9-4 ~ ホモ=セクシャル ~
ホモ=セクシャル。
俺の頭の中にある翻訳機能が間違えていないのならば……眼前のアレム先生は自分から堂々と「同性愛者だ」と言い放ったのだ。
いや、勿論、俺自身はそういう存在がいることを否定しないし、特に嫌悪感がある訳でもない。
だけど、興味がある訳でもなければ理解し切れる存在でもなく……要するに「自分の知らないところで勝手にやってくれるならそれで良し」というタイプの人種だった訳だ。
──っつーか、性癖の話ってそもそもそういうモノだよなぁ。
パンチラが好きとか貧乳が好きとかNTRが好きとかBLが好きとか陥没乳首が好きとかリョナが好きとかネクロフィリアとか幼女しか愛せないとか破損して見えている機械パーツにしか興奮しないとか……俺としては最初の二つ以外は全く理解できないので話を振られても反応に困ると言うか。
なのに俺が元気だった時代では、「何故ホモとかレズの同性愛だけが、市民権を持っているかのように衆目の前で大声で叫んでいたのだろう?」なんて、記憶と疑問とが同時に浮かび上がってきたのだが……
──いや、今はそれよりも。
──この、極端な女余りの社会で、同性愛者の男?
この未来社会の男女比を考えると、砂漠で水を浪費する系の……凄まじく冒涜的な性癖だと思ってしまうのだが、実際のところ、この時代で男性の同性愛者はどういう扱いを受けているのだろう?
未だに社会通念や一般常識に欠けると自覚している俺は、どう反応して良いか分からないまま、気付けば愛想笑いで誤魔化そうと微妙な笑顔を浮かべてしまう。
「ああ、気にしないで欲しい。
僕はこうして全生徒に自分の口から性癖を語ることを条件に、ここでの労働を認められているからね。
……大切な男子を預かる学校の教師だからね。
仕方ない措置だと納得はしているよ」
俺の困惑を理解したのだろう。
アレム先生は肩を竦めて苦笑を浮かべながら、唐突なカミングアウトの理由を説明してくれた。
その言い分は確かに納得できるもので……俺は静まり返ってしまった空気を何とか払拭すべく、話題を探すよう恐る恐る口を開く。
「えっと、あの……その、ご結婚は?」
「勿論、しているよ。
それが男性の義務だからね。
まぁ、
その問いに対するアレム先生の解答は実に明確で……直後に俺は「聞くんじゃなかった」という感想を胸に抱いたものだが、それはそれとして彼の境遇に納得は出来た。
──なるほど。
──将軍家とか中世ヨーロッパの貴族みたいなものか。
その結果、ナニを生やすというアレな性癖を
ただ21世紀の常識を抱えている身としては、「科学技術が発展した所為で、生やせてしまうんだなぁ」という諦観だけは芽生えて来るのだが。
──身体の一部を改変する技術は、
──ただし、生殖機能を与えることは法的に認められていない。
俺の内心の呟きに対し、
有難迷惑なこと、この上ない。
ちなみに付け加えると、女性に男性器を移植すること、勃起及び生殖能力を持たせること……実はどちらも原理的には可能らしい。
ただし、生やした女性と女性とが性交して出来る子供は確実に女性でしかなく、女性の染色体を操作してY遺伝子を組み込んだ
そのため、女性同士の恋愛なんて基本、都市に入れない貧困層で行われる下賤で汚らわしい趣味程度にしか扱われていないのがこの時代の現実、らしい。
──個人的には、ありだと思うがなぁ。
ホモもBLも好きにはなれないものの、百合は見ていて楽しい派なのだが……男女比がここまで歪んでしまった社会というのは、性愛についての価値観さえも一変させてしまったようだった。
まぁ、考えてみれば昭和平成の頃から400年ちょいと昔……戦国時代辺りだと少年の小姓を相手にするのは武将の嗜みだったらしいので、時代と共に性愛の価値観が変わってしまうのは普通のことかもしれない。
「ああ、勿論、精子提供の義務も果たしている。
そのためにこの若い少年に囲まれた連邦府立
俺が
──あ~、要するに俺たちはおかず、か。
若い男子に囲まれることで彼は性的に奮起し、精子提供もしくは
そもそも男性は精子提供こそが一番大切な業務であり、労働のストレスは精子の作成量を減らしてしまうため、禁じられていた筈である。
そんな社会の中で彼が先生をやっているのは、実のところ彼の精子作成にこの仕事が適しているため、なのだろう。
とは言え、合意も得ず……いや、俺たちが未成年であることを考慮すると、合意を得たとしても実際に行為へと及んでしまった場合、色々と罰則はありそうだが。
「……VRじゃダメなんですかね、先生」
「君も歳を取ると分かるさ。
いくら現実とほぼ同じに見えても、作り物と本物は違うということが。
具体的に言うと……」
せめてもの抵抗とまでは言わないものの、思わず突っ込みを入れてしまった俺の呟きは、彼の反論を招いただけだった。
しかもやけに具体的な、同性愛の性癖の話を、である。
そっち方向を嫌悪することはないにしろ、理解するほどには寛容になれなかった俺は彼の話を聞き流しながら、これから通う校舎を眺め……まだまだ続きそうな説法に辟易し、大きな溜息を吐き出したのだった。
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