18 ならず者同盟

「お前ら、よく集まってくれた」


 とある名も無き洞窟の中。

 迷宮でもなく、モンスターのポップする場所でもなく、恐らくは日陰者達が拠点として使う用にデザインされたのだろう殺風景な場所。

 アイテムストレージに収まりきらなかったものを雑に入れた木箱が散乱する、なんともみすぼらしい空間に今、そうそうたる面子が集まっていた。


「ヒャッハー! 姉御の命令なら喜んでだぜぇ!」

「このリーゼント・ドライブにお任せを! あなた様のためなら、どんなことでもいたしましょう!」

「何すんだ!? 今回は何するんだ!?」

「俺知ってる! 攻略組を派手にぶっ殺すんだろ!?」


 キャラメイクのおかげで顔だけは整っているが、装備は攻略組に比べれば低ランクで不揃いだし、強者のオーラも感じないし、どう贔屓目に見ても世紀末なチンピラ止まりの連中が歓声を上げる。

 彼らはそうそうたる面子に含まれていない。

 数合わせの雑兵だ。


 しかし、数だけなら本当に凄い。

 この洞窟にいるリーダー格の連中だけでも、軽く三十人はいる。

 つまり、三十近いならず者どもの組織が近くに待機しているということだ。

 総数は数百人に上る。

 数だけなら攻略組の連合軍にも匹敵するだろう。

 地道な友達作りの成果、それと情報を流して釣り上げた分だ。

 クズがこんなにいるとか、この理想郷はもうダメかもわからんね。


「うふふふ。こんなに集まるなんて予想外でした。これは楽しいお祭りになりそうですね」

「よぉ、『鬼姫』。気まぐれって評判のお前が勧誘に乗ってくれて感謝してるぜ」

「思う存分に『この子』と一緒に楽しめるんですもの。来るに決まってますよ」


 この集まりの発起人であるウルフの言葉に、うっとりとした表情で手に持った『刀』に頬ずりしながら答えたのは。

 色素が抜けたような真っ白な髪と肌を白い着物で包み、真っ赤な瞳を爛々と輝かせる、額から二本の角を生やした少女だ。

 生き残っている数少ない魔族の一人、『鬼姫』キリカ。

 人を斬ることを至上の喜びとする快楽殺人者だ。


「いやはや、気後れしてしまいますねぇ。私のような肝の小さい小市民に、この場は少々刺激が強い」

「よく言うぜ、『死神』」


 なんとも気弱な発言をしたのは、言葉に反してこの場で最も威圧的な風貌をしている輩だった。

 漆黒の外套に包まれた、骨だけの不気味な体。

 背負っているのは『死』を連想させるデザインの巨大な大鎌。

 『死神』デスター。

 最近はこのあたりを縄張りにして動かなかったウルフに代わり、今最もプレイヤーに被害をもたらしている最悪の魔族。


「……薄汚い場所だ。嫌なことを思い出す」

「ウルフ、兄さんが困ってる。場所を変えて」

「話が終わるまででいいから我慢しろ」

「『ダークランサー』」

「おい!?」


 とあるプレイヤーが、いきなりウルフに向かって強烈な闇の魔法をぶちかましてきた。

 ウルフは放たれた闇の槍を素手で弾き飛ばし、それが洞窟の壁にぶち当たって風穴を空ける。

 フィールドを破壊するほどの威力。

 自分達が食らえばひと溜りもないだろう魔法にも、それを簡単に弾き返すウルフにも、チンピラ達は滅茶苦茶ビビった。


「やめろ、オードリー。彼は私達の恩人だ」

「はい。兄さん」

「……ったく、相変わらずだな。『吸血公』に『闇妖精』」


 こいつらとは既にフレンド登録が済んでて良かった。

 さすがに、ちょっと癇癪を起こしただけで人を殺しかねない奴のところにミャーコを向かわせたくはない。

 彼らは魔族化の情報を広めるために、ウルフが手伝って魔族にしてやった二人だ。

 同じように魔族にした他の連中は、降って湧いた力で調子に乗って討伐されたが、この二人だけは生き残った。


 貴族のような豪奢な衣装を着込んだ銀髪の男、『吸血公』エドワード・アリスト。

 外見年齢10歳ほどのダークエルフの幼女、『闇妖精』オードリー・アリスト。

 魔族二人が兄妹という絶対の協力関係にあるというだけで、その脅威は語るまでもない。


「さて、我慢し切れない奴は『闇妖精』以外にも多そうだし、とっとと本題に入っちまうぞ」


