16-7 ~ 三姉妹 ~
警護官のリーダーであるアルノーの諫言に従い、トリー・ヒヨ・タマの警護官三姉妹を自室へと呼び出すことにはしたものの……
「……どうするよ?」
あの三姉妹とどういう話をするべきか……いや、市長としてあの三姉妹をどうしたいのかについて、俺は未だに決めかねていた。
実のところ、「俺はあの三姉妹を
実際問題として、猫耳テロリストが攻めて来た時の『アレ』……この俺が住むビルの壁を吹き飛ばしたことは、真っ当な警護官であれば擁護のしようがないやらかしなのだ。
被害額云々や故意の有無以前に、この未来社会では11万人に一人という貴重な男性を危険に晒してしまうだけで一発アウトである……というのは、これだけ男性が重宝されている社会を見て来た今ならよく分かる。
その絶望的な失態を犯した女性が許されるのは、唯一男性に気に入られている場合のみ、なのはこの未来社会が凄まじく歪な何よりの証拠だろう。
それほどまでに男性が……いや、男性のみが作り出せる精子が希少であり、その生産量と男の気分とが密接にかかわっている以上、そんな無茶苦茶な措置が受け入れられるのも、ある意味仕方のないことなのだが。
──クビは、流石になぁ。
俺自身、あの三姉妹を労働力というか警護官としての存在意義には疑問を抱いているものの、クビにして都市から放逐し路頭に迷わせようとまでは思っていない。
かと言って一生かけて養おうとまでは思えないのだが……そもそもアイツらは性格上、
──しかも、養うと言っても、自分の稼ぎですらないんだよなぁ。
そもそもの話ではあるが、俺自身、「自分が働いているとは言い難い」という自覚がある。
と言うか、俺の感覚に従ってしまえば、この時代で労働をしている男性なんて一人もおらず……男共はただ精液を提供するだけで威張り散らす、クズみたいなヒモ野郎ばかりになるのだが。
要するに、俺はまだこの未来社会の現実を容認出来ておらず……自分は
それどころか今の俺はまだ冷凍保存の副作用か、精液すら生成できない身体なのだから、他のクズ共よりもまだ酷い。
そんな俺が
……感覚的には、女に養われているヒモの身分で愛人を作ってよろしくやる、である。
──シリーズ人間のクズ、だろう、それは。
当然のことながら、男は働くもの女は家庭を守るものだった20世紀から、600年という時間が経過し、価値観は男女平等を遥かに通り過ぎ、女性だけが働く時代になっているのは知っている。
だが、「知っている」のと「それに納得できる」との間にはマリアナ海溝よりも大きな隔たりがあるのだ。
「……昔はあれだけ働きたくなかったのになぁ」
宝くじ当ててのんびり暮らしたい、出来れば愛人を作ってよろしくやりたい……記憶が定かではないので何となくではあるが、昔の俺はそんな願望を抱いていた覚えが微かにある。
だけど、多少形は違えどその夢が叶ってしまった今現在、俺は自分の身に訪れた幸運を掴み損ねているのが現実だった。
──宝くじが当たった気分になればいい、のか?
そう自分を騙して好き放題やれれば……具体的に言うと、VRで美食を食らい、年から年中酔い続け、美女を侍らしとっかえひっかえ孕まし続ける生活を許容することが出来たのならば、この未来社会でもそれなりに楽しくやっていけるだろう。
とは言え正直な話、俺の生まれ持った性格的に考えると、そんな酒池肉林の生活なんてとても実行できそうにない。
取り合えずはまぁ、自分の中の常識とこちらの常識とを擦り合わせながらそれなりに生きていかなければならないのだろうけれど。
「お、おおお、お邪魔、いたし、ます、る」
「おお呼びびびとのののことで」
「……おじゃまいたします」
そんなことを考えている間にも、それなりの時間が経過していたらしく……呼びつけていたトリー・ヒヨ・タマの三姉妹から到着した旨の個人通信が入ったので、俺は自宅の扉を開くべく、
──何か、大人しいな?
いつもであれば、「ほいほ~い、来たよ~」程度のノリで部屋へと入って来る筈なのだが……少なくともスケベ顔で自室の仮想障壁にへばりついていたあの姿からは、こんな殊勝な態度は想像もつかず、俺は少しだけ首を傾げていた。
とは言え、呼び出したのは俺自身であり……あまり部屋の前に女性を待たせるはどうかという常識的な感覚もあり、俺は彼女たちの様子に首を傾げつつも、ドアを開いて自室に招き入れることにした。
それでも……
──まぁ、一応、念のため……
彼女たちの声色に少しだけ疑念を覚えた俺は、自分自身の周りに仮想障壁を二重くらい貼っておくことにした。
勿論、彼女たちが男子中学生くらいの性衝動の持ち主とは言え、いきなり飛びかかって来ることはないとは思うものの……プライベートで自室に招いた場合、警護官に働く電気的処理が機能しないらしいので、文字通り万が一を考えての行動である。
正直、彼女たちから受ける性的な被害を警戒したというよりは、彼女たちが暴走して犯罪者にならないための予防措置、という感覚が近かったが。
そうしてドアを開くと同時に、見慣れた三姉妹が顔を出すものの……
「……お、おじゃま」
「……しまーす」
「……ます」
これまたどうしたことか、今までの無遠慮な態度とは打って変わって、彼女たちはまるでお化け屋敷にでも入るかのようにおずおずと入って来る始末である。
しかも、今まで一歩引いていたタマは兎も角としても、堂々と先陣を切っていたトリー・ヒヨまでいつもの勢いがなく、まるで身を隠すように三姉妹一丸となっているのだから、凄まじい違和感がある。
いや、そんなこともよりも……
──何だ、その格好はっ?
彼女たちの姿を目の当たりにした俺は、三姉妹の言動への違和感なんて些事は瞬時に吹っ飛んでしまい……彼女たちが身に付けている服装そのものへの驚きに目を見開くこととなってしまう。
何故ならば、仕事中だった筈の三人の恰好は、布面積が少なく扇情的で卑猥な……肝心要の本体が年若すぎるために色気を感じる前にちぐはぐさが拭えない訳ではあるが、それでも明らかにこの格好で仕事をしていたとは思えないと断言できるような、どうしようもない代物だったのだ。
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