14 葬儀
「う、うぅ……!!」
ギルド『シャイニングアーツ』のギルドホーム。
そこでは今、葬儀が執り行われていた。
勇敢なギルドマスターと、彼と共に散っていった仲間達を送るための儀式が。
「ブレイブぅ!! 必ず、必ず仇は取ってやるからなぁ!!」
豪快に男泣きをしながら決意を新たにするのは、ドワーフの重戦士、戦車。
彼は後悔している。
人殺しに躊躇なんかせず、最初から全力を出せていれば。
全力であの狼娘に攻撃できていれば、ブレイブ達は死なずに済んだんじゃないかと、自分を責め続けている。
そんなこと、まともな感性を持っていれば不可能だとわかってはいても。
「ごめんなさい……! ごめんなさい……! 私が、私が人質になんて取られたばっかりに……!」
ずっと泣き続け、戦車以上に己を責めているのは、ウルフに人質に取られたエルフの回復魔法使い、タロット。
確かに、見方によっては彼女に責任があるように見えなくもない。
だが、ちょっと前まで普通に暮らしていた女子高生が、あの状況であれ以上どうしろと言うのか。
むしろ、勇気を振り絞って、一度はブレイブの自殺を止めただけでも讃えられていいだろう。
それでも、自責の念は止まらない。
失った命は返らないのだから。
「タロット……」
そんな妹を優しく抱きしめながら、不甲斐なさに涙するのは、タロットの姉。
エルフの正統派魔法使い、アルカナだ。
自分は何もできなかった。
ブレイブが死ぬまで、フレンドリーファイアを恐れて一度も魔法を撃てなかった。
こんなんじゃいけない。
二度とこんなことはあってはならない。
そう強く心に誓って、彼女は戦い続けることを選んだ。
けれど、今は、今だけは、妹と共に泣かせてほしい。
「不甲斐ないのう。不甲斐なさ過ぎて怒りすら覚える……!」
ギリッと強く奥歯を噛みしめたのは、ウルフの片腕を奪った達人剣士、コジロウ。
あの時、彼ならば腕ではなく、ウルフの首を刎ねることもできた。
それをしなかったのは、やはり殺人への躊躇があったからだ。
情けない。
老い衰えて、腑抜けにまでなったか。
若い頃、戦場にいた頃は、数え切れないほどの命を奪ってきたというのに。
権力者の都合で始まった無意味な戦いであれだけ殺しておきながら、殺すべき時に殺せないとは、なんたる間抜け。
老兵は己に活を入れ直した。
兵士を辞め、ただのゲーマーになっていた己を、今一度無慈悲な兵士へと戻す。
次は躊躇わない。
殺しにくるのであれば、人も怪物も関係なく、その首を落としてくれよう。
「ブレイブさぁぁん!!」
「くそぉ! くそぉ!!」
「なんで……? なんでこんなことに……!?」
メンバー達は涙する。
怒る者。悲しむ者。
等しく、自分達を襲った悲劇を飲み込み切れていない。
この先、彼らの道は分かれるだろう。
怒りを糧に奮起する者。
悲しみに心を折られて足を止める者。
だが、どんな道を歩もうとも、今日の出来事が心に刻まれて消えなくなることだけは確実だった。
「どもー!」
「「「ッ!?」」」
そんなギルドホームに、似つかわしくない元気な声が響き渡る。
致命的に空気が読めていないのか?
いいや、違う。
この声の主は、たった今、
デスゲーム開始から一週間と少し。
体感速度5000倍のこの世界での一週間など、現実世界ではほんの数分に過ぎない。
まだデスゲームの情報が、現実世界では広まっていないのだ。
だからこそ、この一週間、新たな犠牲者達は次々とこの世界に来てしまっていた。
救世高徳の言っていた、体感速度5000倍などという戯言が真実であることを証明しながら。
最も実現するのが難しそうなシステムが本物であった以上、嫌でもHP全損=死という発言の説得力も増していく。
ログアウトを無くし、激痛を与え、体感速度5000倍まで実現した。
これで死ぬのだけはジョークでしたなんて、そんな楽観的なこと、現実逃避以外で考えられるわけがない。
「え? 何この空気? 皆、なんで泣いてんの? どっかのボスに大負けした……とかじゃないよね?」
ただ、今回の来訪者は、この子だけは、絶対に来てほしくなかった。
何も知らないだろうが、何かあったのだと瞬時に察して深刻そうな顔になった金髪の少女。
ブレイブが、なんとしても早期にゲームをクリアしようとした理由。
「あ、あぁ……!」
タロットが姉の腕の中から抜け出し、フラリと少女のもとへと向かった。
泣き崩れた顔で。
憔悴した姿で。
ここがゲームでなければ、げっそりとやつれていただろう痛ましい様子で。
「ごめんね……! ごめんね、ジャンヌちゃん……!」
「ちょ!? タロット!? 本気でどうしたの!? ええっと、よしよし?」
プレイヤーネーム『ジャンヌ』。
ブレイブの、リアルでの妹。
まだ何も知らない彼女は、泣き崩れるタロットを必死に慰めようとして、抱きしめながら頭を撫でた。
この優しい少女が兄の訃報を聞くまで、あと……。
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