ。
親の大蛇に守られていた可愛らしいビニーちゃんが、大蛇よりも大きい八岐大蛇と知り合う機会なんてない。
そういえば、八岐大蛇はなんであのコンビニを破壊したんだ?
あそこだけピンポイントで。
ずっと疑問だったが。
大蛇と八岐大蛇に何か因縁でもあったのか?
「あえてうれしそーだね!」
「ああ、そうだな…………うーん?」
頭で何かがずっと、引っ掛かっている。
因縁、ではないな。ビニーとあいつが仲良い理由にはならない。
「もしかしたらかぞくだったのかもね!」
「あ」
そうだ。
八岐大蛇の柄や顔の見た目が、コンビニを守っていた大蛇にかなり似ているのだ。
ゴツくなったり、角らしきものが生えていたりしているが、ベースは大蛇のそれだ。
物を溶かす毒を吐くという共通点もある。
いや、だからといって、ビニーと八岐大蛇が知り合いだったなんてことはないはず。
出会う機会がないからな。
ビニーがあったことのある蛇なんて、親の大蛇か一緒に生まれた兄弟ぐらいだろう。
残るは兄弟、兄弟か……。
「シュー!」
「ギギャ」
コンビニにあった卵の数……何個だったっけ?
卵は全部で9個あった。
そして、八岐大蛇の頭の数は8つだ。卵の数は、ビニーの分を引いたら…………8つだ。
「シャー」
「………………もしかして、兄弟……なのか?」
いや、そんなことありえるのか?
偶然、数が同じだけと言われた方がまだ納得できる。
頭と尻尾は8つあるが、こいつらは1つの身体だし。
大蛇と柄は似ているが、同じ時期に同じ場所で生まれたにしてはサイズが違いすぎる。
コンビニと八岐大蛇のつながりがビニーだったなら。
2匹が兄弟だったなら。
八岐大蛇があそこのコンビニへ行ったことも理解できる。
ビニーを探しに行った、若しくは親の大蛇へ会いに行ったのか。
だが、仮にそうならなんで八岐大蛇なんていう伝説の生き物になってるんだ?
「うーん」
「どうしたのー?」
「いや……」
考えられるのは、8匹の蛇のモンスターが合体して一匹のモンスターになった可能性。
モンスターの合体なんて、ありえるのか?
流石に考えすぎか。
いや、わからん。考えていたって、答えなんてわからない。八岐大蛇が直接話してくれるわけでもないのだし。
わからないが。
「シュルー」
「ギギャー」
……あんまり仲良くせんでくれぇ。
殺しづらくなるだろうが。
こいつを野に放つことはできない。
そもそも、問題はそこなのだ。
八岐大蛇を殺さないと、学校にいる人間へ被害がでるかもしれない。
だから、殺さないといけない。
戦いたかったというのもあるが、そのために俺は八岐大蛇を探していたんだ。
「ねーえー、どうするー?」
「うーん」
殺すべき。
だが、これで八岐大蛇を殺したら、ビニーに嫌われてしまいそうだ。
「コビン、デカい団子って作れるか?」
「つくれるよ!」
「この魔石から、8個つくってくれ」
「わかったー!」
だからと言って、この八岐大蛇を放置することはできない。
数日ぶりに、きび団子作戦を決行するときがきたらしい。
コビンの妖精団子。
ビニーはこれを食べて俺の言葉を理解するようになった節まであるからな。
とても凄い団子なのだ。
まあ、それは関係ないかも知れないが、ビニーの心を開いた1つではある。
俺も毎日食べてるが、非常に美味しい。
「ビニー、おいで」
「シャ〜」
しゃがみながら呼ぶと、呼ばれたビニーが俺の腕に巻きつく。可愛いやつめ。
正直、呼んだら来てくれてホッとしている。俺よりも八岐大蛇を選んだらどうしようかと。
やっぱりビニーは小さい。
八岐大蛇と兄弟だとしたら、どうしてビニーは小さいままなんだろうか。
大きくなっても良いんだよ?
「さて」
ビニーが俺のそばに来たことによって、八岐大蛇の視線が全て俺に移った。
敵意は、無さそうだが。
どことなく、困っているような雰囲気を感じる。
どうして良いのかわかっていないのかもしれない。
「お前たちには、これから俺の渡す物を食べてもらう。話はそれからだ」
別に悪い物じゃないよ!
ちょっと秘密の団子を食べてもらうだけだよ!
見た目は泥団子泥団子してるけど、美味しいんだよ!
心の中で言い訳しつつ、コビンの妖精団子が出来上がるのを待つ。
八岐大蛇って普段は何を食べて生きてきたんだろうな。同じ物食べさせたらビニーも大きくなる?
「出来たよー!」
「お、おおーありがとう。いつも助かってるよ」
「んへへ〜、いいよぉ」
たくさんの妖精団子を浮かせながら持ってきた。コビンちゃんって、そんなことできたんだね。
照れ笑いが可愛い妖精さんである。
受け取った団子を手に、八岐大蛇へ向き直る。
ふむふむ、混乱してるみたいだな。
先程まで死闘を繰り広げた相手が、推定生き別れの兄弟と一緒にいたし、そいつが変な団子を持って見てくるんだからな。
「今から、これを食べてもらう」
8つを等間隔に地面に置いてく。
1つの頭に一個ずつだ。
最初は俺に対して威嚇していた頃のビニーがこれを食べて、警戒を解いた。
八岐大蛇も、これを食べて心を開いてくれないか期待しているのだ。
もっと言えば、人間を襲わないようになるんじゃないかと期待している。
「さあ、食べてくれ」
「ギギャア?」
「いいから食えよ」
これ食べるんすか? みたいな雰囲気出すんじゃない。美味しいんだから。
パクッ
頭の1つが勇気を出して食べた。
それを見て、問題ないと思ったのか別の頭も食べ始め、全員が食べてくれた。
うむ、一番最初に食べてくれた勇者くんには感謝しよう。ありがとね。
そういや彼らって胃袋は共有なんだろうか。
それなら1つだけでも良かった可能性あるな。まあ、いいや。
「よし、ヤマタノオロチ。長いからオロチと呼ばせてもらうが」
答え次第で、俺がビニーに嫌われてしまうかが決まる。
「お前ら、俺と一緒に来ないか?」
俺はモンスターだし、ビニーだってモンスターだ。
そのモンスターが一匹増えようが、どうということはない。
こいつを野に放してしまうよりもマシだろう。
「ギギャ…………」
「シャーッ」
しばらく悩んでいる様子のオロチにビニーが鳴く。ビニーはビニーで説得してくれているのだろうか。
果たして、その説得が効いたらしく、オロチは全ての頭で頷いてくれた。
ビニーの助け船がなかったら、頷いてくれなかったかもな。
まあ、ビニーがいなかったら八岐大蛇を仲間に加えることにはならなかっただろうが。
「そうか」
こんなことになるとはな。
だが、俺もお前らを殺さずにすんで嬉しいよ。
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