第八の瞳

Su9er

第1話

新任刑事の戸田は仕事を辞めようかと考えていた。あまりにも業務内容が想像と違ったからである。戸田は小さい頃によく見ていた刑事ドラマの主人公がどんどんと凶悪な事件を解決し、犯人を逮捕する姿に憧れたタイプの刑事だ。しかし刑事になって一年が過ぎようとしても一向に任される気配がない。それなのに同期のほとんどは一回は操作に携わったことがあるという。確かに戸田自身が携わる暴行事件ももちろん心が痛むし、許せないことだと戸田自身も分かってはいたがやはりどうしてもあのドラマの主人公の姿が脳裏に焼き付いたままだった。

「俺、刑事向いてないのかなぁ」

と、最近よく考えるようになってきていた。そんな風にしていたら、

「よう、そんな悩んだ顔してどうした?」

と、先輩が缶コーヒーを渡してくれた。

コーヒー苦手なんだけどな…そんな気持ちを隠しつつ戸田は先輩に悩みを打ち明けた。

「いやぁ、同期のほとんどが殺人事件に携わったことがあるって言ってるのに自分はまだ一回も無くて、この仕事向いてないのかなって」

先輩はコーヒーを飲んで

「俺が初めてやったのはなってから2年以上経ってからだぞ?お前にもいつか任される時が来るさ。その時まで頑張れよ」

と戸田を励ましてくれた。じゃあまたと先輩は飲み干したコーヒー缶を置いたまま立ち去ってしまった。戸田ははぁぁとため息をついた。俺が片付けるのかと内心イラつきながら缶を捨てに行こうと思った時に、

「おーい、戸田!いるか?ちょっときてくれ」と上司から呼ばれた。

戸田はゴミを捨てに行くのをやめ上司のところへ向かうことにした。戸田は自分が殺人事件を任されないのはこの上司のせいだと思っていた。戸田自身もそれは違うとわかっていたが、何か人のせいにしないと気を保つことができなかった。

「なんでしょうか」

「いやぁ〜今さっき通報があってね、なんでも一家殺人事件だってさ。本来なら別の人に回る所だったけど急遽別の事件が入ってね。そこで戸田。お前これやれるか?」

戸田は初めて聞き間違えかと思ったが。一家殺人って言ったよな?やっと俺も任される!と思った。

「はい!やらせてください!」

と返事をした。しかしテンションが上がっていた所に水をさすように上司が続けて、

「ちなみにバディは、稲毛くんだから。頑張ってね」っと言った。

稲毛とは50代半ばのベテラン刑事だが、気が難しいことで有名だ。戸田も以前挨拶したことがあるが、ことあるごとに今の発言はどういう意味だ?や今なんでその動作をした?などといちいちうるさい人という認識だった。しかし刑事としての腕前はピカイチであることも事実であった。

まじか、あの稲毛さんとか…と少し思ったがそれ以上に初めての殺人事件が任されることに喜びを感じていた。そこにまたもや上司が、

「ちなみにもう稲毛くんは現場に行ったみたいだから早くしなよ」

と続けた。そういうことは早く言ってくれと思ったが戸田は車に乗り現場に向かうことにした。


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