第二十九話 久しぶりのダンジョン

「来てしまった……」


 くぐもった声でつぶやく。

 俺は今、この街にあるもう1つのダンジョンに来ていた。

 久しぶりのダンジョンである。

 

「今更、帰るなんて言わないでね?」

「帰らないさ」

 

 折角来たのだ。今更帰るなんてもったいない。

 

 結局、ここに来るまでに大きなモンスターとやらはいなかったけども。

 来たからには、中に入らねば。


「だが、人に会う前に帰るからな」

「分かってるわよー」

 

 あかねに会う可能性があるから、今までは避けてきた場所である。

 

「やまと、本当にそれつけるのね」

「ん? ああ、これか」

「にあわないよー」


 俺の顔を覆っている仮面。コビンには不評だが、これを着けているから、俺は今ここに来られている。

 今までは、アイテムボックスの中に死蔵していたものだ。

 ダンジョンで見つけたもので、なんと特殊効果付き。


「特殊効果ってなんなの?」

「スキルが1つ増える」

「えっ、すごいじゃないの」

「はぁ……」

 

 これが、ふんどしみたいにいい効果だったら俺も普段から身につけていたさ。

 ダンジョンで見つけたとき、試しに装備してステータスみたら驚いた。

 

「これを着けて増えるスキルは、鈍化だ」

「え?」

「動きが鈍くなるんだ。ゲーム風に言うと、速度低下のデバフだな」

「な、なるほど」


 鈍化の仮面である。

 装備していると、一定以上のスピードを出せなくなるというものだ。歩いているだけなら問題ないのだが、速度が出ないから殴れないし蹴れない。まだ強くない俺には致命的なアイテムだった。

 呪いの装備とかじゃないから、取り外せることだけが救いか。

 

 本当なら使いたくないアイテムであるが、背に腹は代えられない。

 人のいる可能性がある以上、なるべく顔を隠したいからな。


 それにこの仮面をつけていれば、頭の角も飾りだと思ってくれるかもしれない。

 これが一番、大きい。

 

「あと、視界は悪くなる」

「ちょっと、それ大丈夫なの?」

「下がるのは速度だけだから、大丈夫だ」


 それに、戦うのは俺じゃないしな。


 駅の構内を歩く。

 ここのダンジョンは、駅のホームに出来たモノらしい。

 俺の生まれた場所とは違い、なんともアクセスしやすい場所だ。

 

 まあ、生まれたのがここだったら、人間と鉢合わせて殺されてたかも知れないことを思えば、あそこで良かったのかもな。

 人間には殆どアクセス不可だし。

 あの谷は、今ごろどうなってるのかね。もうダンジョンないけど。俺が外に出たときは普通にオークがいたんだよな。

 今度見に行くか?


「行きましょう?」

「ああ」

「たのしみだね!」

 

 それよりも今は目の前のダンジョンだ。あと、コビンは服の中に入ってなさい。


 線路をブチ抜くように大穴が出来ていた。ダンジョンの入り口である。

 これではもう、電車は走れないな。


 全部で20層のダンジョン。

 占い師とやらの情報らしいから合っているのかは不明だが。


「5層おきにボス部屋があるらしくて、数時間で復活するらしいわ」

「へぇ、復活するのか」

「宝箱は一日待たないといけないらしいんだけどね」

 

 それは知らなかった。

 引き返したりしないでどんどん先に進んでたからな。


 そう聞くと、レベル上げにはもってこいの場所だ。

 レベル上げ以外には害悪すぎるが。


 なんで地球にこんなモノが出来たんだろうか。

 俺に加護をくれた少女に聞けばわかりそうだが、あれ以来一度も会えていないし声も聞こえてこない。

 何か教えてくれればいいのにな。

 ただ、彼女がダンジョンのコアとは敵対していたことだけは確かだ。

 だから、俺もモンスターを倒し続ける。



 

 ダンジョンの中に足を踏み入れると、周囲の空気が変わった。

 一見、ただの真っ暗な洞窟だ。

 しかし、どこか懐かしい感じがする。


「はい、これ持っていてもらってもいい?」

「なんでだ?」


 木の棒を手渡された。

 俺戦わないぞ?


「仲間に魔法を使える人がいればいいんだけど、真っ暗じゃ何も見えないじゃない?」

「なるほど?」

 

 いや、俺は見えるが。


「マッチで火をつけて……はい、灯りの完成」


 随分と原始的な灯りだな。

 俺はスキルがあるから普通に見えてるが、ダンジョンを攻略する人間には真っ暗だ。

 欠陥住宅だろ、ダンジョン。

 人間に優しくなさすぎる。

 いや、ダンジョン側からしたら攻略されたらおしまいだから、正解なのか?

 

 もしかしたら、ダンジョンに住んでる魔物って全部暗視スキル標準装備なのかもしれないな。

 ゴブリンの種族スキルなのかと思ってた。


 俺って、マジで何も持ってないノーマルゴブリンだったんだな。

 少しぐらい特別なスキルがあってもよかったじゃないか。

 よく強くなれたな、俺。


 そんで、灯り係確定か。

 

「ほら、行きましょ」

 

 ふんどし着けてるから熱くないし、俺は戦わないから、持つぐらい構わないけどさ。

 

 少し歩いたら、ゴブリンがいた。

 どこのダンジョンにもいるのか、お前は。


 だが、このダンジョンは、1層目からゴブリンが出てくるんだな。

 あそことは、色々違うらしい。

 

「俺は後ろからついて行くから、戦闘はまかせたぞ」

「ええ」


 かなえが剣を抜いて駆け出す。


「はあっ!」


 ゴブリンの反撃を許すことなく、その首を切り落とした。

 流石に、ゴブリンは楽勝だな。

 

「どんどん行きましょ!」

「おー、頑張れよー」

「もう少し急いでよー」

 

 だから、俺は走れないって。

 オークぐらいのモンスターがいる階層まで退屈しそうだな、こりゃ。


 ここの一層には、デカネズミはいないらしい。

 久しぶりに見られると思ったのに。


 出てくるモンスターは、ゴブリンと小さい狼だ。

 レッサーウルフとでも呼ぼうかね。やっぱりいいや。小さい狼なんて、小さい狼で十分だ。


 歩いてダンジョンを進む。

 かなえはもっと急ぎたそうだが、そこは我慢してもらわねば。

 俺を連れてくると決めたのは自分なのだから。

 

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