空へ沈む
玄門 直磨
第1話 灯台
ねっとりとした
灯台が
もちろん、フェンスの入り口部分には【
しかも、フェンスを
正直、誰にでも開けられてしまいかねない番号型の
早速灯台付近に
そして、番号が変わっていないことを祈りつつ、南京錠のドラム部分を回す。
「番号は8931、だったな。――よし、開いた!」
振り返り、改めて灯台を見上げる。
月の光に照らされた灯台は白く輝き、とても神秘的に見えたと同時に少し悲しげにも見えた。
事前に監視カメラ
この灯台に来た
後は、ただ単に
今日から夏休みということもあり、
あわよくば
だが、
その
別に自殺するつもりなんて
灯台に近づくと、改めてその大きさを思い知る。
約三十メートルほどのコンクリート造で、緩やかな
入り口は
だけど、俺からすれば関係ない。助走をつけて飛べば余裕で梯子に手が届きそうだ。
軽く
灯台の入り口には
内部は
どれぐらい登っただろうか。螺旋階段に目を回しそうになりながら上へと進むと、やがて
「ん? 何だこれ」
灯器には、
「まぁ、良いか」
俺は布切れを元に場所に戻すと、バルコニーへ近づいた。すると、突然人影が視界に入って来た。
「うおっ! ビックリした!」
思わず声に出してしまった。まさか
「あら、
少女がゆっくりと振り向くと、
「あ、えっと。こっちこそゴメン。まさか人が居るなんて思ってなかったから……」
改めて少女をまじまじと見る。肩に付かないくらいに切りそろえられた黒髪。少し
しかし困った事になった。一人でライブ配信をしようと思っていたのにこれじゃできない。けど、女子生徒がこんな時間、しかもこんな所に一人でいるなんて。なにか良からぬ事を考えているのだろうか。
「私も、まさか人が来るなんて思って無かった。貴方は、どうしてここに? もしかして自殺なんて考えてたり?」
「いやいや、違うよ。ちょっと落ち込む様な事が有ったから、
「私は違うわ」
「じゃあ、どうして?」
「私は、本当の私を見つけてくれる人を待っているの」
少女は悲し気な表情でそう
「とにかく、私の事はどうでも良いの。ねぇ、もし良かったら聞かせてくれない? 何に落ち込んでいるのか」
「昨日、好きな子に告白して、振られたんだ……」
一瞬、見ず知らずの相手に話すかどうか迷ったけど、知らない相手だからこそ別に話しても良いかと思った。好きな子の情報や自分との関係、告白の状況など包み隠さず打ち明ける。
俺が
「私が思うに、あなたが一人だけ盛り上がってた感じかなぁ」
俺がひとしきり話し終えると、そうポツリと呟いた。思い返せば確かにそうかも知れない。必死になって、自分だけカラ回っていた気もする。
「私はその子の事を良く知らないけれど、女の子の多くは段々と相手の事を好きになって行くものよ。でも、女の子の気持ちがピークに達すると、冷めるのも早いから気をつけてね」
そんなアドバイスをくれた。ピークを逃すななんて、無理ゲーすぎるだろ。
「やっぱ、恋愛って難しいんだな」
一度振られた俺に、まだチャンスはあるのだろうか。
「そうね。でも、少なくとも告白したことによって、相手が貴方の事を意識しているのは間違いないわ。まだまだ、これからじゃないかしら」
本当にそうなのだろうか。全く興味のない相手から告白されても、その人を意識しだす事はあり得るのだろうか。しかも振られた挙句、付き合う条件として『三十年ほど前に行方不明になっている伯母さんを見つけてくれたら考える』という
それにしても、今日会ったばかりの俺の話を真剣に聴いてくれてるこの女子生徒はいったい何者だろうか。こんな娘、俺の学年に居たっけな。
すると、ポケットに入れていたスマホが鳴りだした。画面を見ると母親からの着信だった。時間を確認すると、既に
「やべっ!」
『あんた! こんな時間までどこをほっつき歩いているの! 夏休みに入ったばかりだからって浮かれていないでさっさと帰ってきなさい!』
電話に出るや否や、強い口調で捲し立てられた。こりゃ、なにか罰を受けそうだ。
友達と遊んでいて遅くなったと言い訳をして電話を切る。実際嘘ではないし。
「どうしたの? 大丈夫?」
俺がため息をつくと、心配そうにこちらを覗きこんできた。
「ああ、大丈夫だよ。ちょっと親に怒られただけ」
ちょっと名残惜しいが、そろそろ帰らないと本当にまずいだろう。
「今日は話を聞いてくれてありがとう。そうだ、俺、
名前を名乗っていなかった事を思い出す。
「私は、灯ノ
「灯ノ下さんか。また、会ったらよろしく」
簡単に別れの挨拶を済ませ、急いで灯台を下り自転車に跨がると、全速力で自宅までペダルを漕いだ。
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