第10話 優奈との再会

 奈々の息が俺の耳の中に入ったので、俺はびっくりして後ずさる。


 そんな俺の反応がおかしいのか、あははっと小悪魔っぽく笑う。


 別に、俺をからかっているだけだろう。


 深読みをするべきではない。


 それはそうとして、肝心な優奈がいない。


「あ、優奈はね、ちょっとウザい男に絡まれて警備室にいるよ」

「……大変そうだな」

「そう。でも、大丈夫。いつものことだし、司っちのおかげでうまくやり過ごしているから」

「俺のおかげ?」

 

 謎すぎる言葉に俺が小首を傾げていると、奈々が腕を引っ張ってきた。



警備室


「このクッソナンパ男があ!何回言ったらわかるんだ!今度こそ警察に突き出してやるわい!ここは名門女子大だ!わかってんのか!!!はあ!?こんやろ!舐めてんのかよ!」

「す、すみません!」

「ったく!社長の息子も芸能人も、モデルも、どっかの若い事業家も勘弁してくれよ!俺の仕事をこれ以上増やすな!!!!あああ!!!20年前はてめーみたいなのがいたら、とっくにコンクリートを使って生き埋めにしていたんだよ!」

「ひいっ!」


 ヤクザに似ている警備員さんは優奈を困らせた茶髪のイケメンに向かって怒鳴っていた。


 スキンヘッドに顔には古傷がある。


 しかも小指が短いんだけど……


 本当にあの警備員はヤクザだったんだな……


 まあ、状況は大体把握した。


 隅っこには優奈が不安そうにしているが、俺と目が合った瞬間、


「っ!」

 

 また、昔のチャラ男にひどいことをされそうになった時に向けてきた視線を送ってきた。

 

 彼女は助けを求めている。


 心がまた熱くなった。


 なぜだろう。


 他の女子に見つめられても、ちょっとドキっとするだけだが、彼女の瞳に宿る動揺を見るたびに、名状し難い感情が込み上げてきた。


 気がついたら、俺は彼女の腕を掴んで外に出ようとしていた。


「お、おい!な、なんなんだ!?」


 ヤクザっぽい警備員が戸惑うも、俺は無視して彼女を連れて外へ出る。


「ちょ、ちょっと!おい!」

「警備員さん、うるさい」

「っ!奈々お嬢様!?」

「いいの。行かせて。私がパパに全部言うから」

「は、はい……」


 警備室の中から奈々の声が聞こえた気がしたが、俺は無視して歩いた。


X X X


大学を出て


「本当に悪い……いきなり腕を掴んだりして」

「いいの。大丈夫。私こそ、遅れてごめんね」


 大学を出て俺たちはひたすら歩いた。


 そして俺の愚かさに気がつき、早速手を離して謝罪をした。


 だけど、彼女は頬を薄いピンク色に染めるだけで嫌なそぶりは見せない。


 にしても本当に綺麗だ。


 カジュアルデニムに胸と肩あたりの露出が激しい淡い紫色のワザアリワンショルニット。

 

 全体的に洗練された感じだが、巨か爆のつく胸のおかげで色っぽさが伝わってくる。

  

 ファッショナブルな輪っかのようなイヤリングもとても似合っている。


 本当にこんな美少女と一緒に歩いていいのかと寧ろ怖くなってしまう。


 俺が落ち着かない様子で歩いていると、優奈は俺の腕に自分の腕を優しく当てながら歩いた。


「……」


 めっちゃいい香りと柔らかさだ。


「なんで、私を連れてきたの?」


 俺の真横を歩く優奈が俯いてから聞いてきた。


 ここははぐらかすことなくちゃんと答えるべきた。


「……前と同じ表情だったから」

「っ!!!!」


 俺の言葉を聞いた途端、彼女はステップを踏み間違えてそのまま俺の方にもたれかかった。


 俺は彼女の背中に腕を回して抱き止めると、彼女のマシュマロが俺のお腹あたりに当たる。

 

 なんだこれは……


 まるでこの世に存在しないような感触で、俺は言葉を失う。


 だが、彼女は男の事を……


「桐生さん!本当にごめん!わざとじゃないんだ!すぐ離れるから!」

「昔と同じね。そういうところ……本当にしゅき……」

「え?」

「なんでもないわ。行きましょう」


 と、優奈は俺からスッと離れて微笑みをかけながら歩く。


 だが、歩き方がちょっと不自然であった。


 断続的に電気でも走っているようにひくついている。


「……あと、優奈でいいから。司」

 

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