EP39【カエデ無双、そして腹ごしらえ】

 私のウッカリミスにより、窮地に追いやられたカイヌ帝国軍。


 仕方がないので、自分の失敗は自分で責任を持って、後始末を付ける事に決めた。


 本来なら奴隷ペット粗相そそうは、ご主人様が責任を持つというのが社会の常識だが、まだ幼い私のご主人様では、責任管理能力が不足している。


 どこまでも世話のかかるご主人様だ。


 これではどちらがご主人様なのか、分かったものではない。


 あれ?


 何だか責任転嫁をしている自分がいる様な気がする。


 まぁ、気のせいに違いない。


 ではさっそく、後始末に取り掛かるとしましょうか!


 カイヌ帝国の貴族達に飼われている奴隷達が、ゾロゾロど最前線へ向けて進行している。


 私はそのさらに先を走り、ブリード王国軍のど真ん中に飛び込んで行った。


 「な、何だ!? 首輪を付けてる? 奴隷の少女か? って、うぎゃゃゃゃ!!!」


 「何だ!? どうした!? って、痛だぃぃぃぃぃい!」


 「足がぁぁぁぁぁあ!! 俺の足がぁぁぁあ!!!」


 「助けてぇぇぇぇえ!!!」


 私は次々とブリード王国兵のあしや腕を2本のショートソードで斬りつけながら、ひたすらに走り抜けていた。


 私の背は成人男性ばかりで構成されているブリード王国兵の中に紛れると、外からは一切見えなくなってしまう。


 なので、少し離れた所にいるブリード王国兵は、いきなり味方が泣き叫び、次々倒れていく様子に困惑している様だ。


 そして、その謎現象の根源となる私が、兵士の視界に入った時には既に手遅れで、一瞬で足か腕を斬られて戦闘不能にされてしまうのだ。


 今回の私の目的はご主人様達貴族連中が、後方へ撤退し、再度戦線構築する為の時間を稼ぐ事にある。


 なので私が今行っているのは、以前やっていた戦場での人間を元人間だった肉塊へ加工する作業とは少し違う。


 一眼見て『あぁ、この味方は死んでしまったな』と分かる状態にすると、その味方を救出するのを後回しにしてしまう。


 『今さら助けても無駄だから、目の前の敵に集中しよう』となってしまうと、全ての敵を元人間だった肉塊へ加工する必要が出てきてしまう。


 ただでさえ相手は数が多いので、時間的に全ての敵を切り刻む余裕は無い。


 ただ戦闘不能に持っていくだけなら、1人あたりにかける時間を節約できる上、その倒れた1人の味方を救護する為に、1〜2人の兵士を戦線から退ける事が出来るのだ。


 これぞ効率的な仕事の見本というものだ。


 社会人は参考にすると良い!


 真似できる場面と能力がある場合に限られるがね。


 そして今回はご主人様に買ってもらった、この2本のショートゾードがある。


 これに私が魔力を流し込み、切れ味抜群の仕様にしてある。


 いくらショートゾードとは言え、今まで使っていた自分の両手に魔力を通して精製した『魔力刃』と比べれば、リーチが3倍になっている。


 両手でショートゾードを逆手に持ち、拳を前に突き出しながら剣の切先を左右に展開。


 その状態でブリード王国兵の人垣の間を縫う様に走り抜ければ、とても効率が良く、次々と左右の兵の足元を斬りつけて行ける。


 たまに全身鎧の兵士もいるが、私の魔力を帯びたショートゾードの前には、プリン対スプーンも同然。


 一瞬で足元を斬られて、地面に崩れ落ちていく。



 3分ほどブリード王国兵の間をひたすら走り抜けていたら、いつのまにか進軍は止まっていた様だ。


 だいたい1秒間に2〜3人のブリード王国兵を斬りつけて戦闘不能にしていた。


 単純計算で450人ぐらいは戦闘不能に出来たと思う。


 そいつらの救護の為に、さらに450〜900人のブリード王国兵の人手が必要になるだろう。


 その為もう進軍している余裕は無い様だ。


 さて、私は十分頑張ったので、少し腹ごしらえと行こうかな?


 魔力感知により、1km弱ほど離れた所に食料保管の物資集積地がある事が分かった。


 そこにフラフラと私は立ち寄る事にした。


 中には私にとって懐かしい、ブリード王国近海で漁れる魚介類が大量にあった。


 保存が効く様に塩漬けにしてあるが、中々に美味しい品物だ。


 ブリード王国は海に面している国土が広いので、漁業をするのに適している。


 海水を食塩に精製する技術も確立されているから、保存食造りにも大いに役立っている。


 私は満足いくまで、この集積地にて海の幸を楽しんでいた。


 当然食べきれないので、ハーネス侯爵家の皆んなの為にお土産として袋詰めしたり、悪魔を呼び出し残飯をお裾分けしてあげた。


 昨夜、怒りに任せて吹き飛ばしてしまったお詫びも兼ねている。


 悪魔なので、あの程度の爆発で消滅したりはしないが、何やら『ザンキ』という物が減ってしまったそうだ。


 よく分からないが、これで昨夜の事はチャラという事にしてもらおう!


 「あぁ、また働けてないのに供物を与えられてしまった。 また負債が増える〜」


 相変わらず訳の分からない事を言う悪魔だった。



 ブリード王国の進軍も止めたし、お腹も満足して、お昼寝も少々したので、私はとても気分良くカイヌ帝国陣営に戻る事にした。


 よく見ると殿しんがりを命じられていた奴隷達も、それぞれのご主人様の元へ戻って行くのが分かった。


 どうやら私が腹ごしらえ等をしている間に、奴隷達へ撤収命令が出されていた様だ。


 うっかり食い意地に負けて、置いて行かれてしまったみたいだね。


 団体行動を取れない人間は、社会人的に失格だと思っていたが、まさか私自身がそれをやらかしてしまうとは、、、まぁ、お土産もあるし、許してもらえるだろう。

 

 私は先程の物資集積地から、貴重な魚介類の塩漬けをたっぷりと詰め込んだ袋を背負いながら、ゆっくりご主人様の待つカイヌ帝国軍の陣営へと歩いて行くのであった。



 「遅い! 遅すぎる! 他の貴族所有の奴隷達は皆帰ってきてるのに、何でカエデだけ帰って来ないんだ!!」


 「落ち着けロイ、きっとすぐに帰ってくる。 何故かブリード王国軍の進軍が止まっているところを見ると、たぶんカエデが活躍してくれているのだ。 カエデの事だからきっと寄り道でもしてるに違いない」


 「だと良いですけど、カエデ姉さん、無理しすぎて敵のど真ん中で力尽きて、捕まってたりしたら、私、どうしたら」


 「そんな事あってたまるか!!! カエデは、僕の大切な、初めての


 「だっだ今もっどりました〜!」


 ご主人様が何か言っている途中だった様だが、お腹が一杯で超ゴキゲンな私は気にしない。


 『ただいま〜』をしたのだから『おかえり〜』の声が欲しいところだが、皆んな固まって動かない。


 あれ、何事?

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