5話

学校へ行く準備も整い、リビングで待つ朝日の元へ向かう。


リビングに着くと、朝日はお母さんと話していたみたいだった。


だけど、私に気づくと駆け寄り、腕に抱きついてくる。


お母さんが見てることもあり、なんとしても離れさせようとするけど、離れてくれない。


そんな私達を見て、お母さんがなぜか朝日を応援し、朝日ちゃんもっと!もっと積極的にいくのよ!と言ったことを私は一生忘れないだろう。


朝日と一緒に朝ごはんを済ませると、お母さんにいってきますと言い、外へ出る。


朝の日差しが少し暑さを感じさせ、もう6月になったんだなぁと改めて思う。


そう6月…。


私のいつも通りの日常が終わりを告げた6月…。


だけど、私はまだ諦めていない。


朝日が少し積極的になっただけで、後はなにも変わらないと信じている。


そんな朝日もさすがに外では気をつかって、左側の手を組むだけにしてくれている。


カップル繋ぎになっているけどね…。



そうして朝日と、なんのとりとめもない会話をしながら、学校への道を歩いていると、見通しの悪い交差点にたどり着いた。


すると右から一人の人影が見えた。


真白さんだ。


朝日がおーい!と呼ぶと、真白さんがこちらに気づき、近づいてくる。


昨日のこともあり気まずかったけど、真白さんはそんな素振りも見せず、挨拶をしてくれる。


「お、おはようございます!朝日先輩と…わ、私の王子様!」


私も、今は気にしないようにして、挨拶をしよう。


「おはよー!真白さん!」


「おはよう!真白ちゃん!今日から頑張ろうね!」


「は、はい!頑張ります…!」


なにを頑張るんだろう…と考えていると、真白さんが私の左手…正しくは、朝日と組まされている、手を見つめながらいいなぁ…と呟いた。


朝日がそれに気づくと、予想外のことを言う。


「真白ちゃんもどう?かずきの右側空いてるよ!」


真白さんがこちらを見て、いいんですか?と聞いてくる。


恥ずかしかったけど、真白さんだけ断るのはかわいそうだと思い、右手を差し出した。


すると、嬉しそうに私の右手と、自分の左手を組むと言う。


「ありがとうございます…!やっぱり王子様は素敵です…。好き…」


こうして私は、いつも通りの日常を完全に諦め、また学校へと歩き出すのだった。



二人と手を繋ぎながら歩いていると、真白さんが私に質問をしてくる。


「あ、あの…王子様は本って読みますか…?」


「うん。人並みには読むよ?」


「そ、そうなんですね!もしよかったら、私のおすすめの本を、読んでもらえないですか…?」


「いいよ!どんな本なの?」


「それはまだ内緒です…!放課後、お時間があったら、図書室まで来てもらってもいいですか?私は委員会の仕事でいますので…!」


今日も生徒会の仕事があるけど、少しくらいなら大丈夫かなと思い、いいよ!と返事をする。


そんな私の返事を聞き、真白さんも嬉しそうに微笑んでいた。


ふと、やけに静かだった朝日の方を見ると、ニヤニヤとしている。


「朝日、ニヤニヤしてどうしたの?」


「ううん!なんでもない!ただ、私も負けてられないなって思っただけ!」


訳がわからなかったけど、がんばれ!と応援すると、元気良く、うん!と返事をする朝日。


そんな会話をしていると、校門が近づいてきた。


さすがに、手を繋いだままだと同じクラスの人に、からかわれてしまうので、離してもらうことにする。


朝日と真白さんは、気にしないのに…と言っていたけど、なんとか離してもらう…。


そうして、校門の前まで着くと、見慣れたリムジンが停まっていた。


運転手の人がドアを開けると、一人の生徒が降りる。


高円寺先輩だ。


高円寺先輩も、こちらに気づくと近づいてくる。


そして、やっぱり、昨日のことを気にしている素振りは見られなかった。


それならと、こちらから先に挨拶をする。


「先輩おはようございます」


「先輩おはようございます!頑張りましょうね!」


「お、おはようございます…!が、頑張りましょう…!」


「ええ、おはよう!お互いに頑張りましょうね!」


先輩も知っている…。


一体なんのことなんだろう…。


そう考えていると、先輩が私の目の前に立ち、言った。


「上田一樹、制服のリボンが曲がっているわよ」


私が、慌てて制服リボンを直そうとすると、先輩がニコリと微笑みながら直してくれた。


そして、私の耳元でささやく。


「今日も生徒会室で待っているわね。あなたを愛しているわ」


ドキッとする私を見て微笑むと、先輩は先に校舎へ向かう。


少し離れたところで、朝日と真白さんが、すごい…さすが先輩…と驚いていた。


そんなことがあったけど、チャイムが鳴ったので、校舎へと向かい、下駄箱で真白さんと、クラス前で朝日と別れ、自分の席に着く。


しばらくすると、隣の席の転校生である漆原さんが、息を切らしながらやってきた。


「漆原さんおはよう」


「かずっちおはよー!いやぁ、危うく転校2日目で遅刻するところだったよぉ!」


昨日のことを、きちんと謝ろうと思ったのだけど、呼吸を整えた漆原さんが先に言う。


「かずっち昨日は、ほんとごめんね…」


「ううん…こっちこそ…。気持ちに応えてあげられなくてごめんね…」


「そんな!かずっちは悪くないよ!突然告白されて…。しかも全員女の子だなんて、困っちゃうよね…。でもね!私達の気持ちは本当だから!」


漆原さんが、真剣な顔でそう言ったけど、今はありがとうとしか言えなかった…。


「さて、私から切り出したことだけど、この話は一旦やめやめ!それより、今日のお昼ご飯、屋上に行って、みんなで一緒に食べない?」


「うん!いいね!」


「やったー!それじゃあ、他の三人には私から連絡しとくね!」


いつの間にか、連絡先を交換していたことに驚いたけど、お願いするね!と伝え、それからは漆原さんとまた楽しく話す。


そうして、三人から了解の連絡が入り、お昼はみんなで一緒に食べることが決まった。


そこからは、お昼の時間まで特になにもなく、普通に授業を受けていた。

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