愛せ平穏!潰せ危険分子!(?!)

赤猫

平穏を愛する

 私の生きがいは人の恋を見る事!(乙女ゲーム!)

 私は恋をしないのかって?…ないない!私みたいな地味な人を好きな人がいるのなら相当変わってる人だよ?


「ないない…ありえないって…!」

「だから好きなんだってお前のこと」


 クラスのモテ男に今壁際まで追い込まれて逃げ道を失っている。

 どうしてこうなったのか少し頭を整理するためにお話させて欲しい。


 私の名前は紅井縁あかいゆかりごくごく普通の女子高生だ。

 趣味はゲームで主に乙女ゲームが大好き。

 それ以外は何もない勉強も運動もど真ん中に位置する人である。

 今日も私は友達の八嶋香恋やしまかれんからいつも通り色恋話を聞かされていた。


「ねぇ!聞いて私ね今日告白する!」

「い、いきなりだね…?」


 香恋ちゃんは顔を赤くして出入口にいる男子に視線を向けている。

 彼女が見ているのはクラス一のイケメンさんだった…?!

 名前は確か…うん、覚えていない!


「…誰?」

「なんでぇ?!浅野成哉あさのせいや君だよ!」

「…あー隣のクラスでそんな人いたね」


 本当に忘れてた。

 女の子たちが黄色い声を出して毎日のようにキャーキャー言っている人がいるのは知っている。

 知っているのはその程度の情報だけ関わったことなど一度もない、というか関わりたくない。

 私の生活を邪魔する可能性があるものは、何があっても潰す。

 平穏は大事命よりではないにしても大事なのには変わらないから絶対に危険分子はぶっ潰す。


「おー顔怖いって」

「あ?んだよ?やるか?私の平和を邪魔する奴は泣かすぞ?」


 後ろから声をかけてきた男友達の南野海みなみのかいを睨みながら返した。

 コイツだから容赦なく罵っても良いのだ。

 コイツ以外にやろうものなら私に明日はないと思っているくらいには信用している男だ。


「何で喧嘩腰なんだよ…?」

「海なら良いかなって」

「化け物だよそれは」

「そうかそうか…おい表出ろ今すぐお前を泣かす」

「すみませんでした」


 これがいつもの平穏であり私が愛してやまない日常だ。


 放課後に香恋ちゃんは宣言通り浅野成哉に告白をした。

 私はそれをこっそりと今日部活が休みな海を捕まえて彼女には申し訳ないけど聞いている。


「なぁ、流石に帰らね?八嶋に申し訳ないし…」


 小声で言う彼に私は肘鉄をした。

「グエッ」と声がしたけど知らない顔をして私は友達とその子が好きな相手を見ている。


「だってイケメンだよ?香恋ちゃん泣かせたらどうするのさ!」

「お前はイケメンを何だと思ってるんだよ?!」

「画面の向こうしか信じてない」


 二次元のイケメンしか推せない私にとって三次元はあまりにも信用できない。

 性格が悪かったりそうだとしても性格に難があるとかあるよ?


「俺はどうなんだよ?」

「黙れお前はイケメンかと言われれば顔は良い方だが論外だ」

「…傷つくよ?泣くよ?」

「…しっ!口閉じろ」


 私は耳を澄まして会話を聞く。

 距離もあるから上手く聞き取れないけど、香恋ちゃんの表情を見る限りあまり良い返事では無いような気がした。


「…帰るよ鉢合わせしたら気まずいでしょ」

「お、おう」


 私は足早にその場を去った。


 後日朝少しだけ目を赤く腫らしている香恋ちゃんがいつも通りおはようと挨拶をしてきた。

 ただ静かにいつもの会話のように香恋ちゃんは振られたと教えてくれた。

 私はそれに慰めの言葉を言うことはなく「そっか」と返した。


 振られたから今日の放課後は目一杯遊ぼうと言う彼女の提案にのってカラオケに行くことになった。

 私は今日タイミングが悪く先生に呼ばれたので後で合流することになった。

 海も連れて来てねと頼まれたので海に連絡して待つことにした。

 それが最悪だった。

 待たずに自分の足で来いって海に言えば良かったのに、私はその日珍しく待つという選択肢を後悔した。


 教室に荷物を取りに行っている時に男子どもの会話が聞こえた。

 それだけならいつもの会話だから私は何かくだらない事でも言ってるのかなって思っていたけど知ってる子の名前が出てきて私は足を止めた。


「昨日女の子に告られてたけど返事どうしたの?」

「あーあの子ね地味だから断った」

「確か…八嶋さんだったかな?めっちゃいい子って聞くけど良かったの?」

「だってさああいう子ってやらせてくれないじゃんー」


 ダメだ…こいつ私の嫌いな奴だ。

 あの人と同じ感じがする。


『縁って何でも従順に聞いてくれるし顔も良いから本当に良い女だよ』


 あの日の放課後も今みたいに教室で話していた。

 とても尊敬していた先輩好きだった人。

 私は…その時どうしたんだっけ?


「ねぇ、何話してるの?」


 私の体は気が付いたら男の子たちに声をかけていた。

 浅野を睨みつけて私は声を発する。


「私の友達の…悪口言ってるように聞こえたからさ」

「事実じゃん」


 私はそれを聞いて胸倉を掴もうとした。

 それを慌てた様子でどこから現れたのか分からない海に羽交い絞めにされて拘束された。


「止めんな!」

「殴ったらお前が悪くなるだろうが!何を言われたか知らないけど落ち着け!」

「こいつが香恋ちゃんに対して何て言ったと思って…!」


 ジタバタと暴れるも私はそのまま海に連れてかれた。


「落ち着いたなら離すけど」


 私は舌打ちをして頷いた。

 殴ったら私が悪くなる。それは正論で何も言い返せない。


「…何で私の場所分かったの?」

「丁度教室に入るとこ見かけて来てみればお前が殴りかかろうとしてたって感じ」

「…そう」


 私はリュックを担いでポケットからスマホを取り出した。

 香恋ちゃんに今から向かうねとメッセージを送るために。


「海」

「何だよ」


 学校を出て少ししてから私は口を開いた。

 少しだけ気まずいなと思ったけど言わないといけないことがあるから。


「ありがと…止めてくれて」


 海は私の言葉で手に持っていたスマホを落としそうになっていた。

 その目は見開いていてなぜか驚いている。


「ガラじゃない事するなよ…ビビったんだけど?」

「…もう海にお礼何て言わない!」


 私はそっぽを向いてバスが来るのを待っていた。

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