キスで滅ぶ世界にて

マレリ

第1話「俺のキスで世界が滅ぶ!?」

俺の名前は古木ダン。

今日から高校1年生だ。


暖かい風に背中を押されながら学校へ向かう。

隣には同じ幼なじみのルリがいる。


先月の中学校の卒業式、俺はルリに告白した。


もしかするともう会えるのも最後かもしれなかったから。控えめな性格の彼女は恥ずかしそうに「こちらこそお願いします」と頷いてくれた。


そしてその後、受験が終わり通う高校が同じになり、俺とルリは今もこうしてイチャイチャ登校している。


「クラス、一緒だといいな」


「そうだねー」


「ルリ。美人だから変な男に絡まれそう」


「ダンこそ、私の前で他の女の子と喋らないでね。嫉妬するから!」


「分かってるよ」


そんなことを話している間に、学校に着いてしまった。


下駄箱の奥にクラス名簿が貼ってある。

俺が1年2組。ルリが4組、と俺たちの願いも虚しく離れ離れになってしまった。


「じゃあ、私こっちの教室だから。また下校の時会おうね!」


ルリが笑顔で手を振る。


「おう。また後でな」


俺はルリが教室に入るのを見送った後、自分の教室に入った。


「はぁ。ルリのいない教室なんて二酸化炭素しかない地球のようなもんだよ。早く学校終わらないかなー」


ブツブツ1人で呟きながら席に座ると隣の女子が話しかけてきた。


「どうしたの?体調悪そうだけど」


「ああ。ちょっと酸素が足りないだけだから。ほっといてくれ」


「なんか君、変わった子ね。私、矢倉マコ。1年間よろしくね」


「古木ダンです。よろしく…。はぁ」


「…ほんとに大丈夫?」


━━━━━━━━━━━━━━━


午前の授業を終え、昼休みになる。

俺は学校の近くにあるコンビニでカップ麺を買い屋上で1人こそこそ食べていた。


「やっぱカップ麺が1番美味いな」


スマホを見るとルリからLINEが来ていた。


『今日の帰りなんだけど』


『もし良かったら私の家、寄ってかない?💦』


『今日、パパとママいないから』


「ええぇ!」


これは、つまり、そういうことって把握していいんだよな??


昔から好きだった幼なじみのルリともうあんなことやこんなことが…。出来てしまうのか?

夢みたいだ。


『おっけー。行くぜ』


と、ルリに返信したとほぼ同時に父親からLINEが来た。


『ダン。今日、大事な話がある。家に早く帰ってこい』


「はぁ?」


『帰らねーよ。ルリの家に寄ってくから』


返信すると、父からLINEではなく電話がかかってきた。


「おい。なんで急に電話かけてくるんだよ」


「ダン…。お前、ルリちゃんの家に寄ってくって本当か?」


「まぁ。本当だけど」


「何かやましいことを考えているわけではないだろうな?」


「ギクッ」


「いいか?これから話すことを…どうか驚かないで聞いてくれ」


「何の話だよ」


「うちの家族には、代々と受け継がれている特異体質があってな…。うちの一族は『異性とキスすると世界が滅んでしまう』んだ」


???


「おい。親父言ってる意味が理解できないんだけど」


「そうか?ならばもう1回言おう。うちの一族は『異性とキスすると世界が滅んで…』」


「いやいや。聞こえてはいるんだけど!俺が…キスすると、世界が…滅ぶの?」


「そうだ」


「わけがわかんないよ。じゃあ親父は母さんとキスしなかったの?」


「キスはしたさ。だけど、40歳までするのを我慢した」


「は?」


「キスをした時の年齢によって世界滅亡レベルが変わってくるんだ。歳をとるごとに体質は弱まっていくからな。俺が40歳で母さんとキスした時は、軽い地震程度しか起こらなかった」


「そしてこの世界滅亡レベルが1番高くなる時期、それはダン、今のお前の年齢だ。成長期真っ盛りの今のお前がキスをしてしまえば、確実に世界は滅ぶ」


「…」


「ダン。ルリちゃんと付き合うのはいいが、このことだけはしっかり頭の中にいれといてくれよ」


そう言って親父は電話を切った。

正直、馬鹿馬鹿しいと思ってしまった。

なぜ今更こんなことを話すんだ?全部デタラメだとしか思えない。


大体、何でうちの一族がキスすると世界が滅ぶんだ。政府はそれを知って野放しにしてるのか。


そんな理屈が頭の中を駆け巡るが、単純に俺はルリとキスがしたい。それだけだった。


下校時間になり、ルリと校門で待ち合わせをする。


早速、手を繋ぐ。周りの奴の目なんてお構い無しに。


「ねえ。ほんとに今日、家寄っていいのか?」


「うん。たまには2人でゆっくりしたいし」


「へへ。2人でゆっくりね」


「…ダン。もしかして変なこと考えてる?」


「考えてない。考えてない」


ルリの家につくと、彼女の部屋に案内される。

部屋はいかにも女の子っぽい雰囲気で、ベッドにはクマのぬいぐるみが置いてあった。


「あ、ダン。私、部屋着に着替えたいからちょっとあっち向いてて」


「え?え?ここで着替えるの?」


「いいからあっち向いて」


ルリは俺の目も気にしないで着替え始めた。

俺は慌ててルリを視界に入れないように、目を瞑って反対側に振り向く。


目を瞑ることで余計に衣服の擦れる音が聞こえて、心臓がバクバクしてしまう。


どうにか気を紛らわすために九九を頭の中で数えようとした時、後ろからルリが抱きついてきた。


「ひゃっ」


「ダン…。もしかしてドキドキしてる?」


「べ、別に?」


「ほんとに?じゃあドキドキするまでくっついてるね」


ルリは俺を更に強く抱きしめた。

ルリの体温が俺の制服を貫通してくる。

肩に乗せてる彼女の顔からは美少女とは思えないほど荒々しい息が吹きこぼれる。


正直なところ、もう我慢の限界だった。

俺はルリを力づくでベッドに押し倒した。


「なに。急に男らしいこと」


「もう我慢出来ないからよ」


その時、親父のあの言葉が脳を過ぎる。


「うちの一族は『異性とキスすると世界を滅ぼしてしまう』んだ」


いや、さすがにそんなことあるわけない。俺がキスした程度で世界が滅ぶわけ。しかもこの状況でキスしないとかアホじゃないか?まぁ、最悪、世界が滅ぼうがルリとキスできるならそれでいいし。


「ダン。するの?しないの?」

「…します」


俺がそう言うと、ルリはすべてを受け入れたかのように目を閉じた。


俺は彼女にキスをした。


その瞬間、


「えっ」


バジャー、という大きな音が鳴り響き、部屋中の家具が宙に浮き、窓の向こうの空が真っ赤になる。


部屋の照明もつかなくなり、何故か少しづつ呼吸がしずらくなってきた。


「ダン…。一体、どうなってるの」


「わかんない。けど…」


うちの一族は『キスをすると世界を滅ぼしてしまう』んだ


「マジだったのか…」


俺は頭を抱えて「どうしよう。どうしよう」とブツブツ言うしかなかった。

解決策を考えていたのではなく、ただ安心したかった。


「ダン。危ない!」


窓の向こうには巨大な隕石が猛スピードでこちらに落下していた。

そうか。俺はもう死ぬのか


「ごめんなさい。ごめんなさい」


ガシャーン


燃え盛るような火の粉が俺の身体を焼く。

痛い、痛い、けどこのまま罪を背負って生きるよりはこっちの方が楽なのかもしれない。


━━━━━━━━━━━━━━━


「!!!」


目が覚めると、身体の痛みは最初からなかったかのように、夜更かし特有の目覚めの気だるさしか残ってなかった。


しかもここは俺の部屋だ。どうして?俺はルリの部屋でキスをして隕石で死んだはずじゃ?


今までのことは全部、夢だったのではないか

とそう納得しようとした時


「私が時間を巻き戻したんだ」


横からそう声が聞こえた。

俺は驚きのあまりベッドから飛び降りた。


「お前は…」


「よっ!変わり者くん」


「矢倉…マコ?」


何故か俺のベッドに薄着1枚で隣の席の「矢倉マコ」がいた。

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