21
転移先は森だった。
しっかりつないだ手首のおかげで、無事に四人がそろっている。
いまさらながらに、オニールとアンジェリカの手首のほそさをかんじ、ロイはパッと手をはなす。
「森だから、ロイがリーダーだね」
「まかせろ」
作戦会議のときに、それぞれ得意なフィールドをあげていた。
ロイは
この
着いた地形により、リーダーを決めることにしていた。
「このリュック、けっこう重いから、俺が持ってるね」
「頼む。あとで変わるわ」
ルークに手をあげ、ロイは周囲をみわたす。
ちかくに地面が切れている場所があった。
大木が何本も生えており、そういう場所はすぐに
ちかづいてみると、
大木に手をつきのぞきこむと、数メートル下の道を、別チームが歩いているのを見つけた。
「ロイ、きをつけて――」
「下にいる」
ルークはすぐに口をとじる。
オニールとアンジェリカを
「Sクラスじゃないよな」
ロイは小声でルークに確認する。
「たぶん、Bクラス」
ルークも小声で返答する。
「どうするの? やるんでしょ?」
小声のオニールは、表情が固い。
アンジェリカは、ふわりとほほえんだ。
「はじめての
おもったより好戦的なアンジェリカに、顔をみあわせる。
アンジェリカは気にせず、小首をかしげてつづけた。
「まず私が、目くらましの光魔術を放って――」
アンジェリカの言葉を、ロイはひきつぐ。
「俺の土魔術で、やつらの足元をへこませ、体勢をくずす」
オニールを見ると、彼女はうなずく。
「私が氷魔術で、ほそい矢を量産し――」
「俺が風魔術で、それをぶつける。よし、やってみよう」
ルークの言葉に、全員がうなずく。
そうして
ロイの瞳に、できあがっていく
アンジェリカの背後に、金色の魔術陣がうかびあがる。
ロイはいそいで自分の術式を完成させる。
「――
アンジェリカの声に、おくれてロイもつづく。
「術式展開!」
ロイはすぐさま確認するが、転んでいるのはひとり。すこしずれたらしい。
オニールは氷の矢を降らせ、ルークはそのスピードを強化させる。
しかし、ばらばらに逃げ出す
すぐさま次の構築にうつる。
アンジェリカはちいさな光球を、ボールのように投げつける。
当たった生徒は自身のカウンターをみて、あたまをかかえた。
シュッと生徒が
ころぶ生徒に、オニールの矢が当たる。しばらくして、生徒の姿がかききえた。
「あとふたり!」
こちらの位置はすでにバレて、むこうからも火球が飛んでくる。
ルークは風魔術で
火球はカウンターの障壁にはじかれる。そうしてその生徒も姿を消した。
「へえ。こういう攻撃も有効なのか」
ルークはあごに手をあて、うなずく。
最後のひとりは実験台。連携魔術のタイミングをたしかめながら、おもいきりぶつけていく。
あわれな男子生徒の姿がかききえ、チームははじめての勝利をつかんだ。
ルークは枝で、さきほどの戦況図を地面にかく。
「戦闘スピードに、
「おもったより、バタバタしたな」
「逃げられると、むずかしいです」
「ルークが、相手の攻撃を
ロイはうでぐみをして、天をあおぐ。
「人間を狩ったことがないから、想定外がおおいな」
「
ルークの問いに、ロイは首をかしげる。
「反撃の命中率が、こちらより高いだろ。
「ルークは、
オニールは提案する。
「わたしたちは攻撃に専念する。役割分担がはっきりしていたほうが、まよわない気がするの」
アンジェリカはうなずく。
「ひとりずつ倒すのはどうでしょう。地形や方角などを見て、ロイくんがたおしたい相手を転ばせるんです。そこに私とオニールが総攻撃をかけ、いなくなったらまたつぎのひとに――」
六つの瞳に凝視され、アンジェリカは首をかしげる。
オニールが咳ばらいをした。
「な、なかなか、
アンジェリカはまたたき、ふわりとほほえむ。
「週末に、お兄様に相談にのっていただいたんです。対・魔獣の戦術ですが、お役に立てばうれしいです」
ロイはうなずく。
「ひとりずつ倒す、というのはとてもいい。次の
ロイは足で地面の絵を消す。
全員がたちあがったとき、そばの
すぐさま四人は魔術を構築する。
背のたかい草がおおきくゆれて、くすんだ金髪の男子生徒があらわれた。
「やっとひとに会えた~、ってちょっとまって!」
両手をあげ、無抵抗をアピールしてくる。
ルークは小声でロイに問う。
「どうする、リーダー」
「
「泳がせてみる?」
ロイはまよう。数のうえではこちらが有利。しかし裏をかかれないとはかぎらない。常に気を張るのも疲れる。やはりここは、ひとおもいにポイントを奪うのがおたがいのため――。
「俺、ひとりだけ別の場所に飛ばされちゃって。もー、喉カラカラ! おねがい、水わけて!」
男子生徒は、アンジェリカに両手を合わせる。
アンジェリカはうなずき、リュックをしょっているルークを見やる。
「アンジェリカ。他人にほどこしている余裕はないんだよ」
「わけるのは、私の水だけ」
アンジェリカは、ルークにスッと手を出す。
ルークはためいきをついて、リュックから一本の水筒をとりだした。
アンジェリカから水筒をうけとり、男子生徒は喉をならす。
「はあー、生き返った! ありがとう、アンジェリカ」
男子生徒は下手なウィンクをして、アンジェリカにちかづく。
「俺はディコイ。ディーくんって呼んでね」
水筒を返すついでにアンジェリカの手をにぎろうとして、サッと避けられていた。
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