第158話 男たちの会話
「……久しいな、クレイジードッグ」
ぼつりと呟くファントムと呼ばれた男。2mもある巨体から見下ろされれば、さすがのレオンも冷や汗を流してしまう。
「はんっ、ファントム。何しに来たんか答えんかい!」
レオンはファントムを睨み付けながら大声で問い掛ける。
だが、ファントムは黙ってレオンを見下ろすばかり。何も喋ろうとはしなかった。
「……相変わらず口数の少ない男やな、お前は!」
この大男がファントムと呼ばれるのはこういった男だからだ。のそっとした動きとほとんど喋らない寡黙さ。そして、この恐怖感を煽る巨体と視線。それがゆえに
その巨体が一歩レオンに迫る。すると、レオンの踏ん張る足に思わず力が入ってしまう。
本来のレオンならばこうはならないはずだが、今まで警官たちに散々追われてきて疲弊している状況だ。それがゆえにファントムに対してどうしても身構えてしまうというわけである。
「……お前の言う通り、バロック様のご命令だ。お前を連れ戻しに来た」
威圧感のある彫りの深い顔。そこから重苦しく放たれる言葉。
「はっ、お前ごときに負けると思っとるんか? どないせここに来るのにサツどもから情報もろてんやろ?」
どこまでも強がるレオンである。
一方のファントムは、黙ったままレオンを見下ろしている。その視線はまったくレオンから離れていない。
「もっと早く、こうすべきだったな……」
ぼそっと呟くファントム。
「ああん? 何を言うてんや。聞こえんぞ、この大木が!」
苛立ちを隠せないレオンが、我慢しきれなくなったのか煽り始める。
「俺の邪魔する言うんやったら、ここでお前もバラすだけや。俺はこんなところで終わる男やないんやからなっ!」
ついにレオンが行動を起こす。
だが、レオンの拳はファントムを捉える事はできなかった。
「なん……やと?!」
2mを超える大男が、鋭さのあるレオンの攻撃を見事に躱していたのだ。さすがのレオンも驚かざるを得なかったというわけだ。
「……かなり疲弊しているな。本来のキレがない」
ファントムはレオンの攻撃に評価を下すと、そのがら空きとなった背中に一撃を振り下ろす。
だが、レオンはそれを躱す。さすがにバーディア一家の中で狂犬と称されただけの事はある。攻撃への反応速度は大したものだった。
「はっ、いくら疲れてるいうたかて、お前のとろい攻撃を受けてたまるかっちゅうねん!」
前へ跳んで攻撃を躱したレオンは、地面に手をつく。そして、その反動を利用して後ろへと跳ぶ。さすがに不意打ちが成功したのか、これをまともに食らってしまうファントムである。
だが、少しよろめいただけで済んでしまう。
「軽いな。やはり、疲労は否めないな……」
そう言いながら、レオンの足を掴むファントム。
「うおっ?!」
片手で軽々と持ち上げられ、レオンはファントムに振り回された挙句、地面へと叩きつけられた。
「ぐぅっ!!」
さすがのレオンも、動けない状態でまともに食らってしまったので苦悶の声を上げる。
「おとなしく捕まれ。今ならバロック様から直々にお叱りを食うだけで済む」
地面に横たわるレオンを見下ろしながら、ファントムは諭すように話し掛ける。
だが、レオンがそれをやすやすと受け入れるわけもなかった。
「はっ、今さらどの面下げて尻尾振れっちゅうんや! 俺は俺や、誰の指図も受けん!」
「……そうか、残念だな」
倒れ込みながらも反撃を試みるレオンだったが、ファントムの方が早かった。足払いをしようとしたレオンの攻撃を膝を落として防ぐと、そのままみぞおちに向けて拳を叩き込む。
強力な一撃だったのか、レオンの意識が飛びそうになる。それでも堪えるあたり、レオンにも意地があるのだろう。
「……殺せ。俺は絶対に戻らん。連れて帰りたかったら、俺をここで殺すんやな!」
どこまでも強がるレオンだった。
吠えまくるレオンに対して、ファントムはただひたすらに冷たい視線を送り続ける。
「どこまでも気の強い男だ。俺もそういうところは気に入っていたぞ。だが、バロック様の命令は生きて連れて帰る事だ。その望みは……叶えられん!」
ファントムはそう呟くと、力強くもう一撃レオンにお見舞いする。
この一撃でさすがのレオンも気を失ってしまう。
「……さすがの狂犬もこれで終わりだな。あとは連れて帰れば任務完了だ」
ファントムはどこからともなくロープを取り出すと、レオンを縛り上げる。そして、担ぎ上げると自分の乗ってきた車にレオンを放り込んだのだった。
こうして、数日間にも及んだレオンの逃走劇は、幕を下ろしたのである。
それにしても、バーディア一家からも追手が差し向けられているのは予想外だった。
一体いつ来て、どこで情報を手に入れたのだろうか。不思議に思うところは多い。
しかし、レオンが捕まった事で、浦見市や根田間市で起きた事件の真相解明が本格的に進む事になるだろう。
長きにわたって浦見市を悩ませてきた事件は、いよいよ終結の時を迎えようとしていた。
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