 頼もしい外道どもに囲まれながら、ウルフは牙を見せてニヤリと笑いながら告げる。


「察してる奴も多いだろうが、今回お前らを集めたのは、攻略組との全面戦争のためだ。

 奴らはつい先日、とうとう十五個の鍵を集めやがった。

 つまり、近日中に十五個の鍵を纏めて海の大迷宮まで護送するはずだ」


 ウルフはそこで、ダァァァン! という轟音を響かせながら、洞窟の地面を踏みつけた。

 先ほどの幼女の魔法と同じように、フィールドが破壊されてポリゴンが舞う。

 現時点でのトップクラスを超えるステータスが無ければできない所業。

 獣化すら使わずにそれをやる自分達のリーダーの姿に、チンピラ達はテンションを上げた。


「オレ達はそこを襲撃する! 喜べ、テメェら! 鍵は十五個! 最大十五人が魔族になれるぞ!」

「「「うぉおおおおおおお!!!」」」


 目の前の圧倒的強者に匹敵するだけの力を得られる。

 餌を目の前にぶら下げられた人間けもの達は、それはもう頑張ってくれるだろう。


「決行はこの一ヶ月以内だ! 詳しい日取りは追って知らせる! それまでせいぜい、首を長くして待ちやがれ!」

「最高だぜ、姉御ぉ!」

「このリーゼント・ドライブ、一生ついて行きます!」

「絶対ぇ魔族になってやるぜ! ヒャッハー!」


 雑兵達の士気は充分。

 ここに有り金の殆どを叩いて傭兵NPCを追加するので、戦力はまだ上がる。

 そして、


「ウフフフフフ」

「さて、今回はどれだけ地獄に落としてやれますかねぇ」

「乞われた分の仕事は果たそう。お前も気を引きしめておけ」

「はい。兄さん」


 こっちの重要戦力である魔族達も、やる気充分。

 数人程度とはいえ、鍵の破壊を餌にできない魔族の勧誘を成功させてくれたミャーコに感謝だ。

 物資も既に必要な分が届いているし、あとは敵が進軍を開始する詳しい日時と、できれば陣形などの情報が届けば完璧。

 最悪そっちが失敗しても、現時点の情報から大雑把な日程は把握しているから戦える。

 時間をかければ仲間割れで空中分解する恐れがあるのは、向こうもこっちも同じだ。

 決戦は必ず、近いうちに始まる。


「来るなら来いよ、オレから奪おうとするクソ野郎ども。今度こそ息の根止めてやるぜ……!」


 幼女にぶち空けられた風穴から町の方を睨みつけ、ウルフは据わった目で殺意を迸らせた。

 強さのためでも、快楽のためでもなく、この世界にある幸せを守るために、彼は殺意に染まっていく。

 だって、そうしないと守れないから。

 必要だから、殺すのだ。


 そうして、決戦開始までの時間は瞬く間に過ぎていった。


―――


種族:魔族(魔狼) Lv61

名前:殴殺ウルフ


状態異常:罪の烙印


HP:1100/1100

MP:750/750


STR(筋力):850

VIT(防御):650

AGI(俊敏):600

INT(知力):50

DEX(器用):50


ステータスポイント 0


スキル

『獣化:Lv50』

『再生:Lv55』

『HP自動回復:Lv61』

『MP自動回復:Lv53』

『格闘術:Lv62』

『生命:Lv63』

『魔泉:Lv59』

『剛力:Lv57』

『鋼体:Lv56』

『疾走:Lv60』

『索敵:Lv54』

『危機感知:Lv61』

『隠密:Lv54』

『追跡:Lv50』

『不動:Lv50』

『採取:Lv31』

『運搬:Lv50』

『斬撃耐性:Lv50』

『打撃耐性:Lv50』

『衝撃耐性:Lv40』

『火耐性:Lv30』

『水耐性:Lv26』

『風耐性:Lv22』

『土耐性:Lv19』

『雷耐性:Lv29』

『氷耐性:Lv25』

『光耐性:Lv36』

『闇耐性:Lv31』

『毒耐性:Lv30』

『麻痺耐性:Lv22』

『呪耐性:Lv35』

『モンスターハンター:Lv61』

『人類の殺戮者:Lv59』


―――

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