第2話 映画女優と2年前の過去−2

 まさか、ハードな映画や漫画などに出てきそうなシチュエーションを直接見る日が来るなんて……


 早く警察に通報しないといけない。

 

 でも、お巡りさんが来る頃にはあの子は……


 何もできない俺が悔しそうに唇を噛み締めていると、


 女の子と目が合った。


 彼女の顔を見た瞬間、


 俺の心は熱くなって、あの胸を揉んでいる男に対して怒りが込み上げてきた。


 そして、説明できないが芽生えてきた。


 でも、素手で戦っても俺の方が絶対負けて彼女を救えない。


 どうすれば……


 と必死に頭をフル稼働させていると、


 両親の顔が浮かんできた。

 

 護身用品の専門店を経営していた父と母。


 そして俺のリュックの中には、二人との絆を証明するものが入っている。


 俺は密かにそれを取り出した。


 


 俺はスタンガンを強く握りしめた。


 そうすると、彼女の胸を一通り揉み終わった彼は、決して見ず知らずの男が触ってはならないところに手を伸ばそうとした。


「はあああああああ!!!!!」


 俺は大声を出して、男に体当たりした。


 飛ばされたチャラ男は戸惑う姿を見せながら倒れている。


 時間を与えてはならない。

 

 やつが冷静を取り戻す前に……

 

 そう思って俺は、スタンガンのスイッチを押して、パチパチと音がするそれをチャラ男のお腹にブッさすように当てる。


「っ!ああああ!!!!!!!」


 チャラ男は奇声をあげてそのまま気絶した。


「……」


 クラスであまり目立たない俺は大人の男性を凶器で気絶させたという非現実的な光景を目の当たりにして、極度の緊張を感じる。

 

 だが、俺が視線を彼女の方へ向けると、不思議と体が軽くなった。


 俺は早速彼女のいるところへ行って声をかけた。


「だ、大丈夫ですか?」

「……はい」

「ここは危ないので大通りに行きましょう。立てますか?」

「……やってみます」


 手を差し伸べようともしたが、さっきの彼女のを聞いて最大限接触しないと心掛けた。彼女が不愉快な思いをしてはならない。

  

 彼女は電柱を使って立ち上がってくれた。


 そして身震いしながら俺をじっと見つめる。


 俺は息を呑んで口を半開きにした。


 肩まで届く濡羽色の髪、切れ長の青い目に整った目鼻立ち。


 悔しいがさっきのチャラ男の感想が納得できるほどの美貌の持ち主だ。

 

 これほど綺麗な女の子は初めてみる。


 もちろん俺が通う学校でもかわいくて綺麗な女の子はいるが、目の前の少女はレベルが違う。


 それに、高校生だとは思えないほど発育のいい体も……


 ワイシャツがはだけて見える凶暴なマシュマロも、細い腰も、大きいお尻も、長くて魅力的な美脚も…… 


 俺はクズだ。


 あの気絶している男のようになりたくない。

  

 そう思って俺は後ろを振り向いた。


「ボタン……ちゃんと閉めてください」

「あ、ありがとうございます……」


 彼女はいそいそとボタンを閉めて俺たちは大通りに出た。


 歩いている途中、俺は途轍もない罪悪感に苦しんだ。

 

 なので、俺は足を止めて思い詰めた面持ちで頭を下げつつ口を開く。


「すみません!」

「え?」

 

 俺の謝罪に彼女も足を止めて当惑する。


「もっと早く助けるべきだったのに……」

「い、いや……それは……」


 俺が頭を上げると彼女は目を丸くしていた。


 怒っているに違いない。


「俺、こんなの初めてだったから、どうすればいいのか分からなくて……でも、俺がもっとしっかりしていれば、辛い思いせずに済んだかもしれないのに……だからこれは……!」

「っ!!!」


 彼女は体に電気でも走っているかのように上半身をひくつかせる。


 きっとさっきのチャラ男のせいだろう。


 俺は悲しい表情をしてリュックからさっきのスタンガンを取り出した。


 そして、それを彼女に渡した。


「これは?」

「もらってください。俺にとってとても大切なものなんですけど、あなたが持っていた方がいいです」

「大切なもの……」

「さっきみたいな人が襲ってきたら使ってください」

「……」

「それじゃ、俺はこれで!」

「ちょ、ちょっと!待ってください!」


 俺は両親からもらったスタンガンを彼女に渡してひたすら走った。


 自分の名前を教えることなく、彼女の名前を教えてもらうことなく、俺は何かに追われるように全力で走った。


 俺は体操着姿だ。俺の学校は指定の体操着はないから、彼女からしてみれば、俺は単なるジャージを着たガキのように映るだろう。

 

 つまり、もう二度と彼女と出会うことはない。

 

 そう決めて俺は家へと走った。


X X X


霧島司から助けられた女の子side


 走ってゆく彼の背中を見ながら彼女は自分の頬を朱に染める。


「……」


 そして象牙色の美脚を仕切りに動かしては渡されたスタンガンを握る手に力を入れた。


 その弾みにスタンガンのボタンを押してしまい、パチパチと音を立て始めるスタンガン。


 そして痺れてくる足。

 

 まるでスタンガンによって電気でも走っているような不思議な感覚に戸惑う彼女。


 だけど、スタンガンは虚空で生まれては消え、生まれては消えを繰り返して彼女に危害を加えたりはしない。


 だけど、彼女の中で流れる電気は足から始まって太ももを伝い、やがて


 を断続的に刺激するが、


 時間が経つにつれて断続がに変わり始める。





 

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