第4話 殴り始める者
オークにとって、ブートバスターとは戦士の中の戦士にのみ与えられる、誉れの結晶だ。
公的な分類名ではアーモマニューバと称される宇宙戦闘機の一機種に過ぎないブートバスターだが、オーク氏族内では太古の名剣宝刀の如く各機ごとに銘を与えられ珍重されている。
それは偏にこの宇宙戦闘機が余りにもオークの好みにマッチしていたからだ。
ブートバスターは本来の名である
前方に武装搭載ラック、後方に大出力スラスターを装備したアームユニットの構造は、バレルショッターの背負うキャノンユニットと同様の発想だ。
ただし、その操縦難易度は段違いである。
機体と追加装備の推進力の方向が同軸に纏められたバレルショッターと違い、フレキシブルに可動するアームユニットの産み出す推進力は安定し辛く、ちょっとしたミスで機体をバラバラにしてしまいかねない。
ドッグファイト時にパイロットに掛かるGは並の戦闘機とは比べものにならず、オークのような頑強さが無くては操縦以前に潰れてしまう。
そして、主機と同クラスの推進機を複数備えていながらプロペラントは通常機と変わらないため、戦闘可能時間は驚く程に短い。
そんな欠陥機寸前のマシンがブートバスターだ。
ジャジャ馬そのものなブートバスターだが、完全に乗りこなしたパイロットの発揮する戦闘力は圧倒的であった。
運動性能は既存のあらゆる戦闘機を凌駕し、影すら追わせない。
曲芸染みた機動はお手の物で、どんな敵だろうと背後を取り砲撃を叩き込む。
決闘なら確実に相手を屠る戦闘機絶対殺すマシン、ブートバスターを止められるものはブートバスターしかいない。
敵を正面から叩きのめす事を至上の美徳と考えるオークの感性にとって、まさに浪漫の結晶のような存在であった。
「つまり、こんな馬鹿の塊に乗っているなんざ、相手も相当の馬鹿野郎って事だ!」
全開加速でビリビリと震えるコクピットの中、Gでシートに体を押しつけられながら俺は毒づいた。
モニターの中で異様な速さでこちらへ近寄ってくる光点を睨み、拡大する。
「三本腕か!」
敵は細いボディから三方に伸びたアームユニットを持つブートバスター。
我が愛機よりも腕が一本多い。
だが、腕の数の多さは必ずしも有利さに繋がらない。
推力と火力が増す分、操作難易度は格段に跳ね上がるからだ。
俺は操縦桿を握り直すと、機体下部に搭載された短砲身プラズマキャノンにエネルギーを送り込んだ。
トリガーを絞る直前に、メインモニターの端で通信のサインが明滅している事に気付く。
「広域汎用通信? この状況で話しかけてくるのか?」
無視して発砲しようとも思ったが、こちらの目的はトーン08がジャンプエネルギーをチャージするまでの時間稼ぎだ。
「いいぜ、聞いてやらあ」
通信スイッチをオンにする。
スピーカーから、ボイスチェンジャーを通したかのような男女定かでない合成音声が流れ出た。
「……に停船せよ! 聞こえるか、襲撃者! ただちに停船して裁きを受けよ!
大人しく停船すれば罪一等を減じ、この場での処刑に留めてやる!」
「罪一等減じて処刑って、減じなければどうなるんだよ……」
思わず漏れた突っ込みに、すかさず苛烈な返答が戻る。
「決まっている、族滅だ!
神聖フォルステイン王国の財貨を奪って無事で済むと思うな!」
所属国家を押し出したこの物言いは
人体改造によりオークにも匹敵する身体性能を得たサイボーグ騎士、合成音声染みた声も納得だ。
相手にとって不足はない。
強敵との邂逅に、俺の頬が吊り上がる。
なんだかんだ言いつつ、俺にも戦いとなれば沸きたつオークの血が流れているのだ。
「そりゃ怖い!
俺は死にたくないし、それで氏族も狙うとくれば、こいつはもう抵抗するしかないな!
あんたを打ち破って堂々と凱旋させてもらう!」
「ふん、
この私を相手どろうとは、その蛮勇、褒めてつかわす!」
ブートバスターがオークに広まった俗称であるように、ジョスターは
騎士の駆る三本腕の敵機は、威圧的に腕を拡げながら機首をこちらへ向ける。
「神聖フォルステイン王国が
「名乗り上げとは古風だが、乗ってやらあ!
トーン=テキン氏族が戦士カーツとは俺の事!
俺の『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます