放課後にはクリームソーダを
和希
第1話
教室にはいろんなタイプの人がいるけれど、たいていは二種類に分類できると言えるかもしれない。
例えば、勉強ができる人と、できない人。
運動が得意な人と、苦手な人。
優しい人、冷たい人。
真面目な人、不真面目な人。
ビジュアルがいい人、そうでない人。
どんな物差しで測るかは別として、人と人とを比べる限り必ず優劣は生まれ、誰もがどちらか一方の極へと無条件に振り分けられてしまう。
そして、二極化されるのはなにも性格や外見だけでなく、もしかしたら生き方もそうなのかもしれない――。
高校に入学して半年が過ぎた頃、私、竹内
楽な生き方、辛い生き方。
得な生き方、損な生き方。
そして、幸せな生き方と、不幸せな生き方。
これまでの高校生活をふり返ってみると、総じて私は辛くて損な、自己犠牲を伴う不幸せな生き方をしている気がする。
今日だってそうだ。
昼休み、教室のいちばん奥の席に座り、背を丸めてこそこそとタブレットをのぞきこんでいる男子の姿が目にとまった。不審に思ってそっと近づいてみると、案の定、ゲームをして遊んでいた。明らかに学校のルール違反だ。
私はため息をつき、注意する。
「北原、またそんなことをして。バレてないとでも思ってるわけ?」
「げっ、委員長!?」
冷たい視線を浴びせる私に、北原
この男子はいつもこうなのだ。まるで学校のルールは破るためにあり、どんな悪事も先生に見つからない限り罪にはならないと言わんばかりに自由を謳歌している。
私が見て見ぬフリをすれば済む話かもしれない。現にこの教室で私以外の誰もが北原に注意をしない。北原はそういうキャラだから、で許されてしまい、時には一緒になって盛り上がっている男子さえいる。
けれども、私はこの教室の学級委員長だ。教室の秩序が保たれていなかったら、『連帯責任』という名目で私まで先生からお叱りを受けてしまう。
やむなく、私は突き放すように言い放した。
「私、この前も同じこと言ったわよね? 今度こそ先生に言いつけるって」
「そ、それだけはご勘弁を!」
北原は手を合わせ、命乞いでもするかのように必死に頼みこんでくる。
けれども、ここで気を許してはいけないことを私はこの半年で学んでいた。このお調子者は反省なんて少しもしちゃいないのだ。
「ダメ、大人しく先生に怒られろ」
「頼むよ委員長。ジュースおごるからさ」
「いらない」
「そう怖い顔すんなって。委員長は笑っている時のほうが可愛いよ」
「北原にそんなこと言われると寒気がする」
「ひどくねっ!?」
そんな感じで北原といがみ合っていると、教室からくすくすと笑い声がもれ聞こえてきた。気づけば私たちはすっかり周囲の見世物となっていた。
「まーた始まったよ、いつもの漫才が」
「なんだかんだで仲いいよね、あの二人」
「北原の奴、委員長にかまってほしいの、分かりやす過ぎー」
周囲がどっと笑い出す。
冗談じゃない。私は北原と仲良くなんかないし、北原にかまっていられるほど暇でもない。
私は不満たっぷりの冷淡な目をぎらんと光らせてふり返り、周囲を黙らせた。
幸い、北原も同じ気持ちだったのか、
「べっ、別にそんなんじゃねーし」
きっぱりとそう否定すると、廊下へと逃げるように去っていったのだった。
ああ、放課後になった今でも、思い出すだけで腹が立つ。
それもこれも、みんな北原が悪いのだ。おかげで私はクラスメイトたちからすっかり恐れられ、いまだに友達と呼べる存在すらいない。教室にいて、周りの皆が私と距離を置こうとしている空気を感じるのも辛かった。
そして、涼気をはらんだ秋風が吹く帰り道をとぼとぼと歩きながら、ふと自分の生き方について思いを馳せる時、急に言いようのない寂しさがこみ上げてくるのだった。
――私はなんて不幸で損な生き方をしているのだろう? と。
そんな憂鬱な気持ちを引きずって、うつむきがちに歩いていた矢先。
夕陽に照らされた明るい道が、影絵のような黒いビル群の間をぬって真っすぐ伸びているのに私は気がついた。
普段ならまるで気にも止めない細い路地。けれども、暗い気分に支配されていた私の足は、気づけば甘い蜜を求める蝶のようにふわりと誘いこまれていた。
やがて、私はその通り沿いに一軒の古びたカフェを見つけた。
「へえ、こんなところにお店があったんだ」
意外な発見に思わず目を丸くする。
まるで童話に出てくる魔法使いの館のような趣ある外観のカフェだ。興味を引かれ、窓の外からそっと店内をうかがってみる。カウンターに椅子が五つ、テーブル席が三つ。お世辞にも広いとはいえない空間に、お客さんの姿はない。
「は、入ってみようかな」
いつもは寄り道などしないのに、今日の私はどうかしている。
好奇心に素直に従い、レトロな扉に手をかけ、緊張ぎみに店内へと足を踏み入れてみる。
「いらっしゃいませ。お一人ですか?」
甘い声が私に優しく問いかける。
私を出迎えてくれたのは、すらりと背の高い、白いシャツを着た、イケメンの若い店員さんだった。
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