最終話 丸の居場所

ざわざわざわ……。


今日は教室にたくさんのニンゲンがいる。

まだ教室にクロは来ていない。一人一つくらい席を持っているたくさんの紺色の服を着たニンゲンは大体来ていた。当然何を話しているかはわからない。でも、今日は「クロ来ないんじゃない?」的な表情をしているニンゲンがちらほらいる。


しばらくすると、クロじゃない大人のニンゲンが教室に入って来た。

きっとビンゴだ。クロは今日は来ないのだろう。


さっき入ってきたニンゲン――頭が灰色だからグレイと呼ぶことにする――は、数分話すと教室を出ていった。代わりに、グレイよりもすごく背が小さく、髪を後ろで1つに縛っている丸っこいニンゲン――これはイッポンと呼ぼう――が入って来た。イッポンはグレイの半分くらいの間口をパクパクした。するとたくさんのニンゲンの中の1人にパクパクして周りのニンゲンを立たせ、一斉にペコリさせた。奇妙な行動だ。何の意味があるんだろう。でも見ていてどこか面白い。気に入った。でも確かにクロもこんな行動をしていたような気もする。


自由になったニンゲンたちは散り散りになって、特定の人に口をパクパクしたり、席に座って何かやっていたりした。


たくさんのニンゲンの中の1人の、大人しそうで、顔に何か丸と丸がくっついたようなものをつけているニンゲン――まるまるでいっか――が近づいてきた。

僕のケージを開けて、僕の皿にひまわりの種を置いた。皿に置いたあと、まるまるにもう一人ニンゲンが飛びついてきた。活発そうで、髪の毛は短い――ショートでいいかな――。ショートは僕をケージ越しに撫でた。クロより指が細いから少し違和感があるが、それなりに気持ちいい。ショートはにっこり笑った。まるまるも続いて僕に指を置き、少し動かした。ちょっとくすぐったい。まるまるも笑った。


ショートが急に表情を変え、自分の席(たぶん)に戻る。まるまるも戻る。

そのまままたイッポンが入ってきて、ニンゲンたちがずっと席に座ったままの長い時間になった。


しばらく長い時間が経って、またニンゲンたちが自由に出歩く時間になった。

まるまるとショートはこっちへ来ず、楽しそうにパクパクしている。


代わりに、真面目そうなニンゲン――何故かまるまるを見ると赤くなるからフシギでいいか――と、平凡なニンゲン――なんか違う第二の人生歩んでそうだからフタリかな――がこっちに来た。


ひまわりの種があることを確認して、ケージを開けた。そのままフシギの手の上に乗せられる。

フシギの手は意外と大きくて、まるまるとショートよりちょっと固く感じた。でもクロともなにか似たものを感じる。

フシギは僕を優しく撫でた。気持ちいい。でもなぜか、撫でているのはフシギなのにフシギのほうが気持ちよさそうに目を細めている。本当にフシギなニンゲンだ。

続いてフタリの手の上に乗せられ、フタリも同じように撫でた。フシギよりも少し手が大きくて、包み込まれているような感じがする。

やっぱり僕は、ニンゲンに撫でられるのが好きだ。優しくて、温かい。


フタリは、僕を優しくケージの中に戻して、フシギと一緒に手を振って自分の席へ座った。


ここでグレイが教室に入って来て、2回目の長い時間が始まった。



2回目の長い時間から、ニンゲンが何かを食べている時間まで、誰も僕のところに来なかったけど、何かを食べている時間が終わって、1人ニンゲンがやってきた。最近急に現れた、ずっと見たことなかったニンゲンだ。まるまるがつけていたものとすごく似ているものをつけていて、髪型が丸っこい。完全にこっちのほうがまるまるにふさわしい容姿だが、僕はあえてまるまるとは呼ばない。紛らわしいし。代わりに、いつも楽しそうにしているからタノと呼ぶことにする。


タノは、僕のひまわりの種を補充し、今まで皆気付いていなかった水飲みコップの中の水をかえた。細かいところまで気づいている。さすがタノだ。今まで出会ったニンゲンの中で、クロくらい気が合いそうな気がする。


タノは僕と目線を合わせるような体勢になって、僕のことをじっくり観察している。あまりにも見つめられるので、少し恥ずかしい。

しばらく見つめ合って、やっとタノが動いた。ケージ越しにそっと僕に触れた。僕の毛並みを感じるように、優しく優しく撫でた。タノはずっと無表情だったから何を考えているかは全然分からなかったけど、僕のことを考えているのは確かだ。


その後、タノは他のニンゲンに口をパクパクされ、ここを立ち去った。去り際に、僕に微笑んだ。


2年A組とかいうこのニンゲンの団体は、全員ではないが、僕に優しくしてくれる。僕は、そんな2年A組が好きだ。まるまるも、ショートも、フシギも、フタリも、タノも、クロも。僕の居場所はここなんだと教えてくれた。

僕の命が尽きるまで、優しいニンゲンのみんなのそばにいたいな。

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違う世界の同じ場所で。 きみとおさる @kimitoosaru

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