鬼使いの子
笹錦トト
古本屋
「やっぱり。何かが、変だ。自分の体も、周りから感じる視線も。何かがおかしい。変わったような」
いま思えば、“あの”本を手にしてから、まるで自分が多くの──……に取って食われるかのような“妄想”に度々駆られ、落ち着かない。感じては消え、そしてまた、繰り返す。
◆◆◆
空襲や一部飢餓による混沌とした状況下で人びとは日常を取り戻さんと、ここまで気張って生きてきた。やっと「もはや戦後ではない」と言われるまでとなり、人々は戦争を二度と起こさないことを胸に誓う。
戦争による苦しみを人間は忘れてはいけないのだと、後世へ語り継ぐ者も現れた。
そんな第二次世界大戦直後に生まれた僕、
父母によれば正確な誕生日は分からないとのこと。だが出生日など単なる人間の定めた記念日に過ぎない。気にするものではないと、目を逸らし続けてきた。
運良く金持ちの、そこそこ恵まれた環境を与えられ育った僕は、幼少期より周りから可愛くないと疎まれては今度は世間知らずと揶揄され。いつの間にやら地域で噂される捻くれ者になっていった。
お世辞を言われど反応しない。ただそれだけのこと。幼馴染にはよく「そんなんじゃあんた、この先痛い目見放題よ。気をつけなさいってば」とまで言われる羽目に。細い体は男にしては貧弱で、弱々しい。圧倒的に不利なのは僕なのに……なんて言えばまた、ああ。
「疲れるなあ、人ってもんは」
右腕の内側にある、まるで紋のような赤紫のあざはいつ見ても生々しい。生肉のような色。
シニカルな気持ちを切り替えようと、僕は予鈴が鳴った途端に一目散に学校を抜けていった。
そしていつも通りの放課後、寄り道先の古本屋へと向かった。
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