散文詩

@that-52912

第1話

世界と君との戦いでは、世界に味方せよ、と言ったのはカフカだったか。聖書の消えた時代。おれのこころを鼓舞する古びたカフカ全集よ。そうして、おれのこころは壮絶な戦死を迎えた。無数の、繁栄から見放された死者たち。そこに、資本主義からたっぷり栄養をもらったビルディングがそびえる。


そこはまるで、昭和20年のミンドロ島だった。おれたちは、墓穴を掘り、陽気な死者の

真似をし、また、陽気な骸骨にもなった。

風のような速さで敵が攻めてきた。ジャングルへ、甲虫になって追いたてられ、踏み潰された。涙のように、青い血液がにじむ。


踏み潰される前、おれは優しい鈴の音を聞いた。草むらで息を潜めて聴くメロディーよ。そこには、美しい顔の老婆がいた。おれたちの、言語体系では表せない美しさよ。

馬子唄や白髪も染めで暮るる春

おれは老婆へのお礼として、俳句を読んだ。

おれが踏み潰されたのは、その、次の瞬間だった。鈴のメロディーだけが、おれの戦死を見ていた。草むらに残った青い血液。



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