DOLL GAME

ことはゆう(元藤咲一弥)

プロローグ



 時は新暦806年。

 人類の住処が地球外へも広がり、火星、木星、金星……様々な惑星が地球人の新たな居住地となっていた。

 人々は平和を享受していたが、やがてその平和も終わりをつげ新たな戦争の時代に入った。

 「代理戦争」。自らが行うのではなく、他者に行わせる戦争だった。

 そしてその戦争の中で、新たな兵器が生み出された。

 「DOLLドール」。大型特殊兵器であった。

 人間の姿をモデルに作られた「DOLL」は、今までの陸上兵器とも、水上兵器とも、飛行兵器とも違う、画期的な兵器だった。

 戦争は「DOLL」を使った戦争へと変化した。

 戦争が表面上終結しても、「DOLL」はその存在を求められ続けた。

 戦争により表面化した組織による抗争、平和を享受してきた故に求めていた「争い」への興奮。戦いは幾度も繰り返される、何度も、尽きることなく。

 人々は「DOLL」同士を戦わせ、それを見ることに熱中した。

 その戦いは「DOLLGAME」と呼ばれ、大昔のコロシアムでの戦いを想像させる試合であった。勝敗は簡単、相手の「DOLL」を戦闘不能にすれば勝ち。

 その「DOLL」を操縦するものは「人形師パペッター」と呼ばれ、人々の欲望の代理人として戦っていた。

 「人形師(パペッター)」になる理由は人それぞれで、名誉、金、暇つぶし等が主だった。

 その「人形師」の中で、自らの正体を隠す「人形師」がいた。

 パイロットスーツに身を包み、顔を隠し、黙々と試合を行い、依頼をこなす。

 そんな「人形師」を人々は皮肉にこう呼んだ。

 「マリオネット」と。


 呼吸音がコクピット内に響いていた。

 二十代程の男が荒い息を履きながら目の前の光景に恐怖していた。

 男は、黒い鉄の人形が自分に銃口を向けているのが理解できた。

 それは「DOLL」と言う兵器で、人間と同様の動きができる巨大なロボット。「DOLL」は他の水、陸、空、全ての圏域(けんいき)を制覇する他の兵器とは違う画期的な部分を持っていたため重宝された。

 その操縦者である「人形師」は重宝され、誰でもなれる存在ではなかった。

 それ故、男は恐怖していた。

 自分のよりも上の「人形師」はそういないだろうと思っていたからだ。

 だが、目の前の「DOLL」は、男よりも遙か上の場所に存在することを教えるかのような動きをしている。

 ビームライフルの銃口を向ければ、まるでビームが相手を避けているかと錯覚する程相手当たる手前で避けられる。

 最新型のチェーンソーナイフで斬りつければ、高密度粒子形成のソードでいとも簡単に切り払われ、挙げ句の果てにはナイフを持っていた腕を切り落とされた。

 男には何度か聞いた噂があった。傭兵上がり、人工的に作られた人間等と、素性が解らない故噂になっていた「人形師」のことを。

 名前も登録されておらず、登録されているのは「DOLL」名前だけだった。

 その名前は今戦っている「DOLL」と同じ名前だと男は思い出した。

 相手の「DOLL」の名前はリベリオン、そして対戦相手の名前は「UNKNOWN」。

 「UNKNOWN」は名前を登録していない「人形師」にのみ出てくる表示である。

「ま……まさか」

 男は顔を青ざめさせ、自分の「DOLL」を後ろに下がらせる。

 相手の「DOLL」は微動だにしないで銃口を男の「DOLL」に向けている。

 やがて、その「DOLL」は男の「DOLL」に向けていた銃口を脚部にずらし、両脚を撃ち貫く。

 男の「DOLL」は転倒し、コクピット内に衝撃が走る。

 コクピット内部に危険を知らせるアラームが鳴り響き、男は思わず耳を塞いだ。

「ひっ……!」

 爆発音と、再び自分の「DOLL」が破壊される音に恐怖し、男は目を背けたくなった。

「まさか、お前がマリオネット……!」

 その言葉を最後に、男の「DOLL」は頭部を破壊された。

 コクピット内に危険を知らせるアラーム音とは違う電子音が鳴り響いた。

 そして画面には「LOSER」の文字が表示される。

「た、助かった……」

 男は安堵の声を呟く。

 そして、自分の身体から吹き出る脂汗と、痙攣する足に気づいた。

「これ、ただの『DOLLGAME』だよな……殺されない、よな?」

 不安そうに相手の「DOLL」に視線を向けるが、相手の「DOLL」は格納庫へと足を運んでいた。

 相手の「DOLL」の姿が見えなくなるまで、男は動くことすらままならなかった。

 その身体に染みついた恐怖故に。



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