冬の寒いレストラン

@saruno

冬の寒いレストラン

 厳しい寒さを忘れるような暖かいレストランの室内。男たちがテーブルを囲んでいると、やがて前菜が出された。

「あれはちょうど20歳の春だったかな。横断歩道を渡ろうとしたら、暴走した自動車が突っ込んできたんだ」

「避ける暇もなかった。次の瞬間、私は車にはねられ、気づいたらベットの上に横たわっていた」

「よく死なななかったな」

「だろ?でも凄いのはそれだけじゃない。なんと無傷だったんだ。医者も驚いていたよ、こんなケースは初めてだって。当たりどころが良かったらしい」

「車を運転していた人はどうなったんだ?」

「死んだよ。かなりスピードを出していたし、まあ自業自得だろう」


 しばらくするとメインのステーキが置かれた。

「次は40歳の夏だった。楽しみにしていた外国旅行へ行くために空港へ向かっていたんだが、途中で列車が脱線事故を起こした」

「ああ、あのミソラ鉄道脱線事故か」

「ちょうどあの時先頭車に居たんだが、運転士が突然居眠りを始めたんだ。横転したのはその直後だった」

「でも乗客の犠牲者が誰一人出なかったのは奇跡だよな」

「あとで分かったんだが、運転士は飲酒運転だったそうだ。まぁ自業自得だろうな。」

「それにしてもよく先頭車で助かったな」

「ああ、実はこの時も無傷だったんだ。先頭車に乗っていた他の乗客はみんな重傷だったのに、たまたま居た場所がよかったんだろうな」


 デザートが置かれると、話も佳境に。

「最後は60歳の秋だった。駅前のオフィスビルで仕事をしていたら、突然爆発事故が起きたんだ。ほら、丸屋通商ビル爆破事件、あの時はビルの清掃業をやっていたんだ」

「あれって犯人が誤爆で死んだんだっけ」

「そうそう、ちょうどすぐ隣のオフィスで清掃作業をやっていたんだけど、爆発が起きた時に壁がうまい具合にブロックしてくれて無傷だったんだ」

「お前は本当に運のいい奴だな」

「しかも犯人以外全員無事だった」

「前の2件も悪いやつだけ死んだんだな」

「きっと神様は見てるんだよ、正直者が死ぬような世の中はダメなのさ」

「全くだな。これからも正直に生きていくことにするよ。もう80歳だけどな」

「あっはっは」

「そういえば今度はどこへいくんだっけ?」

「レラント共和国だよ、あそこは料理が絶品という噂さ」

「でも外務省から渡航自粛勧告が出ていたんじゃないか?」

「構うことないさ、オレは無敵なんだ。何があっても絶対大丈夫さ」

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