9-7 ~ 級友その2 ~
「彼は、カツオ。
コロダニ君と同じく、今年で13歳になる」
「カツオじゃなくてカッツォって言ってるだろう、ホモ先生。
ったく、変な覚え方されたらどうするんだよぉ」
次に紹介されたのは、コロダニ君よりも頭一つくらい小さい……だけど俺よりは頭一つくらいは大きい、濃い茶髪を短髪にした少年だった。
日本人よりも遥かに彫が深い顔立ちは、何と言うかどっかの映画で見たローマ人って雰囲気が強い。
だぼだぼの白いシャツを着ている辺りも、彼がローマ人っぽいと印象付けている要因の一つだろうか?
それは兎も角……
──
連邦共通語とは異なる、
彼らはその身を挺し自らの名前をもって、俺を笑わせようとしているのだろうか?という疑問が湧き上がって来るのを抑えられない。
尤も、彼らの顔は真面目極まりなく……残念ながら俺を笑わせる意図など欠片もなさそうだったが。
「そして、彼がリンガ。
カツオ君とは半年違いの12歳だ」
「……まぁ、仲良くして欲しいと言われれば、よろしくしなくはありませんけどね」
次の一人は俺よりも少しだけ身長の高い、肌が濃い茶色の少年だった。
雰囲気はカレーが似合いそうなインド系だったが……まぁ、多少の混血はあれどそう大きく間違えてはいないのだろう。
服装は普通に学生らしくスラックスとカッターシャツとを着こんでいて、俺はようやく真っ当な学生に出会えた気分に陥っていた。
とは言え……
──
ヒンドゥ語が語源らしい彼の名前は、語源こそ違えどカッツォ君のそれとコンセプトがもろに被っているのだが……まぁ、それが彼らの名前であれば詳しくは突っ込むべきではないのだろう。
と言うか、俺的にもクリオネってこの名前はどうかと思っているのだが……それでもコイツにだけは言われたくないのが実情である。
まぁ、名前については抗議したところで意味がなさそうなので置いておいて……取り合えず俺は、噴き出しそうな衝動を必死に抑え込みながらも、顔と名前とを
……正直、一気に100名もの名前と顔とを覚えられる気がしなかったので、警護官三人娘から入学までの空いた時間に、人の名前と顔とが一致しない場合の裏ワザを習っておいたのだ。
実のところ、
「次は、右隅の席にいる12歳の、ズィナー君」
「ああ、まぁ、よろしく」
四人目に紹介された少年は、黒髪で日本人よりも肌が濃く、目がはっきりとした感じで……この教室で比較するとアレム先生と同レベルの、モデル級の容姿をしていた。
だと言うのに今までの三人と比べると積極的に前に出ようとはせず、控え目な雰囲気があるのは、身体付きが小さく年少だからであり……その上、目立たない灰色のシャツを着こんでいる所為かもしれなかった。
──
ついでに言うと、この単語には同性間の性行為という意味もあるらしく……いや、今までの同級生たちもそうなのだが、彼らの親は一体どういう心境でこんな名前を付けようと思い立ったのだろう?
俺の予想では、「婚外性行為を行うくらい性欲に満ちた子に育ってほしい」という感じだと思うのだが……まぁ、所詮俺なんてこの未来社会ではまだお客さんに過ぎず、男児を産んだ母親の気持ちなんざ理解できる筈もないのだが。
「そして、後ろの端に座っている彼は11歳で、レイパー。
あまり積極的な子ではないけど、よろしくしてあげて欲しい」
「……ども」
五人目は俺に興味を示さず、第三者からは不可視モードとしているだろう仮想モニタに目を通し続けている少年だった。
酷い痩せぎすの、薄茶色の髪をしている、混血が進んだ感じのアメリカ系とも言えるその顔立ちは整っているものの何処か陰めいた雰囲気が付きまとっている。
このVR空間には特別季節感はないとは言え、全身黒ずくめのクソ暑そうな格好をしているのも、彼の暗い印象を際立たせているのかもしれない。
──
「他の子に比べても一段と頭がおかしい名前だな」などと内心で思いながらも、俺は表情を一切変えることなく少年に会釈を返す。
尤も、その時にはもう彼は俺に対する興味を失っているようで、視線は仮想モニタへと移ってしまっていたのだが。
「で、あそこで寝ている彼はコンチィ君11歳。
昨日は義務日だったらしく、疲れているようだね、うん」
最後の六人目は俺が最も見慣れた黄色人種の肌に黒い髪という少年なのだが……残念ながら机に突っ伏したまま動こうとせず、アレム先生も起こすつもりがないのかそう紹介するだけだった。
俺が教室に入ってきた時には一瞬だけ顔を上げていたのだから、完全に熟睡し切っている訳ではなさそうだが……この様子では、彼はこの学校での人付き合いにあまり価値を見出していないのかもしれない。
──しかし、また
今度の語源は中国語のようだったが……誰も彼も、頭がおかしいとしか思えない名前をしているのは、どうもこの時代のブームらしかった。
──男子希少化が一段と激しくなったこと、また、男性の精子量が年々下がっていることを受け、男性的特徴を強調する名前が好まれるようになっている、か。
最初の方は正直、噴き出す寸前だった彼らの名前だが……
確かに思い出してみれば、俺が政府に保護される羽目に陥った後の、あの海中都市の名前もスペーメ……要するに
……勿論、仕方ないと思いはしても納得はしていないのだが。
そして、何時の時代何処の話かは忘れたものの、子供の死亡率が高かった頃は、死神に子供が連れていかれないよう忌み名をつける風習があったという知識が俺の中にはある。
それと同じように、この未来社会には未来社会なりの、子供への期待というものがあるのだろう。
いくら俺の感覚からは珍妙だからと言って、その親が名付けた願いまで笑うほど俺は人でなしにはなれない……つもりである。
とは言うものの、当然のことながら理想と現実は違い……彼らの名前を思い浮かべると噴き出しそうな衝動が生まれてしまうのは、完全に抑えられなかったが。
「けっ、何をにやけてやがる」
「こんなクソ鬱陶しい義務が愉しいのかぁ?
……馬鹿馬鹿しいなぁ、おいぃ」
そして当たり前の話だが、自己紹介の途中で笑みを浮かべるのを少年たちが見逃すはずもなく……
どうもこの教室では最年長の二人が大きな発言権を持っているらしい。
尤も、たかが12~13歳くらいの餓鬼が粋がったところで、たかが知れているのだが。
「いえ、それよりも先生。
紹介が終わりましたが、これからどうするんでしょうか?」
「はっ、それくらい検索したらどうだ、お坊ちゃま?」
俺としては餓鬼どもに付き合うよりも、とっととこの学校という義務を終えるため、授業を始めてくれと思って口にした発言だったが……生憎と、アレム先生が口を開くよりも先にコロダニ君が先にそう挑発して来やがった。
──確かに。
未だに俺は
そうして自発的に検索した結果を眼前の仮想モニタへと映し出した俺だったが……
「一緒に、折り紙?
……お茶会?」
その予想を遥かに超えて来た検索結果に、ただ茫然とそう口にすることしか出来なかったのだった。
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