鬼使いの子

笹錦トト

古本屋

「やっぱり。何かが、変だ。自分の体も、周りから感じる視線も。何かがおかしい。変わったような」

 いま思えば、“あの”本を手にしてから、まるで自分が多くの──……に取って食われるかのような“妄想”に度々駆られ、落ち着かない。感じては消え、そしてまた、繰り返す。


◆◆◆


 空襲や一部飢餓による混沌とした状況下で人びとは日常を取り戻さんと、ここまで気張って生きてきた。やっと「もはや戦後ではない」と言われるまでとなり、人々は戦争を二度と起こさないことを胸に誓う。

 戦争による苦しみを人間は忘れてはいけないのだと、後世へ語り継ぐ者も現れた。

 そんな第二次世界大戦直後に生まれた僕、京 獅鷹かなぐり しおうは、今年の八月で十七になる。

 父母によれば正確な誕生日は分からないとのこと。だが出生日など単なる人間の定めた記念日に過ぎない。気にするものではないと、目を逸らし続けてきた。

 運良く金持ちの、そこそこ恵まれた環境を与えられ育った僕は、幼少期より周りから可愛くないと疎まれては今度は世間知らずと揶揄され。いつの間にやら地域で噂される捻くれ者になっていった。

 お世辞を言われど反応しない。ただそれだけのこと。幼馴染にはよく「そんなんじゃあんた、この先痛い目見放題よ。気をつけなさいってば」とまで言われる羽目に。細い体は男にしては貧弱で、弱々しい。圧倒的に不利なのは僕なのに……なんて言えばまた、ああ。

「疲れるなあ、人ってもんは」

 右腕の内側にある、まるで紋のような赤紫のあざはいつ見ても生々しい。生肉のような色。ててさまは「それは鬼紋だ、獅鷹。お前は選ばれたんだよ。鬼の王に」なんて意気揚々と笑って仰ってはいるが、鬼だなんて。そのあからさまな空事を誰が信じるのか。

 シニカルな気持ちを切り替えようと、僕は予鈴が鳴った途端に一目散に学校を抜けていった。

 そしていつも通りの放課後、寄り道先の古本屋へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る