12-5 ~ 反省会 ~
「……他に問題点は?」
俺が指揮していた連中……いや、彼女たちはこちらの命令を一切聞いてもくれなかったので、指揮していたと言うよりは同じ陣営にいたというだけに過ぎないのだが、そちら側の問題点を認識した後は、敵側になった指揮者達……即ちアルノーとユーミカさんへと視線を移す。
「……言うことを聞くどころではありません。
彼女たちは、何一つ……全くもって何一つ命令に従いませんでした」
「督戦……背後から撃つことで従わせようとして、味方同士で撃ちあいました。
その結果、死亡判定を食らい、私たち二人とも脱落です」
アルノーは表情が変わらず筈の鉄面皮に苛立ちを浮かべ……ユーミカさんは溜息混じりにそう呟く。
──道理で。
敵対していた筈の彼女たちの姿を見ないと思ったら、俺と出会う前に同士討ちで退場させられていたらしい。
彼女たちの言葉によって、督戦令が……背後から仲間を撃つ部隊を設けて恐怖で部隊を縛り付けるという、20世紀でロシアとか中国とかがよくやっていた手法が、レイヴンたちには一切通用しない事実を理解させられる。
──考えてみれば当たり前か。
何しろ普通の戦争ではなく仮想空間で、人が死なない
当然、背後から撃ったところでちょっと痛い程度でしかなく、死にもせず後遺症も残らない……しかも日常的にVRの戦争を遊んでいて、それらの苦痛に慣れているものだから、レイヴンたちは恐怖に駆られることすらない。
眼前で落ち込む二人がそれを理解できなかったと言って責めるのは流石に酷なのだろう。
なにせ彼女たちは警護官。
そこで市民たちを奮起させる手法の一つが、督戦隊の設置。
要するに背後から
──やっぱこの時代、女性の人権が軽いよなぁ。
と言っても、都市の根幹をなす市長を奪われてしまえばその都市そのものが崩壊する上に、都市で暮らす
そんなことを思いつつ……アルノーとユーミカさんは、そのカリキュラム通りに市民を動員する際の行動を取ったのだと推測する。
しかしながら、レイヴンたちは……仮想空間での戦争と死に慣れていた連中は、自らの命が絶たれることに恐怖すら抱かず、命令違反どころかその場のノリで反乱を仕出かしてしまった、という訳だ。
話を聞いてしまえば、「ネトゲユーザーならそうするだろうなぁ」という感じの、まぁ、日常的な出来事には違いない。
ただ、そんな無軌道無節操無鉄砲な連中に対し、どうやって命令に従わせて従軍行動をさせるかを考えると、どうにも頭が痛くなるのは仕方のないことだったが。
「もう、解雇しますか?
今からでも市民権で釣った外民を雇い入れた方が……」
「……いや、約束を撤回するのは流石に不味い。
それに、使えないと決まった訳ではない、筈だ」
俺の顔色を見た未来の
だけど、俺はこの愛すべきアホ共をまだ放り出すつもりはなかった。
──人を動かすのは、信賞必罰だったか。
俺の経験則的から考えて、レイヴンたちという輩は21世紀初頭にいた『ネトゲユーザーの群れ』だと考えのがしっくりくる。
そんな連中に罰を振りかざしたところで……もし命令違反の罰則としてログイン禁止……垢バンを下したところで、白けて他の連中の士気が落ちるだけで、あまり効果はないだろう。
それどころか副垢作るくらいのことはやらかす……いや、このネット上ですら身元確認ばっちりの未来社会で可能かどうかは兎も角として、罰に効果がないことだけは間違いない。
──そうなると、賞与の方で釣るか。
幸いにして俺はこの未来社会では非常に貴重な男である。
そして、記憶が欠如しているため微かでしかないけれども、過去の21世紀の経験から『モテない野郎としての実感』を持ち合わせた稀有な存在でもある。
だからこそ、連中の心理を読みさえすれば、簡単に釣れるという確信があった。
「リリス、敵兵のキル数で賞与を設けることにする。
そういう設定も可能か?」
その悪魔のような案が浮かんだ次の瞬間、俺は知らず知らずの内に微かな笑みを浮かべながら隣に佇む金髪碧眼の美少女へと問いかけていた。
それは、俺の案がまず「実現が可能かどうか」という第一段階に当たる。
「えっと、内容によりますが、キルスコアや陣営への貢献点などの計測は当然可能となっております」
とは言え、流石に未来社会……こちらのネットゲームでも可能だったことは、未来の社会でも当然のように可能だったらしい。
であれば、あとは簡単だ。
「なら、MVPとなった者に俺から賞与を与えることとする。
三位は握手、二位はハグ、一位は……」
「ま、待って、待ってくださいっ!」
感覚的に、モテない男子高校生が飛びつくだろう、それほど過激にならない程度の提案をした俺に対し、婚約者様は悲鳴を上げて俺の声を遮って来た。
「貴方がそんなっ、過激なことをする必要なんてっ!」
「……過激なのか、これ?」
所詮VRであるし、一発ヤラせろと言われる訳でもないし……そう呟いて、俺は一位に与える筈だったほっぺへのキスを黙って封印する。
実のところ昔見ただろう漫画なんかで、健闘した青少年に対して美女・美少女がご褒美にすることをリストアップしただけだったのだが……まぁ、過激と言われるならば、若干のグレートダウンは必要だろう。
その後、未来の
加えて、その市長と
「よっしゃぁ、やるぞぉっ!」
「気合入って来たぁっ!」
「……負けない」
それらの権利をレイヴンばかりでなく、警護官から
尤も、そのお陰で謀らずしも俺の策の有効性が……日頃からそれなりに付き合いのあった筈の警護官が、これだけの気合を入れることになったのだから……俺の策が如何に効果的かを証明できた形となる。
とは言え、それでもまだ戦果よりもアピールを優先するアホが出て来る可能性が高いのは否めない以上、軽い情報操作くらいはしておいた方が良いかもしれない。
「トリー、タマ、ヒヨ。
噂を流せるか?」
「え、えっと」
「数人に、雑談混じりで構わない、でしょうか?」
「……そのくらいなら」
スパイとしての訓練を受けている訳ではない警護官の三姉妹は、自信なさげではあったものの、俺の依頼を受けることに頷いてくれた。
実際のところ、情報操作と言ってもそう大げさなことじゃない。
「軽く『市長は暇をしていて遊び相手を欲している』とだけで構わない。
VR内できちんとルールを守るなら、銃弾で撃って撃たれるくらいは喜んで受け入れる、とな」
要するに、「命令系統に従って動く方が好感度が上がる」「訓練中、俺に発砲しても好感度は下がらない」という、この二つの情報さえ流してしまえば良いのだ……と言うより、この二つを周知していないと訓練にすらならないのだから仕方ない。
何しろ、いきなり味方陣営のほぼ全員が、この三姉妹が適当にふかしただけの情報に飛びついて、この時代では流行ってもないミニスカートを着用した挙句、ろくに飛行訓練をしたこともない癖に全員が飛行ユニットを装備して慣れない空へと飛び出すほどに、この未来社会の女性は異性に飢えているのだから。
そして、次の日の戦闘訓練では、俺の策が面白いように決まったのを目の当たりに出来たのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます