#036 : ラウワ王

—— これは少し前の話。


私たち魔王軍はラウワ国王都を取り囲んでいた。

対峙する魔王軍と王国軍。


私はラウワ国の征服に王手をかけていたのである。


「辰夫は居るか?」

「は!ここに!大魔王サクラ様」

辰夫が私の呼びかけに応える。


「このまま両軍同士がぶつかれば両軍ともにかなりの死者が出てしまう。それはエスト様の望んだ世界では無いのよ…。」

「はい。そうですね…。」

辰夫が悲しそうな表情で言った。


「…仕方ない、ちょっと王都を落としてくるわ…私一人で十分だから皆には待機させておくように。」


「えッ?」

辰夫は私を二度見した。



私は王国軍の軍勢の前まで移動すると、演説を始める。

「聞いてください!王都の皆さん。私は美しい大魔王サクラです!いいですか?私は戦いを望んでいません。でも、王都は欲しい。だからおとなしく投降してくれたら嬉しいな…?…サクラ…嬉しい!」


王国軍の中から声がする。

「ふざけるな!」

「勝手な事言うな!」

「お前らが投降しろ!」


私はため息交じりに演説を続ける。

「はぁ…やれやれ…私が支配したら税金は今より安くするし、子供達は学校にも通えるしで、良いことしかないのに……仕方ない…行きますよ。」

そして、王国軍に向かって歩き出した。


「ふざけるな!弓兵!…撃て!撃てぇー!!!!!」

王国弓兵が弓矢を私に放つ!


「そんな攻撃が私に効くか!鉱物化:ダイヤモンド!」

私の全身がダイヤモンドの強度となった。

(弓矢…ねぇ…今の私に効く攻撃は核くらいじゃないのかな?)


「えッ!?」

辰夫が私を三度見する。


カンカンカンカンカン…!

カンカンカンカンカン…!

弓矢は虚しく弾き飛ばされる。


「ふふふ…あっはっは!…階段に小指をぶつけて悶絶していたら…さらに足のスネを階段にぶつけ…そして派手に転んでオデコを強打…その時はさすがの私もあまりの激痛に死を覚悟した…その今際の際に発現した…この…鉱物化:ダイヤモンド…これを破れるなら破ってみなさい!」


「エピソードカッコわるッ!」

辰夫が四度見しながらツッコミを入れた。


「な!?では魔法兵!…撃て!撃てぇー!!!!!」

王国魔法兵からの魔法が私に襲いかかる。


ドドドドド!!!!!ドドドドド!!!!!


魔法が私に襲いかかった。辺りは魔法による噴煙に覆われた。

「や…やったか…?」

固唾を飲み見守る王国軍。


やがて煙が晴れ、王国軍は私を視認した —— 。

—— 私はめっちゃビックリし、引きつった顔をしていた。


「だ、ダメージは無さそうだが、と、とてもビックリした顔をしているぞ!?」

「き、効いてる…のか…?」


「い…今のは怖かった…怖かったぞー!!!!!」

びっくりして泣きそうな顔だがノーダメージだった。

私は鉱物化を維持しつつ、歩みを進める。


「ダメだ!傷ひとつ付いていない!」

「化け物め!」


「聴くが良い!私からお前たちへの鎮魂歌(レクイエム)を!」

私は歌を歌い始めた。


「I’m [Rapper] ♪ I'm [サクラ] ♪ Yeah! Yeah! Yo!!!!!

 [さー!行こう] ♪ 私は [最強] の [大王] ♪

 さながら [太陽] ♪ [体調] は [快調] ♪ 気分は [最高] ♪

 ダイヤの [外装] ♪ ダイヤは [最硬] ♪

 あきらめろ [大将] ♪ きっと今日は [大凶] ♪

 君たち [敗走] ♪ 濃厚だよ [敗色] ♪

 試される [裁量] ♪ オススメよ [再考] ♪

 受け取るよ [詫び状] ♪ 送るよ [哀悼] ♪

 これは私の [愛情] ♪ 満ちてる [愛嬌] ♪

 でも私の恋は [滞納] ♪ あれ?なんか[泣きそう] ♪ 」


すると!王国軍がざわつきはじめた!


ざわ…ざわ…!

「何この人!?何でこんな状況でラップを歌ってるの?」

「い、韻を踏みながら前進して来てるぞーッ!?」

「しかも全部母音で踏んでるぞ!?す、凄い才能だ!?」

「お前ラップ詳しいんだな!」

「へへッ!まぁな!凄いプレッシャーで[吐きそう]♪ 」

「お前たち!そんな事より王を!王を守れーッ!」

「ダメだ!攻撃が全く効かない!」

「止めろー!何でもいい!とにかくこいつの歩みを止めろー!!」

「歌詞の最後が切ないッ!」

ざわ…ざわ…!


「…もう………なんでもアリだな…あの人…」

辰夫は帰宅の準備を始めていた。


そして私は軍の最後尾のラウワ王の前まで歩みを進めると、ラウワ王を指さして韻を踏んだ。


「[王様?]♪ [どうかな?]♪ 私が[王者だ!]♪ Yeah!!!!!」


最後にラウワ王にウィンクしながらバキューンをした。

これは今思い返してみてもとてもセクシーだったと自負している。


「ぐぅ…こ…[降参だ…] 」

「ほぅ。この状況でアンサーするとは…やるじゃない。」


そしてラウワ王は白旗をあげた。

「参りました。…なんか色んな意味でめっちゃ怖いし…」


「えええ!?」

「お、王様ー!?」

王国軍の悲鳴が小一時間鳴り響いた。



—— 私はラウワ国を征服した。




(つづく)

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