17-8 ~ 6階層医療課 ~
「では、修正した都市計画に基づいて基礎の拡大を進めます。
このデータがあれば補助金の申請も確実に通ると思われますので、現在の建築速度を更に上げることも可能でしょう」
「……任せる」
金髪碧眼の才媛が楽し気に告げたその言葉に、俺はただ頷くことしか出来なかった。
基本的に都市計画なんて
──しかし、なぁ。
──俺のハーレムが330万人って言われてもなぁ。
女の園で有名な江戸時代の大奥ですら1,000人~3,000人だと何かで読んだ覚えがある。
ただし、それはあくまでも女中など使用人を含めた数であって、好き放題にお手付きして構わないという話ではなかったとあった。
……それが、330万人である。
お手付きどころか、精子だけで構わないから俺の子供を産ませてくれと群がってきている女性が、330万人もいるのだ。
現状はまだ2,000人しかおらず、江戸時代の将軍様が持っていた大奥と同じ規模でしかないのだが……ないのだが……
──ダメだ、全く実感が湧かない。
俺がそう嘆息したのも、当たり前の話だろう。
300人くらいならまだ女子高など比較対象できたのだが……万人規模になると、もう有名なアーティストのライブ規模だ。
330万ともなれば、大都市規模レベルの人口にも匹敵するだろう。
それが全て俺の精子を求めて股間に群がっている計算となる訳で……はっきり言うと、状況が馬鹿過ぎて想像すらしたことない規模になっている。
この設定でエロいゲームなんかを造ったら、もうクソゲーどころじゃない……バカゲーに突入するレベルのアホ過ぎる状況である。
──考えたら負けだな。
俺の家はこの最上階の一室だけ。
ここから標高が下の辺りは、ただの仮想空間。
迂闊に現状を実感すると気が狂いそうになるので、俺はそう割り切って……何とか割り切って、俺と
そう心を決めた……次の瞬間だった。
「では、明日にでもこの下の6階層……医療課の実働を開始しようと思います。
勿論、今までも市民たちは精密検査の場合のみ利用可能でしたが、これからは市民の貢献度序列に従って妊娠準備を進めていこうと……」
「……っ、あ~~~っ」
我が
「ど、どうしました、あなた?」
金髪碧眼の才媛が俺の悲鳴に心配そうな声を投げかけて来るものの、今の俺はそれどころじゃない。
何しろ、330万人の嫁というアホみたいな現実からの逃避が出来なくなったのだ。
──子供?
──俺の、子供?
──本当に、できてしまう、のか?
……そう。
基本的に俺は崇高な思想がある訳でもなければ確固とした目的を持った人間でもない、光り輝く才能もなく、ただただその場その場を流されて生きて来ただけの一般人である。
記憶も途切れ途切れではあるが、21世紀を生きている頃すら意欲的に勉強をすることもなく、積極的に資格を取ろうともせず、ただ日々の仕事を終えて酒を飲むだけで精一杯だった思い出しかない。
だからこそ、眼前でこちらを見つめている才媛に気後れしている訳ではあるが……そんなダメ人間の俺でも、自分の遺伝子を持つ子供が出来てしまえば、流石に目は逸らせない。
だから最後の最後以外はずっと避妊を心がけていて……
──あれ?
不意にまた冷凍保存される前の記憶が一瞬だけ蘇ってきた俺だったが、次の瞬間にはその記憶は何故か綺麗さっぱり消え去っていた。
いや、それよりも今は子供の話だろう。
「こ、今回の精子は全て精子検査に用いられるので使いませんので、まだ猶予があります。
恐らく、提供が開始するのは20日から40日ほど後になると思いますので、もう少しだけ準備期間が御座います。
ですが、精子提供にかかることばかりは、市民の皆様も待望しておりますので……こればかりは市長の御意思と言えども流石に叶える訳には……」
「……あ、ああ」
俺の奇声を聞いて、俺自身があまり子供を欲しがっていないと理解したのだろう。
それでも精子提供の中止を言い出さない辺り、男性自身の意思なんかよりも……あれだけ思い通りになっていたこの未来社会における男性自身の意思よりも、女性が子供を持つことの方が遥かに重要なのだと理解できる。
まぁ、当たり前と言えば当たり前の話であって……600年の時間が経過して極少数しかおらず力もなければ何の能力もない、ただ精子をまき散らすことしか出来ない『男性』という生き物が、これほどの権限を持たせてもらっていたのは、ひとえに「男性がY染色体を持つから」という理由に過ぎないのだから。
「では、医療課の始動準備を始めます。
次の提供が可能と思われる日までには……そうですね、20日後までには準備を整えておきます。
さて現在、喫緊の準備が必要なのは精通祭りの日取りと規模の決定でありまして……」
「……そんなのもあったな」
渋々ではあったものの、俺が精子提供に納得したのを見届けたのか、金髪碧眼の我が
その「他に適当な名前がなかったのか」と叫びを上げたいお祭りについて、俺は遠い目でそう呟くことしか出来なかった。
事実……人様の下半身状況を晒し者にするお祭りなんて、その当事者である以上、歓迎なんざできる筈もない。
「あ~、任せる。
好きにしてくれ」
だから、だろう。
俺の返事がそんな適当極まりない投げっぱなしになってしまったのは。
「はい、現在の海上都市『クリオネ』の財政規模から考えると、盛大にお祭りに補助金を支出するよりも、まず基礎工事の進捗を進めたいと思います。
ですので、都市としての支出は必要最低限に、それ以外の箇所につきましては市民の協力を取り付ける形で行います」
そして、我が優秀なる
すぐさまそんな……都市の支出を削っているため俺には一切の反論が出来ず、『市民の自発的』とかいうお題目で祭りそのものは実現するという、酷い抜け道を用意していやがったのだ。
彼女の展開した仮想モニタに映し出された、その予定支出と祭り規模の概要を見る限り、僅か数十秒で作り上げたデータとはとても思えず……この優秀過ぎる
「この計画の承認が頂けましたら、精通祭りの準備に取り掛かりたいと思います。
開催日は現状では5日後と考えておりますが、流通や市民の要望などを踏まえますと数日前後する可能性は御座いますので……」
「……好きにしろ」
そこまで準備万端で用意しているリリス嬢に対し、俺は抵抗の意思すら持てず……ただその完全委任の一言を吐き出すことしか出来なかったのだった。
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