第14話 突然の雨
「おっはよー」
教室に着いた栞は、入るなり元気に挨拶をする。
「おー、しおりん、おはようなんだぞ」
「おはよう、栞ちゃん」
「おはよう、しおりん」
友人三人がそれぞれ挨拶を返してくる。
今日の教室の中もまったくもっていつもの通りだ。平穏な一日になりそうな感じである。
ところが、その空気の中で、真彩が栞の鞄に違和感を覚えた。
「栞ちゃん、その白いのってもしかしてカッパ?」
指を差しながら質問する真彩。それに対して栞は苦笑いをしながら答える。
「うん、天気予想では10%って言ってるのに、親に絶対降るからって言われて持たされたのよ。でも、結構当たるから仕方なくね……」
「へえ、そうなんだ」
栞の顔があまりにも困ったような顔をしているので、真彩はどう反応していいのか分からずに冷めたような反応になってしまった。
ところが、二時間目を終えたくらいの頃だった。
空の雲行きが段々と怪しくなり、一気に雲で覆い尽くされてあれよあれよという間に雨が降り始めた。しかも、かなりの本降りである。
(ああ、うちの親って本当にすごいわね……)
栞は信じられないような表情で空を見ている。
グラウンドは当然ながらぐしょぐしょで使えそうにない。なので、四時間目の体育は体育館で行うという事が伝えられた。栞たちは体操服に着替えると、ぞろぞろと体育館へと向かった。
雨のせいで急な変更という事もあって、女子の体育は準備のかからないバスケットボールとなった。大体の生徒がそこそこルールを知っているというのも大きかった。
準備運動や簡単なルール説明や練習が行われ、授業の後半ではミニゲームが行われる事になった。すると、
「よーし、しおりん。どっちが勝つか勝負だーっ!」
相変わらずわっけーが突っかかってくる。何でこうも栞に対して対抗意識を燃やしてくるのか、まったくもって分からない。
「はいはい、いいわよ。負けて泣いたって知らないから」
それに対して栞は思いっきり挑発する。
「何をー? 泣くのはそっちだー!」
そしたらば、当然のようにわっけーは挑発に乗ってきた。扱いやすいったらありゃしない。
で、その勝負の結果はというと……、
「くっそー、勝てなかったかーっ!」
「はあはあ、意外にやるわね、わっけー」
なんとまぁ引き分けだった。だがまぁ、わっけーは本気で悔しがっていたので、本気で栞に勝つつもりでいたらしい。そんなわっけーを見て、栞は微笑ましく思った。
その時だった。栞の腕になにやら冷たい感触が走る。栞は慌てて上を見る。
「どうしたの、栞ちゃん」
栞の動きが気になった真彩が駆け寄ってきた。それでも栞は動かない。すると、もう一度栞に冷たい感触が走る。
「……雨漏りね」
「え?」
栞が呟くと、真彩が驚く。栞の立つ場所の床を見れば、少し水滴が落ちているようにも見える。
「うん、雨漏りが起きてるかも知れないわ。先生に伝えておかなきゃ」
「ええ?! それは大変!」
栞と真彩は、すぐさま体育教師に雨漏りの可能性を伝え、その場所の確認を取る。
「むぅ、これは間違いないね。ここらに立ち入らないようにしておこう」
体育教師はそう言って、該当箇所に立ち入れないようにボール籠を引っ張り出してきて設置した。
「ありがとう、昼休みにしかるべきところに報告しておくよ」
そう言っていたので、栞たちは体育教師に対応を任せる事にしたのだった。
そうして、昼休みの事だった。
「あー、居た居た。飛田先生、ちょっとよろしいですか?」
栞から雨漏りを知らされた体育教師が、一人の男性教師に声を掛けた。
「何でしょうか、早川先生」
飛田と呼ばれた先生が、顔だけを向けて反応する。
「体育館で雨漏りが確認されたので、いつも通り対応お願いできますか? 一応、立ち入れないように対処はしておきましたので」
体育館の2階にある入口に、立入禁止の紙だけ貼り付けてきたらしい。その話を聞いた飛田先生は、
「そうですね。午後は私の授業はありませんし、すぐにでも対応しましょう」
と言って机の下に置いてある工具箱を引っ張り出した。
「ああ、まだ食事中なんですから、それを済ませてからにして下さい。給食の担当者から叱られますので、お願いします」
「……それもそうですね。あの人うるさいですからね」
早川先生に引き留められて、飛田先生は腰を下ろした。
その様子を遠目に見ていた千夏が、
(これはただ事じゃないわね。私も五時間目は何もないし……、うんよし)
自分の予定を確認すると、興味ありげに尾行してみる事にした。
食事を終えた飛田先生が、工具箱を持って職員室から出ていく。それにしても、かなり大きな工具箱だ。何が入っているのだろうか。同じように食事を終えた千夏は、早速尾行を開始する。
途中に屋根のある連絡路を通るが、相変わらず強めの雨が降っている。そのおかげか、多少音を立てたところで気付かれずに済んでいる。
飛田先生は体育館へと入り、すぐさま2階へと移動する。雨漏りのしている場所はバスケットボールを入れる籠が置きっぱなしになっており、確かにボールには濡れた跡がある。
雨漏りの位置を確認した飛田先生は、トランポリンとマットを引っ張り出すと、バスケットボールの籠と入れ替える。その動きはとてもてきぱきとしており、あっという間に設置してしまった。
次の瞬間、千夏は驚くべき光景を目の当たりにする。
なんと、工具箱から命綱を取り出して身に付けると、するすると体育館の壁をよじ登って天井に到達してしまった。そこから梁を伝って目印となるトランポリンの真上まで移動した。
(嘘、なんでこんな危険な事してるの?!)
下で見守る千夏は混乱している。
一方の飛田先生は雨漏りの状況を冷静に確認すると、工具箱から修繕用の道具を出して、あっという間に慣れた手つきで雨漏りの修繕をしていく。
意外な事に草利中学校の体育館は屋根がそのまま天井という直天井なので、これで簡単に直せてしまうのだ。
(う、嘘っ! あんな噂まで本当だったなんて!)
千夏は口から出そうになる声を必死に抑えた。
その千夏が見守る中、無事に天井の雨漏りの修繕が完了する。こうなれば、後は天井からゆっくり降りていくだけである。
ところが、ここでもまた、千夏が驚くような光景が繰り広げられたのであった。
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