20 開戦
「始めよう。開戦の時間だ!!」
「「「ヒャッハーーーーーー!!!」」」
ならず者達が武器を高らかに掲げる。
同時に、『吸血公』の周辺に複数の魔法陣が発生。
その中から、狼やコウモリやカラスなどのモンスターが現れる。
『眷属召喚』のスキル。
魔族になることで手に入れた、『吸血公』の十八番。
「迎え討ちます! 構えて!」
「「「うぉおおおおおおおおお!!!」」」
対抗して、攻略組も雄叫びを上げた。
だが、最初にぶつかるのは彼らではない。
この手の戦いにおける初手は、遠距離攻撃と相場が決まっている。
「「放て!!」」
「『ダークネスレイ』!!」
「『シャイニングブラスター』!!」
ほぼ同時に、両軍の魔法使い達が攻撃を開始する。
ならず者同盟の主力は、規格外の魔法能力を有するダークエルフの『闇妖精』。
攻略組の主力は、シャイニングアーツの幹部、エルフの魔法使い『妖精女王』アルカナを始めとした魔法攻撃部隊。
平均能力値では正義が上。
突出した能力値では悪が上。
異なる強みをぶつけ合った結果……魔法の撃ち合いでは、攻略組が優勢。
「進め!!」
「よっしゃー!」
「やったるぜぇ!」
その分の不利を埋め合わせるべく、ならず者同盟の近接戦闘部隊が前に出てくる。
先頭は『吸血公』の召喚したモンスター達。
彼のMPさえあれば、いくらでも補充の利く捨て駒上等の部隊。
その少し後ろから、真っ赤な毛皮の虎、古傷だらけの猪、小型のドラゴンなどなど、合計10体程度の、召喚獣とは毛色の違うモンスター達が続く。
彼らは『調教』のスキルを持つテイマーでもある『吸血公』が、フィールドエリアで捕まえて従わせたモンスター達だ。
フィールドエリアも町から離れた奥地まで行けば行くほど、迷宮のモンスターと遜色ない強獣達が出てくる。
さすがに、ボスモンスタークラスを使役できるほど『調教』のスキルはぶっ壊れていないが、それでも一体一体が現時点のトッププレイヤー達ですら片手間では倒せないほどの強さ。
『眷属召喚』と、現時点での実質的な成長限界を超えるほどにまで鍛え上げた『調教』のスキル。
この二つによって、『吸血公』はたった一人で、下手なギルド顔負けの『軍勢』と化しているのだ。
その分、本人の個としての強さは魔族の中で最下位だが、『闇妖精』が護衛についていれば問題にならない。
この兄妹、大分えげつない性能をしていた。
「「「死ねやぁ!!」」」
そんなモンスター達に守られながら、ならず者傭兵部隊とPK達が攻略組に向かって肉薄する。
召喚獣、使役獣、傭兵NPC。
三重の盾に守られたPK達は強気だ。
不利になれば逃げるだろうクズどもを、実に上手く運用している。
「ここは通さんぞぉ!!」
「「「おおおおおおおお!!!」」」
クズどもの行く手を阻むのは、こちらもまた敵より質の良い傭兵NPCを盾にし、ついでに自前の盾も装備した壁役部隊。
彼らを率いるはシャイニングアーツの幹部、ドワーフの重戦士、『
似たような字が多くて混乱する肩書だが、何度も重いと繰り返されるだけあって、彼の守りはまさしく『不動』。
彼の前に来る者は、モンスターだろうがPKだろうが、尽くその守りを突破できずに立ち往生し、振るわれる斧の餌食となる。
敵を踏み砕きながら戦線を押し上げていく様は、まさに戦車。
「モンスター狩りは俺達の領分だ。行くぞ!」
「「「おう!」」」
戦車に続くようにして、ドラゴンスレイヤーのギルドマスター、『竜殺し』ジークフリートが、仲間達を引き連れて前に出た。
ドラゴンスレイヤーの精鋭のうち、守りの得意な者達は馬車の護衛についているが、ジークフリートを始めとしたアタッカー達は前線に配置されている。
適材適所だ。
その采配は間違っていなかったようで、彼らは一番厄介な使役獣達を次々と討ち取っていく。
「順調ね。……今のところは」
ジャンヌは正面からの攻勢を跳ね除けながら押し上げられていく戦線の様子を見ながら、難しい顔でポツリと呟いた。
戦況はこちらが優勢。
このまま進めば勝てるだろうし、押し通れるだろう。
しかし、このまま何事もなく終わるなんて誰も思っていない。
何故なら、
(ウルフがまだ出てきてない)
『
攻略組の妨害、ひいてはゲームクリアの妨害に最も積極的な魔族。
シャイニングアーツにとっての、そして攻略組の大多数にとっての憎い憎い仇。
他の誰がいなかったとしても、あれがいないなんてことはありえない。
それに、
「ジャンヌ、気づいておるか? 目の前の連中……」
「ええ。気づいてるわよ、コジロウ。……あいつら、『吸血公』と『闇妖精』以外、名の知れてる奴が殆どいない」
二つ名で呼ばれる悪党は、何も魔族だけではない。
話題になるような事件を起こして、情報がそれなりに出回れば、娯楽に餓えてる人達が掲示板で喋り倒して、勝手に二つ名をつける。
スクリーンショットつきの手配書が出回ってる連中も珍しくない。
なのに、要注意人物として手配書で確認しておいた顔が、正面の集団には殆どいない。
突出したステータスで暴れ回っているのは、『吸血公』と『闇妖精』の他に、一人か二人程度だ。
そいつらが来ていないという可能性もなくはない。
PKに限らず、大体の人間は強くなるほど協調性を失う。
自分勝手な犯罪者なら、なおさらだ。
恐らくはウルフが発案したんだろう作戦に、気に食わないからとか、その程度の理由で参加しなかったという可能性はある。
だが、今回は十五個の鍵なんて極上の餌があったのだ。
普通に考えて、気に食わなかったとしても、利用してやるくらいの気持ちで来るのではないだろうか?
そういう戦力が隠れていると考えるなら、目の前の連中の役割は……。
「! 両脇からなんか来るぞ!」
『傭兵王』アヴニールが声を上げる。
「この距離に来るまで気づかなかった……! 多分、全員が高レベルの『隠密』スキル持ち! 敵さんの精鋭部隊なんじゃねぇか!?」
「やっぱり、そう来たわね!」
正面の大軍は囮。
戦力と注意を正面に引きつけ、警戒の薄れた横腹を精鋭部隊で奇襲する作戦か。
シンプルだが、効果的な作戦だ。
囮だって充分に強いから、読めていても対処にリソースを持っていかれてしまう。
何より、
「アハハ! さあ、一緒にいっっっぱい斬りましょうね! 『咲紅』!」
「「「ぎゃあああああ!?」」」
右側から現れた小隊。
全員が手配書で見たことのある顔だが、特に目立つのは高揚した様子で刀を振り回す魔族。
『鬼姫』。
魔族が最初に現れた二人とウルフしかいないのではという希望的観測は、脆くも崩れ去った。
「ああ、楽しぃーーー!! もっと泣け! もっと苦しめ! 泣き叫びながら死ねぇええええ!!」
「ひっ!?」
「あがっ!?」
「ぐぅぅぅ!?」
左側から現れた小隊を率いるのも、また魔族。
高揚どころか狂喜乱舞した様子で大鎌を振り回し、攻略組に死と苦痛を振りまく、黒い外套を纏った骸骨。
『死神』。
プレイヤーのキル数であれば、ウルフすら超えかねない最悪の魔族。
『鬼姫』と『死神』。
両サイドを魔族に挟まれた。
「アヴニールさん、コジロウ! 両サイドの応援に向かって! ここは私達が守るから!」
「わかった! 任せろ!」
「心得……いや、待て! ジャンヌッッ!!」
「え?」
その時、何が起こったのか、ジャンヌは一瞬わからなかった。
『鬼姫』の方へ向かおうとしていたコジロウが、突如何かに気づいた様子で、ジャンヌの背後に向けて刀を振るった。
「チッ!」
そこには、深くローブを被った誰かがいた。
シルエットからして少女だろう。
彼女はジャンヌに向かって拳を突き出していた。
ギリギリで気づいたコジロウの居合斬りが、少女の腕に炸裂する。
しかし、漆黒の毛皮に覆われた腕に刃は通らず、拳の軌道を歪めることしかできない。
「うぐっ!?」
「ジャンヌちゃん!?」
軌道を歪められた拳が、それでもジャンヌの肩に炸裂した。
肩が弾け飛んで、接合部を失った左腕が宙を舞う。
激痛がジャンヌを襲い、馬車の護衛の一人として近くにいたタロットが悲鳴を上げる。
しかし、タロットは思考停止することなく動いて、即座にジャンヌに杖を向けて回復魔法を行使した。
かなりのレベルに達したタロットの回復魔法でも即座には治せないほど傷は深く、ジャンヌは痛みを堪えながら襲撃者を睨みつける。
「よく気づきやがったな、爺! せっかくの初見殺しがパーだぜ!」
襲撃者の少女は、コジロウの追撃をガードしながら飛び下がっており、そこでローブを脱ぎ払って消した。
アイテムストレージに収納したのだろう。
ローブの下から出てきたのは、見覚えのあり過ぎる顔だった。
漆黒の長髪から伸びる狼の耳。
露出度の高い服から覗く褐色の肌。
頬に刻まれた禍々しいタトゥー。
それはまさしく、ブレイブの死後も何度も激突してきた、シャイニングアーツにとっての不倶戴天の敵……。
「ウルフ!?」
「よぉ、クソ聖女! 殺しにきてやったぜ!!」
『
最凶の魔族が、まるで守りをすり抜けたように、作戦の根幹を担う最重要地点に突然現れ、ジャンヌ達に牙を剥いた。
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