13-6 ~ 木星戦記その1 ~
学校が終わり、自宅へと帰った……いや、本体へと意識を戻した俺がまず最初に始めたことは、
基本的に流行りのゲームには近づかない偏屈の俺であっても、ここまで興味を惹かれてしまえばそんな信念など二の次である。
「っと、これか。
本当に流行ってるのかねぇ?」
ゲームの開始画面を仮想モニタに映し出した俺は、そのあまりにもチープなタイトル画面にそうぼやきを零す。
直後、
同時に送られてきたそれら二つの回答をしっかり情報として認識できたのは、俺も
──しかし、ゲーマーも横着になったなぁ。
俺の曖昧な記憶の中でも「大昔の迷宮探索ゲームで初期ポイント優秀者を作成するためだけにもの凄い時間を要した」という苦行は、未だ脳の表側に鮮明な形で焼き付いている。
そんな俺からしてみれば、この宇宙歴云年の連中はゲームの本当の楽しさを理解していないんじゃないかと小一時間説教したくなってくるものの……そんなアホなことを考えている間にも、眼前の仮想モニタには真っ新なロボット組立画面が浮かび上がってき始めた。
先ほどの
その検索結果と現実との違いに目を瞬かせた俺だったが……どうやら俺が初期設定を大事にする面倒なプレイヤーだと管理AIが理解したからこそ、こうして『最初のお約束ながら非常に面倒な、この時代のゲーマーが逃げ出してしまうレベルの複雑な設定画面』をわざわざ初めに持ってきてくれたのだと推測される。
……まぁ、21世紀ではあり得ないレベルのメーカー対応ではあるが、この程度、未来社会に随分と馴染んて来た俺からしてみればそう驚くほどのこともなく、俺はさっさとゲームの方へと意識を戻す。
──まずは、機体の傾向を決める、か。
そんな面倒なプレイヤーにとっても
尤も、そんな戸惑いもすぐさま新たなゲームへの好奇心にかき消されてしまったのだが。
──やっぱ実弾だよなぁ。
実弾兵器は基本的に、重量が嵩む上に光学兵器よりも弾速が遅く、ビーム兵器よりも重量効率が悪く、反動で射線がブレるという問題点があるが……光学兵器を防ぐミラーコーティング、ビーム拡散に特化したビーム撹拌ミストの影響を受けづらい上に、仮想障壁を突き破りやすい利点を持つ。
というこの作品内の設定を思い出しつつ、俺の好みの機体を
「やっぱ直線高速型だよな。
重装甲高機動超火力は浪漫だよ浪漫」
そうして出来た俺好みの機体は、搭載重量の限界ギリギリまで火器と装甲と推進剤とを詰め込んだ、小回りの利かない突撃オンリーの代物となり果てていた。
人型ロボットに重装甲と推進装置を取り付けた結果、手足はついているものの、全体的なシルエットは人というよりもミジンコみたいな形状に成り下がってしまっている。
が、これはこれで浪漫である。
問題は実弾が尽きるとただのでくの坊になってしまう点だったが……近接用武器としてエネルギー消費の少ない、だけど当たれば攻撃力だけは凄まじい超振動カッターを用意すれば解決である。
ついでにその際には不要な重装甲を
まぁ、たかがゲームなのだから、格好良さを追求するのも悪くないだろう。
──後は、使い勝手を試してみる、か。
機体操縦の方法はいくつかあり、
本来ならばここで機体操作や挙動などを訓練し、実戦に向けて頑張るのが本来だろうけれど、所詮は
実戦で試すのが一番という暴挙が許される。
「陣営は……一応、地球連邦にするか」
海上都市ばかりに住んでいて、補助金申請などを全て
まぁ、この辺りはネトゲで自陣営を決める時、嘘を吐けない体質……不意に思い出したのだが、大昔にやった某水鉄砲ゲームで陣営を「きのこ」「たけのこ」で区分けしたときに、友人を裏切ってでも好きな方を選ぶような性格が出たと思われる。
閑話休題。
「よし、まぁ、やってみるか」
そうして適当に始めた木星戦記だったが、仮想現実へと意識を飛ばした次の瞬間、俺は宇宙空母『377』に配属された新人
この「なっていた」という感覚を21世紀に生きた俺の語彙で説明するのは非常に難しいのだが、お気に入りの映画を見ている最中「その主人公になった感覚」を味わったことのある人なら何となく理解して貰えるだろう。
──うわ、うわっ、うわぁ。
ゲームなど見かけるような、プレイヤーになって突然戦場に放り出されるあの仕様ではなく、長い期間を費やしてきっちりと木星の戦場へと向かった上で、自機を空母『377』のカタパルトに配備され、「これから戦争へと向かう」記憶があるという……文字通りリアルな戦場の空気を感じ取った俺の腕は、自然と震え出していた。
いや、そのリアルな空気というもの自体が
深呼吸を一つしようと口を開いたところで、唇が開かないほど口内が乾燥し切っている事実に気付き、唾液を呑み込もうとしても、唾液の一滴も出やしない。
四方八方360度が見回せる全天モニタの所為もあり、人型ロボットの操縦席に座っている自分が、酷く心許無くて仕方ない。
『ほら、ルーキー。
しっかり働いてくるんだなっ!』
そうしてカラカラになって感覚もなくなった舌の置き場所に苦心している間にも、
「ぐ、くぅっ?」
混乱の中、突如として戦場へと放り出された俺は、本来ならばそこまでキツくない筈の、全身に圧し掛かるような圧力に、更に混乱を加速させてしまう。
事実、
……そう。
戦場に飛び出た筈の俺は、会話中でさえ集中が乱れレスポンスが悪くなるため、使用を躊躇う
そして、そんな悠長なことをしていれば、事故を引き起こしてしまうのはある意味必然であり……
「う、うわぁあああああっ?」
検索を終えた俺がふと意識を戦場に戻した時には……全天モニターの真正面、手が届くかと思われるほどの至近距離に、敵と思しき人型ロボットが銃器をこちらに向け、迫っていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます